第2回 「頭がいい」って何? -考え方編-

前回の記事では一緒くたに語られがちな「勉強ができる」と「頭がいい」の違いをテーマにお話ししました。まだ記事を読んでいない方はこちらを先にお読みください。
前回の大まかな内容をまとめると、「勉強ができる」とは外からやって来る情報を上手に捌く受信型の力であり、「頭がいい」とは外側に向かって価値を生み出す発信型の力です。両者それぞれにメリットとデメリットがあり、互いの弱点を補完し合う関係にあると言えます。前回の記事を読んでくださった方であれば、「じゃあ頭がいいってもっと具体的に言うと何なの?」という疑問が生まれてくると思います。今回を含めた3回分ではより詳しく、僕自身の実体験も踏まえて「頭がいい」とは何かを洗い出していきます。この連載は、僕の高校生活や学外での活動を通して沢山の優秀な人たちに出会えた経験を元に、僕個人から見た「頭のよさ」を彼らの共通点などから仮説し分析する内容です。「頭がいい」と言うと一見それが正義の様に聞こえてしまうこともありますが、あくまでも生活を豊かにする可能性のある一つのツールであって、全てを犠牲にしてまで手に入れるべきものではないと考えていることは先に伝えさせていただきます。

「頭がいい」という言葉は相対的なものですから、彼らは一般的な人に比べて頭の使い方がどこか違います。しかしその能力は一般の人が0で頭のいい人が100なのではありません。一般の人が30なのに対し、頭のいい人は70なのです。つまり誰でも磨けば能力を上げることができ、70の上には100、100の上には150と、際限なく上には上がいます。第2回の今回は、考え方、会話、行動の内の”考え方”に焦点を当ててその特徴を暴いていきます。

考え方①:物事を鵜呑みにしない

「情報を鵜呑みにしてはいけない」と知ってはいても、僕も含めほとんどの人が無意識の内に情報を鵜呑みにして生きています。そもそも「鵜呑みにする」とはどういうことでしょうか。辞書を引くと「物事の意味を十分に理解しないまま他人の意見などを受け入れること」とあり、「他人が加えた解釈を、その解釈のまま自分のものにすること」とも言えそうです。ニュースでも記事でも噂話でも塾や学校の授業でも、人が介入しているものには全て誰かの解釈が入っています。そこにはどう情報を伝えようかという意図が介在しており、それは必ずしも情報の受け手に良い影響を与えるとは限りません。頭がいい人は情報を鵜呑みにしないために、相手が作った解釈を剥がして自分で新たに解釈を与えるための評価軸を持っています。

例えば、「A戦争によるX国の死者数は20万人を超え、X国は100年来の壊滅的被害を受けた」という情報が出回ったとします。普通の人ならこの情報をそのまま受け取ってパニックを起こしそうですが、ここに新たな解釈を加えると、20万人でも人口当たりの死者数は何人だから他の戦争と比べてそれほど多くない、100年前と比べて時代がこう変化してるから被害の拡大は抑えられるだろう、歴史的に見てもこの規模の戦争は何年に一度起きるから不思議なことではなさそうだ、死者数の変化が一定で長期的なものだから完全に終結するまでには時間がかかるだろう、、、このように情報の提供者が出していない(もしくは隠している)評価軸と照らし合わせ、曖昧な情報に枠組みを与えることができます。その評価軸をざっと紹介します。

・統計
・変化率
・一人当たりの数値
・全体に占める割合
・平均値と中央値
・必要条件と十分条件
・科学的根拠
・歴史的変遷
・言葉の綾
・情報提供者の立場
・自分の常識の範疇で考えていないか

ニュージーランドの羊の頭数が2700万頭と言われてもイメージが湧かないけれど、人口の5倍以上いると言われたらその多さを想像でき、高齢化率28%と言われてもよく分からないけれど、4人に1人がおじいちゃんと言われたらその実態を確認できるように、同じ事実を表しても数字の使い方次第で捉え方は大きく変わります。
自分の中に用意してある評価軸が多ければ多いほど客観的に物事を捉えることができ、特に情報の中に数字が出て来ると鵜呑みにしない能力は力を発揮します。ここで大事なのは、鵜呑みにしないことは、情報を疑ってただ否定することではなく、偏った解釈がされているかもしれない情報を色んな角度から捉え直してあげることだということです。頭のいい人はその尺度を沢山持っていて上手に使い分けられるので、物事を鵜呑みにせず見ることができるのです。

考え方②:自分の立ち位置を客観視できる

自分の立ち位置を客観視することと物事を鵜呑みにしないことの違いは、その対象が自分なのか自分以外なのかにあります。一番近くにいて一番分かりがたい存在でもある自分自身をどう評価するか。頭がいい人は自分以外のものを評価するように、自分のことも正しく評価できます。

多くの場合、自分の成長や能力など定量化できないものを正しく評価することは難しいので、人は他人からの評価に頼って褒められると満足し、否定されると傷ついてその言葉に踊らされがちですが、ここでも”評価軸”の保持が解決してくれます。頭がいい人は自分を評価する軸を多く持っており、他人の評価や自分以外の誰かが決めた基準だけではなく、自分が作った基準を元に自身を評価することができます。

