和洋国府台女子中学校の「理科教育」
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和洋国府台女子中学校の「理科教育」
和洋学園の創設は1897(明治30)年。和洋裁縫女学院が堀越千代女史によって東京・麹町区に設立されました。戦後間もなく和洋九段女子中学校および高校(千代田区)、和洋国府台女子高校(市川市)が開校。続いて1949(昭和24)年に和洋国府台女子中学校が開校、豊かな自然環境と古い歴史を持つ市川市国分の地で中高一貫教育がスタートしました。
「和洋」という校名は「和魂洋才」の精神、つまり日本の伝統文化を大切にしながらも、海外の優れたものを積極的に取り入れる姿勢を表しています。百余年の伝統を持つ和洋学園は今日、和洋女子大学・大学院を併設、新しい時代を生きる女性の育成に力を入れています。
和洋学園では教育方針として、「中学・高校・大学までの一貫教育の場として恵まれた環境に施設設備を整え、和魂洋才を基調として明朗和順の徳性を涵養し、実験学習を重んじる学習と、徹底した生活指導に意を注ぎ、有為な日本女性を育成する」ことを掲げています。
この教育方針のもと、和洋国府台女子中学校では理科の指導に力を入れ、ことに観察・実験を充実させています。
それは具体的にどういう教育なのでしょう。今回は理科教育について取材しました。
理科教育
■ねらいと学習ポイント
理科では各学年で実験・実習・観察を取り入れ、また課題研究に取り組むことで、探究方法を学習し科学的思考力や応用力を養うことをねらいとしています。あわせて早期から理科への興味をはぐくみます。
中学ではⅠ分野(化学・物理分野)・Ⅱ分野(生物・地学分野)ともに基礎的実験・観察に重点を置いた学習を展開しています。高校では1年次で化学を必修とし、物質を中心に自然界の基本的概念や原理を理解させた上で、2年次で選択制を取り入れ、3年次では進路に対応した演習(化学・生物・物理)を開講しています。
中学理科では次の項目を学習のポイントとします。
中1 身の回りの物質や現象を対象とし、基礎的実験の技能やまとめ方を習得する。双眼実体顕微鏡や光学顕微鏡を使ってさまざまな植物のつくりやはたらきをじっくり観察する。また、火山噴出物、岩石標本の観察も行う。
中2 実験によって物質の変化や量的関係を原子分子レベルで理解する。身近な生き物に実際に触れ、体のしくみ、行動を学ぶ。さらにそこから、人体に発展させ、知見を広める。
中3 エネルギーの実験データ処理を通して、基発明な物理法則を理解する。また、科学Ⅰの教科書を用い、物質量まで先取り学習を行う。土壌動物の観察や大気汚染調査を通して環境保全について学習する。 四季の天体観測および太陽系について学習する。
■中学1・2年生の理科実験項目一覧(部分)
1年生
| Ⅰ分野 | Ⅱ分野 | ||
|---|---|---|---|
| 1 | 三態変化(状態変化) | 1 | 校庭の自然観察 |
| 2 | ガスバーナー、マッチの取り扱い | 2 | タンポポ種子または頭花の標本 |
| 3 | べっこうあめ作り | 3 | アブラナ、エンドウの花の観察 |
| 4 | 物質の密度の測定 | 4 | マツの花のつくりを調べる |
| 5 | 分留(水・エタノール) | 5 | コケ植物、シダ植物の観察 |
| 6 | 気体の発生(CO2,H2,O2) | 6 | ソウ類 葉緑素の抽出 |
| 7 | アンモニアの性質 | 7 | 水中の微生物の観察 |
| 8 | 水溶液の液性 | 8 | 茎や葉のつくり |
| 9 | 中和反応 | 9 | 光合成のはたらき |
| 10 | 光の反射・屈折 | 10 | 蒸散のしくみ |
2年生
| Ⅰ分野 | Ⅱ分野 | ||
|---|---|---|---|
| 1 | 磁力線の観察 | 1 | 魚類(マアジ)の体のつくり |
