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2021/1/26(火)

【連載】第0回人生の折り返しは何歳?

人を数学する〜人体・人間社会を数学の眼差しでみる〜 第0回人生の折り返しは何歳?
■INDEX

はじまりは0なのか1なのか

1ではなく0。第1回ではなくあえて第0回としました。

なにせ本連載は数学ですから。日本では、はじまりは一です。漢字の一の読みには「はじめ」があります。日本の建物の階数も1階からはじまります。これが英国に行けば、地上は「グランドフロア」その上すなわち日本での2階が「ファーストフロア」となります。英国では0階、1階、2階、…となるわけです。

日本の階数の数え方、地下2階、地下1階、1階、2階、…
英国の階数の数え方、地下2階、地下1階、0階、1階、…

日本の0階はどこに消えたのでしょうか。大地の地面を0と考えることができます。その上の居住空間が1階、下の居住空間が地下1階ということです。

はじまりは0なのか1なのか。

いい問題です。人類が0を発見するまでにはとてつもなく長い時間が必要でした。

なにせ「無い」ものを表す考え方なのですから。そもそも見える「有る」ものですら、その背後に1、2、3、…という数が潜んでいることに気づくのに私たち人類は地上で長く生きる必要がありました。アウストラロピテクスといった猿人が300万年前です。人類が数の存在に気づきはじめたのが数万年前です。そして数が概念にまで成長したのは今からたった2000年前のことです。見える葉っぱ、石ころ、動物をすべて同じ1と数えることができることを発見した時から文明は始まったと言っても過言ではありません。世界中のさまざまな文明は独自の文字と数字を発明しました。ローマ数字I,II,III、漢字一、二、三からも分かるように見えるものとの対応で数字の形がデザインされています。そしてようやくインドで0という数が発見されます。宗教の中で無の概念が醸成されていたことが考えられます。

しかし、0が古代ギリシャをはじめ多くの国で悪魔の数として恐れられ普及することがありませんでした。ヨーロッパに渡り、グーテンベルクの活版印刷技術が発明され、それまでの手書き数字が鉛で印刷されるようになりようやく普及するようになりました。このようにインド数字が世界中を旅して現在のアラビア数字と呼ばれる数字に成長しました。数の成り立ちを振りかえると、はじまりを一とする日本の考え方は自然なことと言えます。日本の階数の数え方は米国でも同じです。

これ以外にも日本独自の数字の呼び方があります。0をゼロと零(れい)の2通りに呼ぶことです。気温は0(れい)度、希望者は0(ゼロ)人、というように区別します。希望者を0(れい)人と呼ぶと違和感を感じるはずです。日本人は無意識に2つを使い分けているようです。ここで問題です。ゼロと零(れい)の呼び方の違いは何でしょうか。

ゼロは絶対的に数値が0である場合に用います。人数や個数がそうです。それに対して零(れい)は、0の前後幅がある数値の場合に用いられます。気温0度は正確に0ではありません。測定誤差があり四捨五入した数値として0という意味です。降水確率も5%未満を0%としています。なるほど漢字の零は小さい水玉「しずく」のことです。

人生の折り返しは何歳? ジャネの法則

問題です。

21世紀のはじまりはいつでしょうか。

西暦2000年1月1日だと思っていた人は1999年12月31日深夜に「20世紀さようなら、21世紀こんにちは」と叫んでしまいました。20世紀は1901年1月1日から2000年12月31日までですから答えは2001年1月1日です。22世紀になる時はお間違えのないように!

世紀のはじまりは1です。1901年から2000年までの100年間が20世紀、2001年から2100年が21世紀です。残念ながら本稿を読んでいる大人は22世紀カウントダウンには立ち会えません。私たち人間の寿命は100年足らず。WHOが発表した2020年版の世界保健統計によれば、平均寿命が最も長い国は日本で84.2歳、 2位はスイスで83.3歳です。

そこで問題です。

人生100年だとして折り返し何歳でしょうか。

私たちは小学生の時より大人の時の方が、1年間を短くなったと感じます。小学生の時の1年間は今よりも長かったと思い出すことができます。小学校の1年生から4年生までの4年間と、19歳から23歳までの4年間は同じ長さに感じません。青年の4年間はあっという間です。まさに「光陰矢のごとし」の意味を、私たちは年を経るごとに実感していきます。

フランスの哲学者ポール・アレクサンドル・ルネ・ジャネ(1823-1899)は、この人間の時間の感じ方を考察しました。そして、次のように結論づけました。

「人間にとって現在という時間の感じ方は、これまで生きてきた時間との比として感じている」

例えば、10歳の少年の1年間は、それまで生きてきた10年に対しての1年つまり10分の1と感じているということで、60歳の大人の1年間は、それまで生きてきた60年に対しての1年つまり60分の1と感じているということです。60歳の大人の1年は10歳の時の1年の6分の1に短くなったと感じているということです。

