なぜ中学受験をするのか? 13 首都圏の共学校御三家とは?

「中学受験の基礎知識」シリーズでは、「私立と公立の違いは?」「偏差値って何?」など、小学生のお子さんを持つ保護者の皆さんが気になる項目について解説していきます。Vol.13のテーマは、「共学校御三家」です。

前回と前々回の記事で、男子校御三家女子校御三家と呼ばれる6校を紹介しました。では、共学校の御三家とはどこなのでしょうか? 男子校や女子校のように、不動の3校というのはまだ決まっていないようです。私立の3校で選ぶのか、公立も含めるのかによっても変わってきます。そのような中でも、共学校御三家として常に名前が挙がっているのが「渋幕」「渋渋」と呼ばれている2校です。Vol.13ではこの2校を中心に、「共学校御三家」として名前が挙がる学校を紹介します。

渋谷教育学園の教育

「渋幕」「渋渋」と呼ばれている渋谷教育学園幕張中学校・高等学校と渋谷教育学園渋谷中学高等学校は、どちらも同じ学校法人渋谷教育学園が運営する姉妹校です。両校の学園長である田村哲夫氏は、父親の跡を継いで1970年に学校法人渋谷教育学園の理事長に就任。翌年、渋谷女子高等学校(現 渋谷教育学園渋谷中学高等学校)の校長になりますが、女子教育に限界を感じます。共学の中高一貫校を創設したいという思いから、1983年に渋谷教育学園幕張高等学校を開校。3年後の1986年に附属中学校を開校して、共学校の中高一貫教育をスタートさせました。この成功をもとに、渋谷女子高等学校を改組して、新しい学校として1996年に渋谷教育学園渋谷中学校、1999年に同渋谷高等学校を開校。校舎も新築し、1996年の開校にあわせて地上9階・地下1階の新校舎が誕生しました。

渋幕も渋渋も、教育目標として「『自調自考』の力を伸ばす」「国際人としての資質を養う」「高い倫理感を育てる」という3つを掲げています。男子校御三家・麻布出身の田村氏には、母校に負けない自由な校風の学校を作りたいという思いがあり、禁止事項を羅列するような校則はありません。教育目標の中で最も大切にしているのが、「自分を調べ、自分を考える」ことから、「自らの手で調べ、自らの頭で考える」ことへと発展させる「自調自考」です。その集大成として、高1〜高2の2年間かけて「自調自考論文」に取り組み、10,000文字程度の論文を完成させます。また、学習面での「自調自考」をサポートするのが独自のシラバス(学習計画図)です。入学するとシラバスが書かれた冊子が配られ、生徒たちは6年間どのように授業が進むのか知ることができます。シラバスの開示により、夏休み中に授業の先取りをするなど、生徒が自分で目標を立てて学習を進めることができるのです。

2校とも、開校当初から帰国生を積極的に受け入れています。帰国生からの人気も高く、各学年の約1割が帰国生です。異文化を知る帰国生の斬新な発想から、一般生は様々な面で刺激を受けています。海外大学へ進む生徒も多く、ハーバード大学やプリンストン大学、イェール大学、ペンシルベニア大学といったアメリカの名門大学にも合格者を多数輩出。ネイティブ教員による出願サポートや卒業生が参加する説明会を行うなど、海外大学進学へのサポート体制も万全です。国際理解教育の一環として、中3から高2まで、希望者は英語以外にもう1つの言語(中国語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、韓国語から選択)を学ぶことができます。

【渋幕】御三家の併願校から第1志望校へ

1学年は約300人で、男女比はおよそ2:1。男女別の枠は設けていませんが、男子の受験者数が女子を上回っています。千葉県に住む人たちのための学校として開校された経緯から、高校からでもチャレンジできるように高校募集を行ってきました。ところが、制服のリニューアルを機に、高校募集を停止して完全中高一貫校になる可能性がでてきました。2020年度から制服をリニューアルすると発表した際に、同校のホームページで制服について「これは将来の中高一貫化を見据えたものです」と説明していたのです(2019年6月19日「渋幕の近況」より)。2023年度の高校募集は行われていますが、今後の動向が注目されています。キャンパスは幕張新都心の一角にあり、約3割の生徒が東京や埼玉など県外から通学。千葉県の私立中学は1月に受験できるので、以前は男子校・女子校御三家の併願校として受験するケースが多かったのですが、今では渋幕を本命にする受験生も多くなっています。

