村田学園小石川女子中学校
村田学園小石川女子中学校は、2008(平成20)年4月に開校しました。現在第一期生が、併設の村田女子高等学校の先輩たちとともに、文教地区本駒込に建つ光あふれる美しい校舎で学んでいます。
村田学園の起源は、1909(明治42)年創設の「銀行会社事務員養成所」。同養成所では簿記や会計、税務などを教え、近代化の進む日本において実業教育のさきがけとなりました。以来、一貫して「時代が求める人材、社会に貢献できる人間の育成」を目標に教育活動を展開、同養成所は「村田簿記学校」、「村田女子商業高校」等へと成長します。その教育は現在、東京経営短期大学、村田女子高等学校、そして村田学園小石川女子中学校へと引き継がれ、来年で創設100年を迎えます。
論理的思考力の育成―「サイエンスレディ」を育てるために
村田学園小石川女子中学校では、教育方針の柱として「サイエンスレディ」の育成をかかげています。「サイエンスレディ」とは、物事を科学的・論理的に探求できる女性のこと。理数分野の教育に限らず、国語・社会・英語などにおいても「なぜ」「どのように」など物事を論理的に導き出す力、すなわち「論理的思考力」の育成をめざしています。
論理的思考力を身につけるための豊かな学びの一環として、村田学園小石川女子中学校が重視している取り組みの一つに、「コミューンプログラム」があります。友だちづくり、学級づくり、自己理解のためのプログラムです。
では、「コミューンプログラム」とは、具体的にどのようなものなのでしょう。そして、「豊かな学び」との関係は? 今回、村田学園小石川女子中学校の「コミューンプログラム」を取材してきました。
「コミューンプログラム」で豊かな人間関係・充実した学びをめざす
「コミューンプログラム」(*注)は土曜日の「道徳の時間」内で、毎月1回行われます(土曜日は60分授業。平日は50分授業)。
はじめに、その年間指導計画と主な活動目的・内容を紹介しましょう。
■4月「はじめまして」………〔不安の軽減〕担任の先生や新しい友人一人ひとりと自己紹介しあいます。
■5月「サイコロトーキング①」………〔友人関係を広げる〕友だちってこんな人、私ってこんな人と、相互理解するきっかけづくりをします。孤立や不登校防止にも役立てます。
■6月「インタビューゲーム」………〔情報収集力を養う〕ゲームを通じて情報収集方法や人に何かをたずねる方法、発表する力を養います。
■7月「がんばり見つけ①」………〔自己肯定感を高める〕クラスメイトと私の、がんばっているところを見つけあって発表します。
■8月「自己発見 なんでもバスケット」………〔クラスの一体感を高める〕友だちとの共通点と相違点を見つけて、お互いを認め合い、理解を深めます。
■9月「サイコロトーキング②」………〔不安の軽減〕夏休み明けにサイコロトーキングに再チャレンジ。新たな気持ちで互いの理解を深めます。
■10月「共同コラージュ」………〔協調性を養う〕チームで一つのコラージュを制作し、共同作業の練習を行います。
■11月「がんばり見つけ②」………〔自己肯定感を高める〕行事の多いシーズンの後に、お互いがんばっていることを再発見して、学校生活に自信をつけます。
■12月「リスニング上手になろう」………〔リスニング力を高める〕人の話を聞ける人になるために、“傾聴”の練習をします。
■1月「3つのコミュニケーション」………〔望ましいコミュニケーション力とスキルの獲得〕いじめなど理不尽なことが起きたらどうしたらいい? その対処法を学びます。
■2月「人に頼ろう」………〔自己表現力、礼儀の学習〕ロールプレイを行いながら、人にものを頼むときの基本的なルールや礼儀を学びます。
■3月「私の人生これが大切」………〔キャリアを考える〕“私にとって大切なこと”を改めて考え、人に伝えることで、本当に大事なことを見つめます。“将来どうありたい?”を考えるきっかけづくりにもなります。
*注 コミューンプログラムは教育学博士で長年にわたり全国のスクールカウンセラーの指導に取り組んでいる明治大学教授・諸富祥彦先生の監修のもとで行っています。毎回の具体的な活動内容は、諸富先生と打ち合わせの上、クラスの状況に応じて柔軟に検討します。また、すべての教員がカウンセリングの研修を受けています。
=取材報告=
9月「サイコロトーキング②」を取材しました!
