中学受験スタディ

本郷中学校の「数学教育」

 

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本郷中学校の「数学教育」


本郷中学校の「数学教育」本郷中学校は1923(大正12)年、松平賴壽(旧高松藩主松平家第12代当主)によって男子校として創設されました。戦後の学制改革で本郷高等学校となり、本郷中学校は1988(昭和63)年に再開、以降中高一貫校としてたくましさと知性を備えた男子の育成に力を注いでいます。
教育目標として「強健:心身両全にして、困難に耐えうる」「厳正:志操堅固にして、自らに厳しく中正な判断をなしうる」「勤勉:責任を重んじ、誠心誠意つねに自己の務めに精励する」を掲げ、2013(平成25)年に創立90周年を迎えます。
本郷中学校・高等学校では「個性を尊重した教育を通して、国家有為の人材を育成すること」を建学の精神として、次のように教育方針を定めています。
「文武両道」勉強とクラブ活動を両立させる努力を通して、自分を鍛え、誇りと自信を獲得し、人間としての幅を広げていきます。
「自学自習」自学自習を自然に方向づけ、大学受験を乗り越える能力と、自分の道を自分で切り拓く自信を培っていきます。
「基本的生活習慣の確立」集団のひとりとして自覚し、ふさわしい行動がとれるようにし、 友を思いやる気持ちを育み、生涯の貴重な力とします。
本郷中学校ではこの教育方針のもと、特色ある教育を行っています。国語・数学・英語をはじめとする主要教科で先取り授業を実施、なかでも数学教育は独自の工夫によって、生徒一人ひとりに高い習熟度を実現しています。

それはどのような教育なのでしょうか。今回は数学教育について取材しました。

数学の教育システムと指導の特徴


■先取り授業を実施
中学の数学の内容を2年生までに学習し、中学3年生から高校数学の授業に入ります。


・主要5教科の授業時間数(週あたり)

  中学1年 中学2年 中学3年 
国語 国語
選択国語
社会
数学
理科
英語 英語
英会話 0.5 0.5
CALL 0.5 0.5


■習熟度別授業の導入


数学は理解度に差の出やすい教科です。そこで、中学3年から習熟度別授業を行います。特徴的なのは、応用クラスより基礎クラスを少人数編成にし、より分かりやすい、丁寧な指導を実践していること。クラス間の入れ替えは学期ごとで、常に実力に合った授業が受けられます。

■本郷数学基礎学力検定試験を実施

本郷数学基礎学力検定試験(以下本数検)とは、本郷オリジナルの数学検定試験です。実施は春期・夏期・冬期の休み明けの年3回(4月・9月・1月)。それまでに学習した内容すべてが試験範囲となります。級・段位制を採用し、中学課程版は八級〜初段、高校課程版は五級〜弐段を設けています。そのうえで各学年の目標取得級を次のように定めています。

中1(中学数学) 六級〜四級
中2(中学数学) 三級〜初段
中3(数学ⅠA)  準二級〜二級
高1(数学ⅠA)  準一級〜一級
高2(数学ⅠAⅡB)準一級〜初段
高3(数学ⅠAⅡB)初段〜弐段、(数学ⅢC:理系生徒のみ)準一級〜初段

※高校生の本数検は、数学ⅠA、数学ⅡB、数学ⅠAⅡB、数学ⅢC(理系生徒のみ)の4種目からの自主選択となります(種目数は学年や検定実施時期により異なります)。

・2008(平成20)年9月実施の本数検合格者数(中学数学・数学ⅠA・数学ⅠAⅡB)<()内:保持者数>

中学数学 初段 1級 2級 3級 4級 5級 6級 7級 8級 合計
(中1)人数 3(3) 20(20) 24(24) 47(47)
(中2)人数 4(4) 13(13) 16(22) 19(32) 31(57) 21(41) - (15) - (6) 104(190)
合計 4(4) 13(13) 16(22) 19(32) 31(57) 24(44) 20(35) 24(30) 151(237)