| 2 | コイルに流れる電流と磁界のようす | 2 | 脊椎動物の観察 |
| 3 | フレミングの法則 | 3 | 軟体動物(アサリ)の解剖 |
| 4 | レンツの法則 | 4 | アブラムシ(昆虫)の観察 |
| 5 | パンケーキ作り(電力量を調べる) | 5 | タマネギの細胞・ヒトの細胞 |
| 6 | カルメ焼きづくり | 6 | エネルギーの取り出し |
| 7 | 熱分解(NaHCO3) | 7 | 栄養分(有機物質)の特徴 |
| 8 | 水の電気分解 | 8 | 消化酵素のはたらき |
| 9 | 鉄と硫黄の化合、スチールウールの燃焼 | 9 | ブタの心臓の観察 |
| 10 | 質量保存の法則 | 10 | カエルの解剖 |
3年生
| Ⅰ分野 | Ⅱ分野 | ||
|---|---|---|---|
| 1 | バネの長さとつりあい&慣性 | 1 | ソラマメの根端細胞の細胞分裂 |
| 2 | エネルギー保存の法則 | 2 | 花粉管の観察 |
| 3 | 炎色反応 | 3 | カビ・キノコ・バクテリアによる分解者の役割 |
| 4 | カイロ制作(反応熱) | 4 | ザルツマン法によるNO2分析 |
| 5 | ボルタ電池(酸化・還元) | 5 | 身近な物質のpH |
| 6 | 太陽の日周運動・太陽黒点 | ||
| 7 | 太陽系のつくり1(主な惑星・惑星の軌道半径と直径) | ||
| 8 | 天球3(恒星の日周運動「星は一日にどのように動くのか」) | ||
| 9 | 惑星の見え方 天球上の火星の動き | ||
| 10 | 実習 オリエンテーリング 学校周辺の地形 | ||
※以上2008年度。項目や順序は変更されることがあります。
■実験・観察の実施状況
理科の授業は週4時間(中学1〜3年生)、うち1〜2年生は各クラスとも週2時間は実験・観察に当てています。理科実験室は理科Ⅰ分野・Ⅱ分野の2つの実験室を用意。実験室には剥製・標本、動植物など学習教材も豊富にあります。
中学2年生(2学期)の観察・実験を取材しました
Ⅰ分野:実験・カルメ焼き作り
今日はグループに分かれてカルメ焼きを作ります。
白衣を着た生徒が3〜4人ずつの小グループに分かれ、実験用テーブルに着席しました。先生は前時の復習から始め、次に今日のカルメ焼き作りについて手順と実験のポイント、注意事項を説明します。それぞれのテーブルには、カルメ焼きの作り方について写真つきの説明書も配られています。
先生の説明がすむと、生徒が必要な器具を取りに来ていよいよ実験開始。「だれが割り箸でかきまぜる?」「温度を測る人はだれにする?」……役割分担を話し合っているグループもあります。
実験が始まると、あちこちから先生を呼ぶ声が。先生と実験助手2名が手分けしてグループを回り、質問に答えアドバイスします。作り方の手順や砂糖に加える水加減、重曹の加減、割り箸でかきまぜて火から下ろすタイミング等、自分たちでやってみると一度目はうまくいきません。そこでどのグループも再挑戦。
2回目、3回目とやりなおすうち、「センセー、教えて!」の声は聞かれなくなりました。説明書をじっと読む生徒、水加減・火加減を覚えて試す生徒……真剣そのものの表情で実験に熱中しています。成功するまで何度もねばり、やがてあちこちのグループから「できた! やった!」と歓声があがり始めました。こんがりきつね色のカルメ焼きがわら半紙の上に大事そうに乗っています。
「平等に4等分だよ。どうやって4等分する?」「じゃんけんで勝った人から食べよう!」楽しい試食会が始まりました。「甘い」「苦い」いろいろな感想が飛び出します。先生に試食をすすめるグループも。筆者のところにも生徒がやってきて「よかったらどうぞ」とおすそ分けが。クッキーのような甘さが口にひろがり、なかなかのお味でした。
授業の終わりには先生から片付けの指示があります。生徒はそれに従ってテキパキと片付け、授業は終了しました。