このように、時計が刻む時間に対して、人間が感じる時間を“感覚時間”と呼ぶことにしましょう。

10歳の人間にとって、それまで生きてきた時計の合計は、
1年+1年+1年+1年+1年+1年+1年+1年+1年+1年=10年
であるのに対して、

“感覚時間”の合計は、
1/1年+1/2年+1/3年+1/4年+1/5年+1/6年+1/7年+1/8年+1/9年+1/10年=2.928…年となります。

ただし、ここではわかりやすくするために、1歳のときの1年間の“感覚時間”を1年としました。

人生を積分する

このモデル(仮説)のもとで、ある年齢までの“感覚時間”の合計を計算することができます。上の図では“感覚時間”を1年間隔で考えてみましたが、間隔を1ヶ月、1日、1時間、1秒とどんどん小さくすることで、“感覚時間”の合計はより正確に求められます。

a歳からb歳までの人生について“感覚時間”の合計Sは積分法により計算されます。まさに人生を積分する計算です。

はたして、a歳からb歳の人生の半分を迎えるのは√(a×b)歳と算出されます。0歳から100歳までの時計の時間の半分を迎えるのは、(0+100)×1/2=50歳です。これを「相加平均」と呼びます。

いわゆる普通に一番使われる平均のことです。それに対して、2つの数の積を1/2乗した√(a×b)は「相乗平均」と呼ばれます。人生を積分して得られた“感覚時間”の合計を元に計算された人生の半分を迎える年齢は「相乗平均」だということです。

出来上がった公式のaとbに様々な年齢を代入して、人生の半分を迎える年齢を算出してみましょう。

最初のa(歳)には0を代入することはできません。1歳から100歳までの場合、人生の半分を迎える年齢は√(1×100)=10歳となります。この結果はあまりにも信じられないものです。そこで、始まりの年齢を物心つく年齢として4歳として計算してみます。4歳から100歳までの場合は、√(4×100)=20歳となります。bに日本人の平均寿命を代入してみると、約19歳!

みなさんは物心ついたのは何歳でしたか、そして何歳まで生きたいと思っていますか。それがaとbです。この公式に代入して、人生の折り返しの年齢を計算してみましょう。

元服が15歳であることの妥当性

考えてみると、世の中には生まれてすぐにプロになるための猛特訓をさせられる職業の人たちがいます。音楽、スポーツ、伝統芸、棋士などです。この職種の人たちは自分の身内や師から、常人が想像つかないほどの指導・特訓を受けて10歳になるころにはプロまたはプロレベルの実力を身につけます。20歳を過ぎた頃にはその世界で活躍するプロになっていきます。

さらに、昔の日本では男子は15歳〜17歳で元服の儀式を行い、成人として扱われていました。これらのことが、人生の半分を迎える年齢が10歳から20歳であることに合致しているように思えてならないのです。20歳の成人式とは、人生折り返し地点であることを確認するセレモニーと言えます。

これから新しい人生が始まると思っていた大学生は、実はちょうど人生の折り返し地点をすぎてしまっていたということです。大学を卒業した後に「自分探しの旅」などしている場合ではありません。20歳までぼうっと過ごしてきたとするならば、取り返しのつかない貴重な時間を失ってしまったということです。私は大学でも授業を持っていますが、4月の最初の授業でこの人生の折り返し年齢公式を話します。

試験のための数学から本当に役立つ数学へ

ジャネの法則から人生の折り返し年齢公式を導く計算は連載で紹介していきます。そこには、小学算数から高校数学まで数学──四則・分数・比(小学算数)、関数・グラフ(中学数学)、対数・積分法(高校数学)──が現れます。

「学校の数学」の最大の特徴こそ「試験のための数学」です。定員がある以上選抜試験は必要です。しかし、我が国の算数・数学はあまりにも「試験のためだけの数学」になってしまいました。

数学とは何か。
  数学は人類叡智の結晶
  数学は至極の芸術
  数学ほど役に立つものはない

電子計算機、インターネット、AI(人口知能)、フィンテック、ビットコインといった最先端ITの核(コア)も数学です。現代文明は数学によって支えられています。これまでの文明も数学とともに発展してきました。絶大な偉力を持つ数学に対して「数学なんて何の役に立つんだ」「試験のためだけの数学」にしてしまうなんてこれほどもったいないことはありません。

しかし、教科書に現れる数学は即物的です。そう思うのも無理はありません。数学は人とともにあります。サイエンスナビゲーターⓇが著者となった高校数学教科書「数学活用」(啓林館)は「世界は数学でできている」の大見出しで始まります。

そのことを紹介するために連載のタイトルを「人を数学する」にしました。

■人を数学する〜人体・人間社会を数学の眼差しでみる〜
(連載全6回)
◎人生の折り返し年齢
◎人間の感覚を数学する ウェバー・フェヒナーの法則
◎恋愛の微分方程式 ロミオとジュリエットの恋愛は成就するか
◎人口モデル マルサス・モデル
◎ナポレオンの法則
◎うわさの拡散

次回は、「人間の感覚を数学する ウェバー・フェヒナーの法則」です。

執筆者プロフィール

桜井 進(さくらい すすむ)
1968年山形県東根市生まれ。サイエンスナビゲーターⓇ。株式会社sakurAi Science Factory 代表取締役CEO。東京理科大学大学院非常講師。東京工業大学理学部数学科卒。同大学大学院院社会理工学研究科博士課程中退。小学生からお年寄りまで、誰でも楽しめて体験できる数学エンターテイメントは日本全国で反響を呼び、テレビ・新聞・雑誌など多くのメディアに出演。著書に『雪月花の数学』『感動する!数学』『わくわく数の世界の大冒険』『面白くて眠れなくなる数学』など50冊以上。
サイエンスナビゲーターは株式会社sakurAi Science Factoryの登録商標です。

桜井進WebSite