数学ⅠA 弐段 初段 1級 準1級 2級 準2級 3級 4級 5級 合計
(中3)人数 0(0) 0(9) 0(20) 0(23) 1(48) 1(33) 2(133)
(高1)人数 6(6) 0(3) 1(10) 0(21) 2(28) 5(27) 5(47) 3(13) 1(21) 23(176)
(高2)人数 5(19) 0(12) 0(29) 0(27) 4(47) 1(38) 9(51) 0(3) - (8) 19(234)
(高3)人数 2(9) 0(14) 0(26) 1(45) 0(54) 0(42) 0(44) - (0) - (6) 3(240)
合計 13(34) 0(29) 1(65) 1(93) 6(138) 6(127) 14(165) 5(64) 2(68) 47(783)

数学ⅠAⅡB 初段 1級 準1級 2級 準2級 3級 合計
(高1)人数
(高2)人数 1(1) 1(2) 4(5) 7(11) 3(9) 9(16) 25(44)
(高3)人数 0(4) 0(8) 3(18) 1(28) 2(31) 5(41) 11(130)
合計 1(5) 2(10) 7(23) 8(39) 5(40) 14(57) 36(174)

・本数検による学習の成果は、センター試験や外部模試に反映されており、本数検が生徒一人ひとりの実力養成に大きな役割を果たしていることが明らかになっています。

本数検とセンター試験との相関(2008年3月卒業生)


本数検最終取得級(数学ⅠA)とセンター試験(数学ⅠA)

本数検ⅠA 人数 センターⅠA平均
弐段 97.0
初段 89.1
一級 17 88.8
準1級 25 82.4
2級 29 83.9
準2級 47 79.4
3級 35 77.7
未取得者 21 67.6
全国平均(入試センター) 66.3

本数検最終取得級(数学ⅡB)とセンター試験(数学ⅡB)

本数検ⅡB 人数 センターⅡB平均
弐段 90.5
初段 84.2
一級 15 78.6
準1級 14 67.9
2級 20 68.1
準2級 17 66.4
3級 24 59.3
未取得者 88 56.9
全国平均(入試センター) 51.0

本数検最終取得級(数学ⅠA)とセンター試験(5-7型900点満点)

本数検ⅠA 人数 5-7型900点満点平均
弐段 775.5
初段 732.8
一級 15 696.7
準1級 23 667.3
2級 25 670.4
準2級 35 620.3
3級 21 614.5
未取得者 15 585.0
全国平均(駿台集計) 576
591


※近年の生徒の学習意欲向上により、上位級取得者が更に増加することが期待されています。

2学期・中学1年生の数学(数量分野)の授業を取材しました


本郷中学校の「数学教育」単元は1次関数。先生手づくりのプリントを用いて授業が進められます。プリントの冒頭に「この先、関数というものが数学ではいろいろな形で扱われます。その基礎を学ぼう」と、学習のねらいがわかりやすく示されています。

まず前時の復習から。先生が質問します。「“関数”って何ですか?」――指名された生徒が自分で考えながら答え終わるまでの間、先生はだまって待っています。答えたあと、関数の定義についてもう一度全員に確かめてから言いました。「関数とはどういうものか、たまに自分の頭の中で説明してみよう。はじめはちゃんと説明できなくてもかまわないから、それを繰りかえそう。言葉で説明できることが大事ですよ」

前時の問題の続きに入りました。先生が質問をしながらみんなで解いていきます。このときも再び“関数”の定義を確認しました。次に、同じ問題を使って発展的学習として不等式に入っていきます。先生は「不等式は数量分野の授業でこれからくわしく学ぶことになります」とことわった上で、≦、≧の意味を説明しましたが、あくまでも基本的なことのみにとどめ、次に進みました。

次は“変域”“定義域”の学習です。先生は時々「予習してきた人はわかりますか?」と言いながら質問していきます。プリントの片隅に「復習すべきテキストの範囲」「復習すべき問題集範囲」「予習すべきテキストの範囲」として、それぞれページが指定してあります(「アドバンスト代数Ⅰ・Ⅱ」および「アドバンスト代数Ⅰ・Ⅱ問題集」〔Z会出版〕使用)。

