第6回 数学の「興味・関心」力 数学を学び続ける原動力

数学の関心はテストの点数

学校の数学での関心事といえば大方はテストの点数です。点数以外に数学に関心があるとすればめずらしいといえます。

「数学に大して関心があるわけではない」

小学1年生から高校生まで10年に渡り途切れなく数学の授業を受けた結果がこのような結果だとしたらなんとも残念なことです。OECD生徒の学習到達度調査によれば、わが国の子どもたちの数学的リテラシーおよび科学的リテラシーは世界トップレベルにあるにもかかわらずです。

私の小学校での講演(数学エンターテイメントショー)が始まったのは2007年(数学エンターテイメント自体は2000年スタート)からです。ここ近年驚かされることが、小学1年生・2年生たちがはっきりと算数が嫌いと主張するようになったことです。10年前にはありえないことでした。算数嫌いの低年齢化が進行しています。

これは深刻な問題です。算数が嫌いになった小学1年生・2年生が高校生まで学校の数学に付き合っていったらどうなるのでしょうか。

学校でなぜそのような事態になってしまったのか、それは学校マターです。本連載の主旨ではありませんので、その考察・分析は読者のみなさんに任せます。

興味・関心こそが要

学びにとって必須なことが興味・関心です。興味・関心がないことには学びを続けることは難しく、自発的・積極的な取り組みも難しくなります。

私はよく数学を音楽とスポーツとくらべて説明します。音楽とスポーツにも数学のテストの点数に相当するもの──他人からの評価はあります。しかし、だからといって音楽とスポーツが嫌いになる人はいません。

音楽をする人には音楽への、スポーツをする人にはスポーツへの興味・関心がベースにあります。○○コンクールでの金賞やオリンピックで金メダルといった他人からの評価とは関係なく音楽、スポーツを生涯を通して取り組む人が大勢います。

音楽とスポーツと数学は、技術の習得を必要とする点は同じです。ピアノが自在に弾けるようになる、自身の身体を自在にコントロールできるようになるには相当の時間が必要です。数学も同様です。数・式・図形さらには高度な概念を自在に操るようになるには時間がかかります。

にもかかわらず数学だけは生涯を通して取り組む人は音楽とスポーツに比べて多くはありません。その大きな原因の一つは、数学は学校の一教科と捉えられていることにあるでしょう。音楽とスポーツも学校(教科または部活動)にはありますが、学校外で接する機会がたくさんあります。この点が数学と大きく異なります。

これまでの連載で繰り返し申しあげてきたように、数学も学校外で接する機会があることが必要です。それが「私の数学」の考え方の中心です。数学を生涯教育としていくならば、若い時に数学に対する興味・関心を刺激し大きくしていくことが重要です。若い時に数学への興味・関心の気持ちが得られるならば、学校の数学とは関係なく数学をし続けたいという気持ちが醸成されていくでしょう。

数学に対する興味・関心とは

そもそも数学に対する興味・関心自体とはいったい何なのでしょうか。これもまた音楽とスポーツと同様、十人十色です。思いつくところをピックアップしてみましょう。

・問題が解けることで気づく自分自身の数学への趣味趣向
・知的好奇心
・数学で遊ぶ楽しさ
・数学を使うことのおもしろさ
・数学の歴史を知る
・他分野の中にある数学と出会う
・数学がわかることのおもしろさ
・数学の本当のむずかしさを知る
・自分が興味ある数学の分野に出会う

いかがでしょうか。やはり音楽とスポーツと同じです。音楽とスポーツは自身の聴覚なり音楽に対する感性、自分自身の身体を通したものだから圧倒的な興味・関心が湧いてきます。数学も自分のものとして捉えた時、自分と直接に繋がる感覚が得られる時に本当の興味・関心が生まれます。

前回もいったことですが、いかに数学が役に立っているかをわかっている人がそのことを説明したところで、説明された側は「ふう〜ん」で終わるのがオチです。数学が役立つことが、数学が自分のものとして捉えられていないからです。自分とは関係ない他の誰かの数学ほど面白くないものはありません。

数学に対する興味・関心とは簡単にいえば、数学がおもしろいと本当に思えるということです。ですから、数学はわからなくても、難しくてもおもしろいと思えるということです。わかるからおもしろいは間違いではありませんが、わかってしまったらそれまでとも言えます。音楽もスポーツも難しいからこそ興味・関心が湧いてくるのと同じです。

数学との出会い

音楽とスポーツも出会いがその後の関係、付き合い方を決定的なものにします。数学も同じです。いつ、どこで、誰から、どんな数学に出会うのか。

音楽とスポーツは身体に直結するので誰にもすぐに実感できます。しかし、数学は目に見えない存在なので誰もすぐには気づきません。世界は数学でできています。探そうとする人の前に数学は現れます。ここが音楽とスポーツとの大きな違いです。

私は10歳の時にラジオを聴くのが大好きでした。いつしか自分で高性能なラジオを作りたいと思うようなり、エレクトロニクスを独習し始めました。

ここで数学と出会うことになります。チューニングを説明する公式はラジオ回路図設計の基本になるものです。コイルとコンデンサーの容量から周波数が決定されるというものです。

 

 

この公式の中にある√記号は小学5年生の私にとって初体験でした。電卓にも同じ記号があるのに気づき、電卓を使いながら√の計算の意味を理解しました。なんとか公式を使えるようになると、公式をもとに回路をデザインします。最後に半田ごてを握りながら自分だけのラジオが完成します。

はたしてチューニングダイアルを回してみると、計算通りにラジオが受信されるではありませんか。その時の驚きと感動は今も忘れることはありません。圧倒的な数学のリアリティが私の身体を突き抜けた瞬間でした。

・ラジオの製作の中で数学に出会ったこと
・その数学(公式)に興味を持った
・わからないけれど数学を使うことができた
・公式を本当にわかりたいと思った
・目に見えない電気をハンドリングできる数学のすごさ
・なぜエレクトロニクスに数学が必要なのかを実感

この数学との出会いは私の人生を決定的にしました。これは私の「私の数学」の例です。次回のテーマは「数学を信じる力 トップダウンで数学と接する」です。このラジオと数学の出会いのつづきをもとに展開していきます。

執筆者プロフィール

桜井 進(さくらい すすむ)

1968年山形県東根市生まれ。サイエンスナビゲーターⓇ。株式会社sakurAi Science Factory 代表取締役CEO。東京理科大学大学院非常講師。東京工業大学理学部数学科卒。同大学大学院院社会理工学研究科博士課程中退。小学生からお年寄りまで、誰でも楽しめて体験できる数学エンターテイメントは日本全国で反響を呼び、テレビ・新聞・雑誌など多くのメディアに出演。著書に『雪月花の数学』『感動する!数学』『わくわく数の世界の大冒険』『面白くて眠れなくなる数学』など50冊以上。
サイエンスナビゲーターは株式会社sakurAi Science Factoryの登録商標です。
桜井進WebSite

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