第3回 「頭がいい」って何? -会話編-

前回の記事では頭がいいと言われる人に共通する特徴の中でも、特にその考え方に焦点を当ててお話ししました。まだ記事を読んでいない方はこちらを先にお読みください。
前回の大まかな内容をまとめると、頭がいい人は物事を鵜呑みにせず、自分の立ち位置を客観視でき、すぐに結論付けないという点で共通しており、その基盤にはこれらの思考力を支える知識が必要なのでした。
第2回から次回の第4回まででは、僕自身の実体験を踏まえてより詳しく「頭がいい」とは何か洗い出していきます。この連載は、僕の高校生活や学外での活動を通して沢山の優秀な人たちに出会えた経験を元に僕個人から見た「頭のよさ」を彼らの共通点などから仮説し分析する内容です。「頭がいい」と言うと一見それが正義の様に聞こえてしまうこともありますが、あくまでも生活を豊かにする可能性のある一つのツールであって、全てを犠牲にしてまで手に入れるべきものではないと考えていることは先に伝えさせていただきます。
会話の中でも“話し方”を見るとその人の頭の中の覗くことができます。話すという行為は頭の中で考えていることの発露なので、前回の記事でお話ししたような“考え方”がベースとなって「頭のいい」話し方が実現します。話せないことを考えることはできても、考えていないことや知らないことを話すことはできないのです。第3回の今回は、会話から伺える「頭がいい」人の特徴を具体的に検証していきます。

会話の仕方①:語彙力が高い

語彙力の高さには言葉を「知っている」と「使える」の2種類が含まれます。言葉を知っていれば自分の外側にある曖昧な情報に枠組みを与えて自分の頭の中で解釈しやすくなるのに対し、言葉を使えれば自分の内側にある曖昧な情報に枠組みを与えて相手の頭の中で解釈しやすくすることができます。例えば、政治家が真面目に働かずに自分の利益を優先して立場を悪用している状況を知った時、「汚職」という言葉を持っていれば「なんかよくわからないけど悪いことをしている政治家」に「汚職をはたらく政治家」という枠組みを与えることができ、他の似たような状況もこれに分類することで理解しやすくなります。また、胸がもやもやして落ち着かないしむしゃくしゃする気持ちがある時、「ムカつく」という言葉を持っていれば「なんかよくわからないけど嫌な感情」に「ムカつく気持ち」という枠組みを与えることができ、相手が自分の状態を理解しやすくなります。

第1回の記事でお話しした「勉強ができる」と「頭がいい」の定義に照らし合わせると、言葉を「知っている」ことは自分の外部から内向きに来る情報を上手に解釈する力なので「勉強ができる」方にカウントされ、言葉を「使える」ことは自分の内側にある情報を外向きに発信する力なので「頭がいい」方にカウントされます。勿論どちらも重要で素晴らしい能力ですが、今回は後者に絞ってお話ししていきます。

この「言葉を使える」には更に2つの分類が含まれており、その内どちらに優れているかによって語彙力が高い人も二分されます。

①状況や情景をちょうどいい言葉で言い当てる力

“説明力”とも言い換えられ、言葉で表現しづらいふわふわした情報に枠組みを与えて相手が分かりやすいように説明できる能力を指します。頭の中で考えていることを100%言語化することは難しいですが、この能力があれば相手と自分の認識の隔たりを限りなく埋めることができます。最初はただの木だったものが職人によって少しずつ削られることで鮭を咥えた熊の木彫りになるように、最初はぼやぼやしている自分の伝えたいことに的確な言葉を付け加えて説明することで、その核にある自分の真意を伝える行為を説明力と言うのです。「考えはあるけど、どう伝えればいいのか分からない」という悩みはこの説明力に還元されるのではないでしょうか。

②言葉の繋げ方で深みを出す力

“表現力”とも言い換えられ、本来一緒に使わない言葉同士を組み合わせることで既存の言い回しにない言い方で自分の真意を相手に届けることができる能力を指します。通常一緒に用いることのない単語をセットで使うことで、一見よく分からないけどその説明を聞くと納得感に変わる代物です。例えば「忙しい」という形容詞と「食材」という名詞を連結して「忙しい食材」という一見意味の分からない言い回しで「世界中で需要があって毎日消費されるので各地を駆け回らないといけない食べ物」というニュアンスを生み出せます。このような言い回しが何度も登場して大衆化すると、「野菜の王様」「俳優の卵」「英語のシャワー」「酒を浴びる」などの聞き馴染みのある熟語になります。

定義の説明が長くなってしまいましたが、頭のいい人は沢山の言葉を知っているだけではなく使える能力があるため、説明力と表現力のどちらか又はどちらも普通の人より長けています。多くの国立大学の現代文の入試では選択式問題よりも記述式問題を出題する傾向にありますが、「勉強ができる」だけではない「頭のいい」学生を採ろうとしているのかも知れません。

