中学受験スタディが特別取材した私立中学の特徴ある教育
創立123年を迎えた芝中学校。明治初期に浄土宗の子弟教育をめざしてつくられた浄土宗学東京支校を起源として、1906(明治39)年に一般に門戸を開き芝中学校となりました。
芝中学校の校訓は「遵法自治」。
「遵法」とは真理に従うこと、「自治」とは自主・自立の精神で自分を治め、自己を確立することを表します。
この校訓のもと、生徒一人ひとりの自主性を尊重し、学力の充実と豊かな人間性・社会性の育成に力を注いでいます。
芝中学校の教育の特色の一つに、充実した校外活動があります。なかでも理科は体験的学習を重視しており、古くから校外学習が行われています。
今回、中学2年生が学年全体で毎年秋に行っている地学の校外学習に同行し、その模様を取材しました。
11月初旬、中学2年生7クラス280名余がバスに乗り、秩父盆地へ向けて出発しました。
好天に恵まれ、まさに校外授業日和です。
秩父盆地は日本の地質学の発祥地といわれ、明治期より研究が行われた地域。
1700万年~900万年前はこのあたりが海であったことから、海成の地層が観察できます。
10時15分、採集・調査を行う蓼沼に到着。目の前を澄んだ荒川が蛇行して流れ、あたりの山々は少しずつ色づき始めています。
今日行う作業は、
(1)河原の石を50個集め、鑑定してそれぞれの比率を求める。
(2)閃緑岩を採集(持ち帰ってスケッチ)。
(3)化石を3種類以上採集(持ち帰ってスケッチ)
――など。
生徒は2人1組でハンマーとたがねを持ち、さっそく石の採集にかかりました。
ハンマーで石を割り、断面を観察します。初めはうまく割れませんでしたが、すぐに慣れ、そうなるとみるみる分類作業が楽しくなるようです。
2人の地学の先生を囲むようにして、生徒が次々と質問にやってきます。
「断面がキラキラしているけど、これは何ですか?」
「ほう、きれいに割れたね。これは方解石です」
「先生! まず石のどこを見たらいいんですか?」
「はじめに外を見て、次に割って中を見てみよう」
「これって石灰岩ですか?」
「どうかな? 授業で石灰岩を見ているよね」
「先生、割ったらここが光っています!」
「おお、これは鉄と硫黄でできた黄鉄鉱だ。授業でやったね。これは珍しいよ。よかったね」
生徒の手に握っている石を見せてもらうと、断面のところにわずか1ミリ四方ほどの美しい金色の立方体のようなものが頭をのぞかせています。
生徒たちは実際を目にして、新たな疑問や発見、興味・関心が湧きあがってくるようです。
顔をうつむけて慎重な手つきで断面にカッターを当てている生徒に、何をしているところか聞いてみました。
「硬さを確認しているところです。こうやって傷がついたら柔らかい石で、石灰岩。硬いのは傷がつかないから、石灰岩じゃありません」
先生の手づくりの「中2校外実習作業帳」を参考にしながら、石を分類していきます。
ある生徒は、二人で採集した石をきれいに分類していました。どういう石が採れたのでしょう。生徒は指さしながら教えてくれました。
「石灰岩、砂岩、チャート、緑色岩、閃緑岩。これは・・・ホルンフエルスかな」分類作業はどうでしたか、という質問には「けっこうすぐに分けられました」と余裕の返事が。
場所を少し移動して、今日の学習のもう一つの目的である化石の採集にも取りかかります。
生徒たちは岩場にはりつくようにして発掘。やはりここでも先生に盛んに質問します。
その手に掲げる石の断面にできた薄いシミ、くぼみ、楕円形の小さなふくらみ、細い筋、黒っぽいかすかな影など、よく観察しなければ見落としてしまいそうなものを、生徒は見つけてきます。
これはカニの巣穴の化石だ。
それはマキガイのあったあとのくぼみかな。
ソデガイの化石だね。
この筋は植物の繊維・・・
先生の説明に耳を傾ける生徒たち。
ある生徒の発掘した石には、小さな何かの形が映っています。
「あ、葉っぱの化石だ。ずいぶんはっきりとした形で残っているね」
そう先生に教えられ満足そうに自分の場所に戻っていった生徒に、採集の感想を聞いてみると、真面目そうな面持ちで答えてくれました。
「いろいろな種類の化石や石があることを実際に知りました。発掘も分類も難しいです。でも葉っぱの化石が見つかったからよかった」
生徒たちはだいぶ鑑識眼ができてきて、自分で観察しています。
「これは魚のウロコくさいぞ!」
「これは植物の炭化したものだ、あーオレは石を割るのが楽しみだ!」
「おーい、こっちはエキサイトしてるぞ!」
「そっち化石どんくらい見つかった?」
「2個見つけた、でもなぜか1個消えたよ・・・」
地学の菊池康浩先生は次のように話してくれました。
「校外学習に行くと生徒たちは喜びますよ。なにより本物を見られるから。
授業でも石の分類や化石の見方などを事前に学んでいますが、やはり実際のものを目にして、初めて生き生きと考えるようになります。
石をどうやって観察したらいいのか、ハンマーの割り方はどうか・・・、興味をもって自ら考える力を養うためにも、体験的学習は大事です」
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午後1時。生徒たちは2時間半にわたる実習を終え、昼食の時間がやってきました。
お昼は持参したお弁当、そして、恒例の先生手づくりの豚汁です!