2学期がスタートして間もない9月某日の土曜日1時間目。初秋のすがすがしい陽射しが降り注ぐ気持ちのいい教室で、生徒たちがコミューンプログラムの第6回目「サイコロトーキング②」を始めていました。
サイコロトーキングとは、サイコロの目によってあらかじめ質問を決めておき、自分が振って出た目によって質問に答え、さらにみんながそれについて質問し会話のキャッチボールをするというもの。
まずウオーミングアップ。生徒たち全員が担任の先生とジャンケンゲームをします。生徒は6人ずつ2グループに分かれ、話し合いなどを交えながら楽しくジャンケンを繰り返しました。立ったり座ったりの動作も加えることで、無理なく心身がほぐれていくようすが伝わってきます。
リラックスしたところで、先生が今日のサイコロトーキングのテーマを黒板に示します。「みんなどんなことを思っているのだろう-新しい発見!!-」
次に、サイコロの目ごとの質問を書き出しました。みんなは興味津々で読み、「食べておいしかったものは焼肉!」とだれかが答えを先取り。「あらあら、質問されてから答えてね」と先生。教室は笑い声に包まれます。質問は以下の通り。
1. 夏休みの思い出
2. 夏休みに見た映画や本
3. 夏休みに行って楽しかったところ
4. 自分の部活自慢
5. 最近食べておいしかったもの
6. 2学期がんばりたいこと
サイコロトーキングに入る前に、担任の先生と補助の先生でモデル(見本)を示し、会話のキャッチボールをして見せます。その上で、担任の先生がルールを確認しました。
1.人の話は最後まで聞きましょう。
2.相手を傷つけるような質問はやめましょう。
3.質問にはすべて答えましょう。
4.班長さんが司会進行をしましょう。――
先生がストップウオッチを持ち、時間を計ります。一人につき1分で質問・応答をします。1周6分。これを3回繰り返しました。途中、先生がさりげなくグループのようすをみてまわりながら、質問の手助けなどを行います。
印象的だったのは、回を重ねるごとに生徒たちが活発になっていったこと。はじめは互いにちょっと遠慮がちだったのが、2回目からは質問が次々と出され、自然な会話へと発展していき、1分では足りないくらいに。大きな変化が見られました。
一人につき1分間では短く感じられるかもしれません。しかし、それによって全員が自分自身のことを確実に3回は話すことになります。自分のことを話すのが苦手な人も、サイコロトーキングでは無理なく話すことができ、しかも会話のキャッチボールへと広がっていくのです。
プログラムのしあげとして、先生が全員に用紙を配布。生徒は「友だちの新しい発見」を4分間で自由に書き込み、グループで回し読みします。そこでは生徒たちの熱心に読む姿が見られました。最後にグループで相談し、いちばんいいものを1枚選んで発表したところで、ちょうど60分に。楽しく打ちとけた雰囲気のなか、今日のコミューンプログラムは終了しました。
教務・進路指導主任 小林 隆司先生にうかがいました。
―コミューンプログラムのねらいはなんでしょうか。
中学・高校時代は思春期に当たります。毎日の学校生活に占める友人関係の比重は小学校時代よりも大きくなり、そのかかわりもより深いものになります。中学・高校生活が充実し豊かな学びが実現するかどうかは、安心してつきあえる友人がいて、互いに心が触れあえるクラスであることが大きな決め手といっていいでしょう。
コミューンプログラムの大きなねらいは、友だちづくり、集団づくりです。特に1年生のはじめは心の交流を重んじています。
―コミューンプログラムに対する生徒の反応は。
みんなこの時間を楽しみにしています。よく「次は何をやるの?」と聞いてきますよ。今ちょうど1学期と夏休みの合宿と今回の授業の計6回のプログラムを経たところですが、生徒たちは学校生活への安心感を持てるようになってきています。相手を傷つけない、人の話を聞こうという態度も身についてきたと思います。入学当初は、「うざい」などの言葉が聞かれることがありましたが、今ではそれを口にする生徒はいなくなりました。
―基本的なことが身についてきているのですね。
はい。よくいわれる「キレる」という行為の裏には、自分の思いを言葉にできないことのつらさがあります。自分の感情を言葉にできれば、「キレる」といったことは防げるのです。また、相手を傷つけたりしたときは「ごめんなさい」と言葉にして謝ることができるようになること、これも心の交流には大切です。中学段階でこれらをしっかりと学ばせていきたいと思います。
―今日のサイコロトーキングでは、生徒どうしの自然な会話へと発展していることが印象的でした。
そこに大きな意味があります。一人ひとりが「話を聞いてくれている」「自分が受けとめられている」と感じることで、自然と自分を出せるようになり、相手の話も聞けるようになります。
―指導上注意していることは?
「相手の否定・批判はやめよう」というルールをいつも確認しています。また、教師がリーダーとなってきめこまかく指導すること。今日もはじめにサイコロトーキングのモデルを示しましたね。これも大事なことで、「好きにやりなさい」ではだめなのです。今は子どもたちの横のつながりが希薄になっています。だから、場面を設定し、モデルを示す。その中身を自分たちで楽しみながら応用していくようにすると、自然な交流へと発展するのです。
―コミューンプログラムと教科の学習との関連についてお聞かせください。
教科担当の教師たちと定期的にプログラムの進展状況について確認し合い、教科指導に反映させています。たとえば授業においても「人の話をよく聞く・否定しない」などをルールとし、発表形式やグループ学習を多く取り入れています。そして、生徒の疑問や発見を大切にし、自ら解決するような展開をこころがけています。
―コミューンプログラムでの学びは学習に生かされていますか。
おおいに生かされていると思います。授業中、生徒たちは活発に質問し、先生や他の仲間たちの話によく耳を傾けます。8月の合宿は本校の北軽井沢高原寮で行いましたが、ここではコミューンプログラムだけでなく、理科の植物観察や採集も行いました。このときも生徒はたいへん活動的で、先生にたくさん質問し、自分たちでいろいろな植物を熱心に観察していましたね。学ぶ姿勢が育っているという手ごたえを感じました。本校の教育方針「サイエンスレディ」の育成の第一歩は、「なぜ?」「どうやって?」と自ら疑問を持ち、解決しようとすること。コミューンプログラムはここにも力を発揮する教育プログラムであるといえます。
―保護者の反応はいかがでしょう。
はっきりと興味を示してくれています。不登校やひきこもりがどの子どもにも起こりうる現在、保護者にとってわが子が友だちをつくれるかは大事な関心事の一つです。学校説明会でも、コミューンプログラムに共感を示す保護者が多くいます。子どもの学習意欲を高めるためにも、こうした取り組みがプラスになることを理解してくれていると思います。