会話の仕方②:話の順序が構造的で分かりやすい

結論→理由→具体例の順で話したり、「理由は2つあります。1つ目は~。2つ目は~。」と分解して理論を展開したり、誤解が生まれないように前提を共有してからトークを始めたり、間接要因→直接要因→結果→影響の順で階層的に説明したりと、思い付いたことを適当に話すのではなく、一度頭の中で整理してから構造的に構造的に説明できる人は「頭のいい人」だと思います。プレゼンが上手い人、授業が分かりやすい先生などはここに当てはまります。

この話し方が特に上手だったのは、ある海外大学の日本人高校生向けのオンラインプログラムに参加した時に英語のディスカッションで凄くクリアに結論→理由→具体例の透き通った説明をしていた同級生の子でした。純日本人の僕はついていくのに必死だったので先生に指名された時も自分の頭にあることを思った順番に話すことしかできませんでしたが、その子は先生に指名されてから考える間もなくこの構造的な説明をしていて、僕はその芸術的な話し方に聞き惚れてしまいました。彼女に聞いてみると、まず聞かれた質問にダイレクトに答える→その後に詳細を肉付けする→最後に説明したい内容に沿った具体例を添えるというステップを意識しているそうでした。さらに自分の説明を相手に聞いてもらうからには相手のストレスをできるだけ減らしてあげたいとも言っていて、話をする相手への思いやりが頭のいい話し方の根底にあるのだと感動しました。

会話の仕方③:みんなが気付かない切り口から話せる

そもそもなぜその切り口に「みんなが気付かない」のでしょうか。それはほとんどの人が前提を前提だと認識せずに当たり前のものとして素通りするからです。頭のいい人は前提が違えば結論も間違った方向に行くという前提の脆さを知っているので、誰もが素通りした前提に疑いをかけてその盲点をつくことが出来ます。これは第1回の記事でお話しした「すぐに結論を出さない」力の応用能力で、彼らは暗黙の了解の「AならばB」という前提を安易に受け入れず、「AならばBだけどAじゃないならCかもしれない」と色々な可能性を残しておくので、「AならばB」だと思って話を進めるほとんどの人から見たら新鮮な切り口を見つけることができるのです。

例えば僕がオンライン塾の運営をしていたときに共同で代表をしていた同級生の子はこの能力に長けていました。塾創設の際にどんなコンセプトの事業をやっていくかを話し合う時に、創業メンバーのみんなが「どんな授業をするか」という方法論を決めるためにアイデアを出してはボツにするのを繰り返して議論が行き詰まっていた中で、彼は「そもそもどんな子を育てたいか」という根本的な問いを投げかけてくれました。「良い授業を思いついたら良い塾ができる」という無意識な前提に対して、この前提が間違っていたら仮に良い授業を思いついても良い塾にならないかもしれないという危うさに気付いて、方法論の上位に立つ“目的”を考えるように議論を方向転換してくれたのです。この時に決めた目的意識は数年後も変わらず、何か方法論を考える時の要となりました。

まとめ:情報整理力が「頭のいい」話し方を生む

たとえ目に見える状況は同じでも、どの部分に着目してどの言葉を当てはめてどの順序で説明するかは人によって大きく異なります。その話しぶりからその人の語彙力の高さ、話す順序や切り口の秀逸さを見て人は頭のいい人を「頭がいい」と感じるのです。語彙力が高く、話す順序が構造的で、みんなと違う切り口から話せる「頭のいい」話し方の特徴に共通するのは、どれも前提として自分の脳内の情報や自分の外部情報を的確に整理できていることが求められる点です。“話す”とは頭の中で考えていることを外側に発信する行為なので、頭の中の解像度が低くて混乱している状態では「どう伝えるか」のフェーズに進めないからです。第一回の記事では内向きの力を「勉強ができる」、外向きの力を「頭がいい」と定義しましたが、ここから「頭のいい」話し方には「勉強ができる」状態が前提条件だと言えそうですね。

今回は「頭がいい人」とはどんな話し方をしているのかをテーマに、彼らの特徴を具体的に分析してみました。次回は行動編です。同じ日常で彼らは何を意識してどんな行動を取っているのか、解説していきます。

著者紹介

藤原 遥人(ふじわら はると)

学校で教えないことを高校生が中学生に教え、勉強の面白さを伝える塾、寺子屋ISHIZUEの創業者。現在開成高校3年生。受験指導ではない、自分で考えて人に伝える力を育てる塾の運営経験から「誰かに何かを教える」教育の難しさを実感し、自らの学を深める大学生活をおくるため受験勉強に奮闘中。趣味はピアノとサッカーとダンス。

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