Ⅰ分野担当 大木 亮子先生のお話
2学期前半に炭酸水素ナトリウム(重曹)の熱反応を学び、中間試験の範囲となったので、今日はその復習をかねてちょっと楽しい実験をやりました。生徒は食べることは大好きなので、くいつきも余計いいですね(笑)。
中学2年生はもう実験室に来ることは慣れ、白衣も自分から着るようになっています。薬品を扱ったりするから、全員が必ず白衣を持参しなくてはなりません。白衣を着ることで緊張感も持てますね。生徒たちには実験用の制服だよと教えています。今では着ていないほうが恥ずかしいと感じるようになっていますよ。実験によっては安全メガネなども使い、事故のないよう努めています。
実験はおよそ2〜3回の授業に1回は行っています。単元によっては教室での授業と実験と交互に行うこともあります。中学1年〜2年生は特に実験頻度が高いので、スケジュールを生徒にあらかじめ伝えておき、時間を守るよう習慣づけています。
実験の授業は、教室での授業よりどうしても私語が多くる傾向があります。しかし、実験への集中をうながし、事故やけがのないよう十分に注意して授業を進めるよう心がけています。理科に興味を持たせることが、実験や観察の大きなねらいの一つであると同時に、安全面に気を使うことをいつも忘れないようにしています。
Ⅱ分野:ブタの心臓の観察
今日は実際のブタの心臓を観察します。
観察・実験は生徒全員が各自持参した白衣を着て臨みます。先生はまず前時の復習として、心臓の働きと血液の流れについて確認しました。
次に、クラスを2グループに分け、それぞれにブタの心臓を示しながら右心房・左心房等部位を解説した上で、観察のポイントとして自分の目で部位を確かめること、心臓をスケッチすることなどを説明。生徒たちは興味津々で先生の手元をのぞきこんでいました。
ブタの心臓が4〜5人の小グループに一つ配られました。生徒はビニール手袋をはめ、観察を始めます。その間、先生はグループを回り、心臓を指さしながら観察ポイントを具体的に教え、生徒に問いかけます。「指の感覚は繊細だから、自分の指で心臓を触ってみよう。どんな感触がありますか」「ここが左心室、右心室だね。触るとどんな違いがわかりますか」――生徒たちは心臓を触りながら答えます。「左心室のほうが右心室より厚いです」「そうだね。では、その理由を考えてみよう」――そう問いかけてグループを離れました。
先生は全体を一巡すると、再びグループを回り始めます。生徒たちに右心室から肺動脈へ、左心室から大動脈へとストローを挿すよううながし、血液の流れを確認させます。「肺に血液を送るのは右心室。全身に血液を送るのは左心室。そのことと、なぜ左心室のほうが厚いのか、その理由を関連づけて考えてみよう」
先生はさらにグループを回り、今度は心臓を引っ張ってみるよううながしながら、生徒とやりとりをします。「心臓は引っ張っても切れないよ。それだけ心臓は強いのかな、弱いのかな?」「強い」「そうだね。なぜ心臓はそんなに頑丈なのかな?」「血液を全身に送るから」「そうだね。では動脈と静脈の違いを調べてみよう」「動脈のほうが太いです」「ではその理由は?」「血液の流れる勢いが違うから」……生徒は思ったことを次々と口にしていました。
授業中、生徒たちはくり返し心臓を触り、血管を調べています。配られたプリントには「心臓の外形のスケッチと開いたスケッチ」「右心室と左心室の特徴をスケッチしよう」といった項目があり、それらについてくわしくスケッチし、感想を書き込む生徒たちの姿が見られました。観察に無関心だったり、いやがったりしている生徒は見受けられず、みんな熱心で、積極的なようすがうかがわれました。
授業の仕上げとして、先生が投げかけた質問について、全体で答えを確認。さらに先生が問いかけます。「今日もクエスチョンを見つけましたか? 自分なりのクエスチョンを持って帰ってくださいね」――そしてプリントを提出、全員で後片付けをして終了しました。