本郷中学校の「数学教育」一通りの学習が済んだところで、プリントの問題を各自解き、全員で答え合わせ。そのとき先生は「変域と定義域について学びましたが、今日はこれらの言葉の理解よりも、“関数”の問題が解けること、つまりxとyの値を解けることが大切ですよ。それができましたか」と問いかけていました。

次のプリントに入り、比例の学習に進みます。プリントの冒頭に「小学校でも習った、『比例』について、今度は数学的に考えてみよう」と学習のねらいが示されています。そのねらいに沿って、小学校の復習問題から始めました。その上で、残りの時間で次の問題を各自解きます。そのとき先生は考え方の手順についてヒントを出しました。「まず文章を読んで、それを数式化する。次に代数的な処理をする、つまり計算ですね。この2段階の作業を頭のなかでやるのですよ」。答え合わせを全員で行ったとき、二次関数のことに一言だけ触れて授業は終わりました。

先生は学ぶポイントや予習範囲、復習範囲、考え方の手順など、要所要所で簡潔に説明し注意を喚起しながら授業を進めているのが印象的でした。そうすることで、理解するべきことの優先順位や、学習段階、思考手順などを自身で意識しながら学べます。たとえば、変域と定義域の学習のところでは、まだしっかりと意味を理解できない生徒もいるような様子がうかがえましたが、先生はそこで「言葉の理解よりも、ここでは関数の問題を解けることが大切」と学習のポイントを示します。その中には生徒へのさりげない励ましも含まれているように感じられました。また、予習してこない生徒を叱ったりするのではなく、自主的な予習をうながすようなプリント構成や教え方を実践していることも印象的です。そのせいか、生徒の学習態度は真剣で、配られたプリントをルーズリーフにきれいに綴じている生徒も。また自分が解けた問題は遠慮せずに挙手するなど、意欲の伝わってくる授業でした。

中学1年生の数学担当 保田 啓介先生のお話

本郷中学校の「数学教育」一次関数は本来中2の単元ですが、本校では1年生の2学期と3学期をかけて学習します。それだけ授業の進度が速いのですが、本校では数学の好きな生徒が多く、授業によくついてきています。

授業のはじめに定義についていくつか質問しましたが、それは算数と数学の区別をつけるねらいがあります。算数は答えをだすことが重要でしたが、数学はそれに加えて「なぜそうなるのか」というプロセスを大事にする教科です。大学入試に求められる数学もまさにこれですね。また、中学1年生には考える手順についてよく教えます。問題を感覚だけで解くのではなく、理屈もしっかりと考えて解こうと。論理的に考える力をつけさせたいと考えています。

わざわざ復習範囲や予習範囲をことわって質問するのは、まず復習しないといけないんだと自覚させたいから。予習についても、やってきている生徒は手を挙げさせるなどして、みんなに知らせます。数学は積み重ねが大事だということを教えたいのです。

宿題は全員が持っている「アドバンスト問題集」からいつも出しています。それを各定期考査ごとに2回提出させます。小テストは定期試験のちょうど真ん中あたりの時期に行います。テストの範囲は原則宿題と同じですが、宿題をこなすこととテスト勉強は別なので、宿題だけで終わらず、自ら学ぶ生徒になってほしいですね。

数学科主任 吉村 浩先生のお話


本郷中学校の「数学教育」数学科の教育方針は、自分の頭で考え、課題を解決する力を養うことです。数学に必要な思考力は、どの教科にも関連しています。そのための土台となるのが「あたりまえのことを、あたりまえにできる力」すなわち「基礎力」です。その意味で、本数検には大きな意味があります。本数検の大きなねらいは、数学の基礎力をしっかりと身につけさせることにあります。

