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2021/2/15(月)

【連載】第1回 人間の感覚を数学する ウェバー・フェヒナーの法則

人を数学する  〜人体・人間社会を数学の眼差しでみる
■INDEX

ウェーバーの法則

人間の感覚は不思議です。たとえば、嫌なにおいのする部屋に閉じ込められたとします。窓を開けて臭い成分の量を半分にしたとしても、私たちは「においが半減した」と感じることはなく「やっぱりまだにおう」と感じます。

音の感じ方もそうです。私たちの音の感じ方は、大きい音だから大きく、小さい音だから小さく感じることはありません。たとえば、コンサートで聴く大音量の演奏も小さな羽虫の羽音も、同じように聴くことができます。つまり、音量の大小をそのまま感じてはいないようです。

このような人間の感覚のメカニズムに数式で表される法則があるとしたら。
ドイツの生理学者・解剖学者エルンスト・ウェーバー(1795-1878)は1834年に重さの感覚についての実験を行い一つの結果を導き出しました。

100gの分銅を手のひらにのせます。そこに1gの分銅を一つずつのせていき、110gになったときの重さの感じ方を覚えておきます。今度は、最初に1000gの分銅を手のひらにのせておき、同じように1gの分銅を一つずつ計10g分のせて1010gになった場合に、100gが110gに増えたときのような重さの感じ方はしません。

これは、増えた分の重さ10gの感じ方が、最初に手のひらにのせていた分銅が100gである場合と、1000gである場合とでは違うことを意味します。

1000gの場合、100gをさらにのせて1100gになったときに、100gの場合と同じような重さの感じ方をします。つまり、

と比が等しい場合に、私たちの感覚も等しい、ということなのです。これがウェバーの法則です。

フェヒナーの法則

エルンスト・ウェーバーの弟子であるドイツの物理学者・心理学者グスタフ・フェヒナー(1801-1887)は、ウェバーの法則を発展させました。

ここで、定量的な考察を行うために、感じ方を感覚量P(感覚Perception)、重さを刺激の強度I(Intensity of stimulation)とします。

重さの増分10gの感じ方は始めの重さが100gか1000gで異なります。正確には、増分に対する感じ方の増分は、始めの重さに反比例すると考えることができます。100gの場合の増分10gに対する感じ方の増分は、1000gの場合のそれよりも10分の1だということです。

すなわち、感覚量Pの増分ΔPは、刺激の強度Iに反比例するということ。そして、そもそも感覚量Pの増分ΔPは、刺激の強度の増分ΔIに比例すると考えられます。重さの例でいうならば、始めの重さを100gとした場合、重さの増分ΔIが10gから2倍の20gになると、感覚量Pの増分ΔPも2倍になるということです。

したがって、感覚量Pの増分ΔPは、刺激の強度Iに反比例し、刺激の強度の増分ΔIに比例するということになるので、比例定数をkとおくと次のように表すことができます。

すると、増分ΔP、ΔIをそれぞれdP、dIと置いた関係式が微分方程式と呼ばれるものです。

微分とは“勢い”のことです。例えば、車の速度は位置の微分(勢い)のことで、加速度は速度の微分(勢い)のことです。一定の速度60km/hで走っている場合、速度の勢い(微分)、すなわち加速度は0です。アクセルを踏めば、時速が70 km/h、80 km/hと大きくなります。このときが加速度が正です。ブレーキを踏めば時速は60 km/h、30 km/h、0km/h(停止)と変化します。これときが加速度が負です。

微分方程式とは、刻々と変化する“微分”が何によって決まるかを表した式のことです。
積分することでPとIの関係を導出することができます。

これがフェヒナーが導き出した結論(1860年に出版)です。現在ではウェバー・フェヒナーの法則と呼ばれています。

数式のポイントは対数log。ざっくり説明すれば、「対数とはかけ算の回数」です。たとえば、1000=10×10×10。1000は10を3回かけ算した数なので、1000の対数は3となります。

私たちの感覚は鈍感

私たちは外からの刺激に対して鈍感に感じます。これを定式化したのが、対数を用いたウェーバー・フェヒナーの法則です。

辛み成分の量を倍々にしていっても、カレーの辛さの感じ方は倍々に感じないことからも感覚の鈍感さは分かります。さらに、音の大きさの単位デシベルの成り立ちからも感覚の鈍感さが分かります。

私たちの聴覚で捉えることができる最小の音の大きさを1とした場合、聴くことが可能な最大の音のそれは100万となります。カレーの辛み成分の量と味覚の場合と同じように、100万倍大きく感じることはありません。

最小音1を0デシベル、最大音100万を60デシベルというように圧縮して表す指標がデシベルです。

エルンスト・ウェーバーとグスタフ・フェヒナーのおかげで、私たちの感覚の仕組みが定量化できることが初めて示されました。感覚の本質が圧縮であることを対数によって明らかにしてみせたことに驚かされます。いい加減に思われてきた私たちの感覚は、実は本当の意味で“良い加減”であったということです。

執筆者プロフィール

桜井 進(さくらい すすむ)
1968年山形県東根市生まれ。サイエンスナビゲーターⓇ。株式会社sakurAi Science Factory 代表取締役CEO。東京理科大学大学院非常講師。東京工業大学理学部数学科卒。同大学大学院院社会理工学研究科博士課程中退。小学生からお年寄りまで、誰でも楽しめて体験できる数学エンターテイメントは日本全国で反響を呼び、テレビ・新聞・雑誌など多くのメディアに出演。著書に『雪月花の数学』『感動する!数学』『わくわく数の世界の大冒険』『面白くて眠れなくなる数学』など50冊以上。
サイエンスナビゲーターは株式会社sakurAi Science Factoryの登録商標です。

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