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2021/6/29(火)

【連載】第5回 うわさの拡散

人を数学する 〜人体・人間社会を数学の眼差しでみる
■INDEX

女子校生が発端となった1973年豊川信用金庫事件

1973年(昭和48年)12月、愛知県豊川市において突如「豊川信金が倒産する」というデマが広まり、取り付け騒ぎに発展した事件です。14億円の預金が引き出されたことで豊川信金は倒産の危機に陥りました。

警察は事件として捜査を行い、女子校生3人が登校中の列車内で発した冗談がきっかけとして次第に周りにうわさが拡散していったことを解明しました。

明らかにされたうわさの伝播ルートとは次のようなものでした。
列車内の女子校生2人の冗談
    ↓
その1人が親戚に相談
    ↓
その親戚は別な親戚に相談
    ↓
その親戚が知人に噂話をする
    ↓
知人が親戚に話しをするのが
同時に居合わせた人に聞かれる
    ↓
その妻に噂が伝わる
    ↓
豊川市の主婦の間で噂が話題になる
    ↓
通りがかりの住民の耳に入る
    ↓
「豊川信金から120万円おろせ」という電話口の話を聞いた人が、豊川信金が倒産するからおろそうとしているのではないかと勝手に判断、自分も信金から預金をおろした。
アマチュア無線家がこの話を無線を用いて広範囲に広めた。一気に噂が広まり預金が引き出された。
    ↓
(7日目)パニック発生。デマがデマをよび全国紙の見出しにも掲載された。
    ↓
(9日目)警察によるデマの伝播ルート解明を発表。

世界は6人いればつながる

この事件が起きる原因は、そもそも町にたくさんの人が住んでいることに他なりません。電車の中でのヒソヒソ話しは実は結構周りの人に聞かれたりするものです。信金事件の発端になった2人の女子校生はまさか自分たちの会話が発端になったとは夢にも思わなかったでしょう。それにしてもそこまで突き止めた警察の捜査のスピードに驚かされます。

町にたくさんの人が住んでいることで友達の輪ができあがります。
「友達の友達はみな友達だ。世界に広げよう友達の輪!」
笑っていいとも!のテレフォンショッキングで有名になった懐かしいフレーズです。

うわさの伝播同様に友達の輪についても数学で説明することができます。それが「すべての人や物事は6ステップ以内で繋がっている」という理論です。

Six Degrees of Separationは6次の隔たりや6次理論などと訳されています。いまあなたの隣にいる人が友人・知人同士でない場合、2人の間に5人の友人を介することでつながっているということです。

実際にテレビ番組では「数珠つなぎ6人で誰の電話番号にもたどり着ける説」として紹介され、道行く人からはじめて次々と友人に電話をかけていき有名タレントに何人でたどり着くかを実験したところ、結果は4人でした。

ざっくり「友達の友達」の人数を計算して確かめてみましょう。かりに1人1人に50人の知人がいるとします。Aさんからはじめて、その知人50人(1次の隔たり)それぞれにも重複のない50人の知人がいるので、
友達の友達(2次の隔たり)は50×50=2500人になります。

その50人それぞれにも重複のない50人の知人がいるので、
友達の友達の友達(3次の隔たり)は50×50×50=125000人。

これを続けていくと
友達の友達の友達の友達(4次の隔たり)は
50×50×50×50=625万0000人

友達の友達の友達の友達の友達(5次の隔たり)は
50×50×50×50×50=3億1250万0000人

友達の友達の友達の友達の友達の友達(6次の隔たり)は
50×50×50×50×50×50=156億2500万0000人

現在の世界人口が72億人ですからそれを超える人数です。
こうしてあなたと隣の見ず知らずの人の間に5人を介して6人目が隣の人に繋がるという仮説です。

これはネットワークモデル、スモールワールドと呼ばれる分野で研究されているものです。現在のSNSにおいて研究・検証がさかんに行われており、Facebookでは3.5人という結果が得られています。

うわさの伝播方程式とS字カーブ

うわさの伝播のモデルは次のように考えることができます。
近隣エリアと人口移動がない閉鎖されたエリアの人口をN〔人〕
時刻tであるうわさを耳にしたことがある人の人数をx〔人〕

うわさを耳にする人の微分(勢い)がどのように表されるかを考えてみます。
うわさを知っているx〔人〕に比例するのはあきらかです。
同時に、時刻tでうわさを知らない人はN-x〔人〕にも比例します。

始めのうちはうわさを知っている人が少ないので微分(勢い)は小さく推移します。すると一気にうわさが広がりはじめ(微分が大きくなる)ます。しかし、そのまま微分が大きいままで推移することはなくなります。うわさを知っている人が少なくなるからです。これをグラフで表すとS字にみえます。

したがって、うわさを耳にする人の微分(勢い)dx/dtはxと(N-x)に比例するので次のように表されます。

これをコンピューター・シミュレーションしたのが次の結果です。

実はこのモデルは、うわさのように流行する現象にも応用できます。技術革新の流行モデルがそうです。結果のグラフは、技術革新・マーケティングのS字曲線と呼ばれているものです。採用過程は50%の企業が技術革新を取り入れたN/2までは増加し、それ以後は採用が鈍ることが確認できます。

企業が新技術を導入・開発した場合、最初のうちはイニシャル・コストに対して思うようにパフォーマンスは上がりません。それでも、コストを費やし続ければ次第に、そして急激に変化が起き、一気にパフォーマンスが上がっていきます。しかし、新技術も最終的には成長のペースが落ちていき、パフォーマンスの上昇もゆるやかになっていきます。これがS字曲線の特徴です。

うわさが好きなわたしたち

スマホもSNSもなかった今から50年近く前の日本で、二人のヒソヒソ話しが町中にひろがっていった状況に驚かされます。それも極めて短い時間で。思い起こせば、この事件以後も日本ではうわさが町中いや日本中を席巻したこともありました。口さけ女です。小学生だった私は毎日耳に入ってくるうわさに怯えたことを覚えています。

現在はスマホやSNSという道具ができて、いつでもどこでもすばやく個人が世界中に言葉を発することができる時代になりました。うわさの量と質は変わりました。

でもうわさ好きな人と人の間をうわさが伝わることは変わりません。たった6人以下で世界中はつながるほど実は世界は小さいのです。いつの時代も「口は禍のもと」だということをSNS時代にも肝に銘じておきたいものです。

執筆者プロフィール

桜井 進(さくらい すすむ)
1968年山形県東根市生まれ。サイエンスナビゲーターⓇ。株式会社sakurAi Science Factory 代表取締役CEO。東京理科大学大学院非常講師。東京工業大学理学部数学科卒。同大学大学院院社会理工学研究科博士課程中退。小学生からお年寄りまで、誰でも楽しめて体験できる数学エンターテイメントは日本全国で反響を呼び、テレビ・新聞・雑誌など多くのメディアに出演。著書に『雪月花の数学』『感動する!数学』『わくわく数の世界の大冒険』『面白くて眠れなくなる数学』など50冊以上。
サイエンスナビゲーターは株式会社sakurAi Science Factoryの登録商標です。