6年前に本数検を始めるまでは、休み明けの復習として課題テストを行っていました。しかし、これだと1回ごとに終わってしまい、積み重ならない。一夜漬けの勉強で済んでしまうのも問題でした。継続的に学習する習慣を身につけさせ、実力を養うにはどうしたらいいか、他の教科の先生にも相談していました。そんな中で、級を取り入れるというアイデアが生まれました。日本人は級とか段とか馴染みがあるし、一つの大きな連なりと受けとめることができますね。範囲も学期ごとの復習ではなくて、それまでに学んだことすべてとなります。

級の長所はまだほかにもあります。普通のテストだと点数に目がいってしまい、いい点を取れないとお母さんに叱られてしまう(笑)。でも、級を採用することでご家庭でも子どもの努力をほめることができますね。本人にも励みになります。

最も肝心なのは、生徒たちが本気で本数検に臨むことです。どうしたら真剣に取り組むか、私たちはいろいろと考えました。その一つは、生徒が「本数検をがんばることは、部活をかんばることと同じようにカッコイイ」と受けとめられるようにすること。そこで、全校朝礼で部活の表彰と並んで、本数検の上位級・段取得者を表彰することにしました。生徒たちの大きな拍手が起きますよ。また、優秀者名や優秀答案の掲示もします。生徒は興味を持って見ていますよ。部活の先輩の優秀答案がはり出されたりすると「おおっ」となる。こうしたことがいい刺激になっています。

本数検の問題は数学科の教師が作っています。私たちの手づくりの検定試験をこれからも大いに発展させていきたいですね。

教頭 佐久間 昭浩先生のお話

本郷中学校の「数学教育」本校の教育方針は「文武両道」「自学自習」「基本的生活習慣の確立」の三つであり、これをどう生徒に伝えていくかが、私たちにとっての大きな教育課題です。その際、重視しているのは、生徒の自主性です。

たとえば「生活習慣の確立」に関する指導として、生徒たちに「生活の記録」をつけるノート(1年生はプリント)を持たせています。中学1年生は起床時間と就寝時間を毎日つける。2年生になったら毎日の勉強時間と部活の時間の記録をつける、3年生は試験前の勉強スケジュールを立てるなど、学年に応じて少しずつ内容を多くしていきます。ここで大事なのは、「1時間勉強しなさい」ではなく、「自分で決める」ということです。生徒に振り返らせ、自ら生活習慣を確立し、自律性を養ってほしいと考えます。

本郷中学校はこれまで面倒見のいい学校と言われてきました。ところが、教師が手をかけすぎて、その結果、生徒が自分でやらなくなってしまった。私たちはそれを反省し、生徒が自分で考え、実行するためのしくみをつくることこそが大事だと考えるようになったのです。

本数検はそのしくみの柱となるものです。生徒が「自学自習」するためのしくみをつくり、あとは生徒に任せる。去年自習室もつくり、生徒が自由に使えるようにしました。

中学1〜2年生対象にやっていた夏期講習もやめました。教師が手をかけて勉強させるだけの講習はやめようと。その代わりに教養講座を開いています。たとえば「デジカメ」「電子工作」「バーチャルの時代」「アンニョンハセヨ」「ランチを作ろう」「おやつを作ろう」「原理を自分で探そう」「英語であそぼう」などバラエティーに富んだ講座を10余り開き、教員だけではなく、保護者やOBに講師を務めてもらっています。最近では、経営コンサルタントの保護者に来てもらって、任天堂の“Wii”の成功の秘訣などについて話してもらいました。あとで「ああいう仕事をするためにはどんな大学・学部に入ったらいいか」と質問してくる生徒もいましたよ。

毎日の朝読書もやっていますが、この活動に学年を超えた縦のつながりを生かせないかと考えているところで、たとえば「先輩から後輩へ勧める一冊」といったリストをつくり、後輩へつなげていけたらと思っています。

生徒をどう動かすかがすべての基本です。近年本校では、自分で考え、行動できる生徒が増えてきました。これからもこうした生徒を育てていきたいと考えています。

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