豚汁は生徒たちへのプレゼント。生徒が各自持ち寄った具材を使って、先生が手分けしてつくりました。
河原に並んだ大きな鍋が、湯気を立ててみんなを迎えます。
クラスごとにお椀を手にした生徒が列をつくり、担任の先生が一人ひとりによそってあげていました。
280人分、足りるかな?・・・もちろん大丈夫です。
「うまーい!」
「味はいいよ!」
あちこちから声が聞こえます。河原でみんなといただくおふくろの味ならぬ先生の味。おいしさもひとしおでしょう。
「おかわり欲しい人、早い者順だよ」先生の掛け声に、また生徒がずらりと並びます。大鍋はあっという間にカラになりました。
本校は教室での学習ばかりではなく、校外活動も多いゆとりある学校です。生徒たちは都会っ子だから、こうした自然に触れるのは新鮮です。といっても、学校のすぐ近くにある芝公園でいつも自然観察をやっていますよ。
中学1年生は特に校外活動が多くて、入学後の5月には荒川30kmウォークにチャレンジしたり、6月に真鶴半島で磯の生物の分類をしたり、夏休みは千葉県竹岡で臨海学校。そして今日、1年生は多摩動物公園で脊椎動物の観察をしています。
2年生は今年の夏の林間学校で、やはり秩父を訪れました。場所は毎年決まっているわけではなく、教員が生徒の様子を見ながら話し合って決めます。
私たちの学年は林間学校で経験させたいこととして、山登りを二つ、そして生徒へのご褒美となるような楽しくてちょっとスリルのある活動、それと地域の文化を学ぶ活動を取り入れたいと考えました。
その条件にちょうど合ったのが秩父で、武甲山(標高1,304m)と宝登山(標高497m)を登り、ご褒美にラフティング(川下り)、文化の学習としてそば打ちを体験しました。
こうした活動は、学年ごとの年間テーマに基づいて決めています。2年生のテーマは“仲間との関係を深めよう、友だちの輪を広げよう”。
山登りは助け合いや協力を学ぶにはとてもいい機会となりました。
この10年間で子どもたちは変化しています。本校の生徒たちはよく勉強するのです。でも、体験が少なくなり、体を張ってがんばるような経験をあまりしていない。
だから、私たちは生徒に試練を与えたい。荒川30kmウォークや1年生の臨海学校での水泳、2年生の林間学校での二つの山登りなどには、そんな思いも込められています。
来年度はいよいよ修学旅行。京都で自主研修を行うので、中2はこれからその練習に入っていきます。冬休みの課題としてテーマと場所を与え、あとはすべて自分で調査しレポートを書きます。
今ちょうどその候補を検討しているところです。幕府をテーマとした鎌倉調査、明治の文明開化をテーマとして、いち早く鉄道が開業した新橋調査、開港の歴史をテーマとして横浜調査。
どれにするか、やはり生徒の様子を見ながら、学年で話し合って決めることになるでしょう。
私たちはいつも目の前にいる生徒を見つめながら、教師間でじっくりと話し合いをして、とらわれずに教育の中身を考えています。
本校で6年間を過ごす生徒の多くが、学校が楽しいと言います。アンケートでは、高3の85%が「楽しい」と答えてくれていますよ。
教師が一生懸命やれば、生徒も必ず応えてくれる。
私たちはこれからもみんなで力を合わせて、本校ならではの教育を行っていきます。
先生が生徒を愛し、生徒に尽くしている。今日の取材で、そんな言葉が自然と胸に浮かびました。
生徒たちの気質は穏やかで、学年主任の先生もおっしゃっていましたが、優しく真面目な子どもが多いようです。
実習中に遊んでふざける生徒はみられず、全員で集合するときも、落ち着いて行動していました。
それはこの学校の先生の、生徒と向き合う姿勢と関係があるのではないでしょうか。
生徒から次々と質問を受けていた地学の先生が、終始穏やかで、静かに対応されていたことが印象的です。
担任の先生も、校外にあっても普段と変わらない様子で、あれこれ生徒に口出しはせず、けじめのある態度で指導されていました。
「遵法自治」のもと、のびやかな校風のなかで生徒たちは安心して先生を慕い、尊敬している。そんな生徒と先生の良い関係が、この学校では昔から変わらず保たれているのだろうと感じられました。
最後に、先生の愛のこもった豚汁ですが、実は手も込んでいます。
水は秩父のおいしい湧水を、道の駅でポリタンク6個にドクドクと汲んできます。そしてこれまた地元産のコクのある味噌を使用。マキと大鍋も持参。
それらすべて武藤道郎先生の役目。武藤先生は入試委員長ですが、この日だけは豚汁主任兼物資調達・運搬係に。調理も先生が采配を振るいます。
武藤先生は次のように話してくれました。
「うちの校長は子どもの教育について、生徒のお父さんやお母さんに、“手を離して抱きしめる”と語っています。
子どもを愛する心をもち、しかし手出ししないで、ちょっと離れてしっかりと見守る。それが大事であると。
本校の校訓・遵法自治にも通じる考え方だと思います。教師集団も長い伝統のなかで成熟し、若い先生も先輩教師とともに力を発揮しています。
豊かな教育力を備えた学校だと自負していますよ」