例えば僕が「自分の立ち位置を客観視できている」と感じたのは、運動会の練習試合におけるクラスメートに対してでした。開成高校では春の運動会が名物で、高校3年生は8色に分かれたチームの中で優勝するために一年かけて出場種目を研究したり、作戦を考えたり、下級生の指導マニュアルを作ったり、本格的に準備を進めます。運動会がやりたくて開成を目指す受験生も沢山いるほどです。高校3年生の競技は50人1チームで攻守に分かれて自陣の棒を守りながら相手の棒を倒す”棒倒し”で、本番までに何回か他色のチームとの練習試合があります。日々の練習から全員全力でやりますから、当然練習試合も気合を入れてやります。僕たちのチームはある練習試合で勝ったのですが、クラスメート達はそれほど喜んでいませんでした。理由を聞くと、その勝利は作戦通りの勝ち方ではなかったかららしく、次の瞬間にはなぜ作戦通りにいかなかったのか話し合っていました。普通ならとりあえず目の前の勝利に喜びそうなものですが、彼らにとっての勝利は審判が下した勝ち負けではなく、作戦がハマるか否かが大事だったからそれほど喜べなかったのです。今回たまたま勝てても考えていた勝ち方でなければ意味がないと判断し、瞬時に次やるべきことに移った彼らは、既に用意された評価軸以外の軸を自分で用意して、他人ではなく自分たち自身と比較する力を持っていると感じました。

このような自分自身の客観視も、尺度を沢山持っていれば正確にできるものです。そしてその尺度は一から自分で考える(「1日10kmのランニングを10日間継続できたら自分は三日坊主卒業だ」など)こともできれば、心理学などの知識を自分に当てはめることもできます。例えばダニング=クルーガー効果(能力の低い人ほど自分を過大評価し、経験を積むと能力の低さに直面して自分を過小評価し、さらに経験を積むと自己評価が上昇するという、認知バイアスについての仮説)を知っていると、自分に自信がなくても今はそういう時期だから大丈夫だと落ち着かせることができ、確証バイアス(自分にとって都合の良い情報ばかり集めてしまう傾向性)を知っていると、自分の考えがある思考に偏ってできていることを認識することができます。客観視をするためには知識も必要なんですね。

考え方③:すぐに結論付けない

「あの人は帰国子女だから英語ができるのだ」「自分の子供は人と喋るのが苦手だから個別塾に入れた方がいい」「小さい頃から楽器をやらせれば絶対音感になれる」……このような「AならばB」という決めつけは自分の可能性を否定したり、事実と違った認識をして後で不利益を被ることに繋がります。帰国子女でも必死に勉強しなければ英語を喋れるようになりませんし、喋るのが苦手でも集団塾の方が1対1の緊張感が薄らいで落ち着くかもしれませんし、どんな楽器の習わせ方でも必ず絶対音感になるはずはなく、例えば2つ以上の楽器を同時期にやっていないといけないのかもしれません。

「AならばB」と短絡的に決めつけると、その背景にある要素を無視して正しい認識ができなくなってしまいます。物事は「AならばB」という簡単な法則で成り立っているのではなく、「A,B,C,Dの要素が掛け合わさってEになる」という複雑な構造を成しています。たくさんの歯車が絡み合っているのです。また、結果につながる要素の内の一つでも変更があれば、その掛け合わせである結論にも支障が出てきます。つまり、Dの要素がXに変わったら結果もEではなくFになるかもしれないということです。そのため、例えば自分と状況も性格も体力も違う東大生の勉強法をそのまま真似しても、その人と自分が同じ人間ではないので東大に受かるとは限りません。

頭のいい人は「AならばB」という一方的な判断はしません。なぜなら、世の中には変数がいくつも存在して互いに影響を及ぼし合っていることを知っているからです。(変数とは数学ではxやyなどの事です。2x+8=14という式よりも5x+7y-8z=15という式の方が難しいように、世の中も変数はxという一要素の変動によってのみ決まるのではなく、x,y,z,,,,という複数の要素が変動することで動くことの例えです。)

まとめ:知識が「頭のいい」考え方を生む

物事を鵜呑みにしないこと、自分の立ち位置を客観視すること、すぐに結論付けないことは互いに連動しています。多角的な評価軸を持っていれば原因と結果の関係性をより正確に把握でき、結論付けを慎重にできたら物事を鵜呑みにすることもありません。そして3つに共通しているのは、どれも考える根拠となる知識が必要なことです。考える基盤がなければ、鵜呑みにせずに自分なりの捉え方をすることも、自分の能力を測って立ち位置を客観視することも、結論に至るいくつもの要素を見つけて慎重に結論を下すこともできません。その重要な知識は、ただ身につけるだけでは「勉強ができる」に止まりますが、それを使って自分の考え方を好転させることができたら「頭がいい」に昇華します。頭がいい人は天才的な発想やアイデアを思い付いているのではなく、知識と経験という武器の量と質が一般的な人よりも優れているが故に、人より正確に物事を判断したり、人と違う切り口で物事を捉えることができるのです。逆に言うと、「頭がいい」は努力次第で後天的に育てられます。

今回は「頭のいい人」とはどんな考え方をしているのかをテーマに、彼らの特徴を具体的に分析してみました。次回は会話編です。円滑なコミュニケーションを取るためにどんな話し方をするのか、解説していきます。

著者紹介

藤原 遥人(ふじわら はると)

学校で教えないことを高校生が中学生に教え、勉強の面白さを伝える塾、寺子屋ISHIZUEの創業者。現在開成高校3年生。受験指導ではない、自分で考えて人に伝える力を育てる塾の運営経験から「誰かに何かを教える」教育の難しさを実感し、自らの学を深める大学生活をおくるため受験勉強に奮闘中。趣味はピアノとサッカーとダンス。

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