観察・実験を2クラス取材しましたが、いずれも観察・実験に対して積極的で、無関心な態度を示す生徒は見受けられないこと、教室移動がスムーズで着席も早いこと、器具の扱いに慣れ、片付けもみんなで手早くできることが印象的でした。また元気で活発な生徒が多いことも印象に残りました。
Ⅱ分野担当 砂川 俊輔先生のお話
私は観察・実験を通して、五感を使ってモノを見たり触れたりしたときの驚きや喜びを生徒に養いたいと思っています。今日は初めて“心臓”というものを触ったわけで、「臭い!」と叫んでいる生徒もいたし、感想文には「気持ち悪かった」「驚いた」「実際に見てこまかく知ることができた」などいろんなことを書いてきます。すべて大事な感想です。それらは五感を使って感じたことだからです。
観察・実験では「これをしてはいけない」など制約を極力設けないようにし、生徒の自主性に任せます。心臓の観察でも、引っ張ってもこすっても、なにをしてもいい。それで観察対象物が傷んでしまうこともある。でも、それも実験のうちだし、生徒にとって一つの体験なのです。
1学期は脊椎動物・無脊椎動物について学習しました。無脊椎動物は現在ほとんど扱われなくなっていますが、本校ではとり上げます。ミミズやザリガニを観察したり、アサリやイカを解剖したりしました。生徒はミミズでもザリガニでもなんでも手に持って観察しますよ。
2学期は人体のしくみを学んでいます。今日の授業では人間に近いものとしてブタの心臓を観察しました。何段階にも分けて生徒に問いかけていき、ゆっくりと考えさせるようにします。そこから生徒自身の疑問を引き出したいのです。だから授業の終わりに必ず「クエスチョンを見つけましたか?」と問いかける。一回ごとに観察が完結するのではなく、生徒にクエスチョンを抱かせることで次の学びにつなげていきたいと思います。理科とはクエスチョンの連続です。そのことを五感を使って生き生きと学んでほしいですね。
理科主任 本城 敬造先生のお話
理科好きの生徒を育てたい。実体験をさせたい。――この二つが観察・実験を多く行うことの大きなねらいです。理科に興味を持ち、好きになるために実験は欠かせません。教科書だけでは学べない教科なのです。それと、理科は身のまわりの世界そのものが対象なのですね。たから、実験材料にはブタやアジ、イカ、アブラムシ、セイタカアワダチソウなど身近にあるものをとり上げます。そうすることで生徒は新鮮な驚きと興味をもって観察することができます。
また、理科は仮説→予想→結果→考察のサイクルで学ぶものです。つまり答えだけが大事なのではなく、答えにたどりつくまでのプロセスこそが大事なのです。これも理科の魅力ですね。だから授業では生徒に問いかけをたくさんして考える力を養い、自分で疑問を見出すよううながしています。
一方、生徒たちは確実に“実体験”が減っています。星はあまり見たことがないし、春や秋の七草もほとんどの生徒が知りません。その意味でも観察・実験が大事です。七草も実験室で育て、いつでも見ることができます。水槽にたくさんの生き物もいます。生徒はよく実験室に遊びに来ますよ。夏休みは植物や昆虫の観察を課題として出しています。
中学1年生は実験に対する意欲が強いですね。これは小学校で実験が減っていることも関係しているでしょう。本校は中高一貫校として、中学1〜2年で特に実験を多くし、理科に対する意欲や学習態度を育てます。中学3年生からは高校1年生の内容も扱い、大学受験を意識した指導に入っていきます。
高校2年生で文系・理系のコースに分かれますが、本校では3割程度の生徒が理系クラスに進みます。昨年は薬学系の大学だけで20名が合格しました。近年では看護や医療技術系などへの進路を希望する生徒も増えています。本校の理科教育の手ごたえを感じているところです。今後も理科好きの生徒をたくさん育てていきたいですね。
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