同校の理科教育は、実験や観察を通じて探究する能力を培うことを重視。1 階から3階までの全てが理科関連施設という、理科教科に特化した専門棟があります。高校棟屋上に設置された天文台には3種類の望遠鏡があり、さまざまな観測に対応。運動施設も充実しており、ナイター設備完備の人工芝グラウンドをはじめ、4つのグラウンドを体育の授業や部活動に活用しています。運動部では、サッカー部、テニス部、水泳部などが強豪。サッカー部は、毎年夏にブラジル遠征を行い、そこでスカウトした生徒を留学生として迎え入れています。Jリーガーや日本代表として活躍した田中マルクス闘莉王氏(16期生)も、スカウトされて来日した留学生の1人です。サッカー留学生は高校3年間を同校で過ごし、同校の生徒として卒業します。

キャリア教育の一環として、中3以上を対象に「GLFCプログラム」と呼ばれるセミナーを開催。「東京大学研究セミナー」(教授・渋幕の卒業生)、「防衛医大・防衛大セミナー」(防衛省職員)、「マスメディアセミナー」(共同通信社社員)など、大学関係者や各分野で活躍している人の話を聴くことで、キャリアを意識づけ、大学受験のモチベーションにもつなげていきます。

【渋渋】グローバルリーダーを目指し、渋谷から世界へ!

1学年が約200人で男女比は半々に近いですが、女子がやや多いです。渋幕とは異なり、高校募集がありません。キャンパスも渋幕のように広くはありませんが、ICT環境やカフェテリアなどの施設・設備は充実しており、渋谷駅から徒歩7分という好立地です。

渋谷という土地柄を活かして、企業とのコラボ企画なども積極的に行っています。外部コンテストでの受賞歴も多く、2021年度には日本経済新聞社主催の「第5回日経ソーシャルビジネスコンテスト」で、高1のチームが大賞を受賞。受賞したCO2排出量を楽しく記録できるアプリ「かけいぼぐらし」は、日本独自の文化である家計簿からヒントを得たそうです。同校のホームページには、スクールライフ「生徒の活躍」というページがあり、部活動や外部コンテストで活躍した生徒やグループが紹介されています。2020年度には、「JAXA 第1回 きぼうロボットプログラミング競技会」で、日本代表として出場した中3のチーム(Hypernova)が優勝するなど、中学生も活躍。世界大会で優勝経験のある英語ディベート部や、2021年の国際大会で国連事務総長賞を受賞した模擬国連部など、グローバルな部活動も盛んです。

2022年8月には、SDGs をテーマとした19種目を生徒が企画・運営し、オンラインで国内外の中高生を結ぶイベント「SOLA 2022」(Shibuya Olympiad in Liberal Arts 2022)を開催。模擬G7サミット、ビブリオバトル国際大会、中高生地球温暖化サミットなどの種目を通して、国内外の同世代と意見交換をした生徒たちは、ここでの経験を活かして新たなことにチャレンジしていきます。日経ソーシャルビジネスコンテストで大賞を取ったアプリ「かけいぼぐらし」も、昨年のSOLAを経て誕生したものです。世界で活躍している卒業生も多く、6期生の内山慧人氏はハーバード大学に進み、Facebookのアメリカ本社に入社。災害時の安否確認などに活用できる画期的なソフトをFacebookで作り、それが創業者のザッカーバーグ氏の目に留まり、日本人として初めて新卒での採用となりました。

共学校御三家、残る1校はどこ?

「私立の3校」という括りでなければ、残り1校は都立小石川中等教育学校だという声が多いです。同校では、6年間を通してクラスを文系・理系に分けることなく、すべての教科・科目を学びます。「課題発見力」「継続的実践力」「創造的思考力」の育成を目標にした、「小石川フィロソフィー」と呼ばれる教科横断型の選択式授業も特色ある活動の1つです。理科教育では、多くの観察・実験を行い、本物から学ぶことを大切にしています。生徒が継続的に研究活動を行うことができるよう、各実験室を積極的に開放。放課後や休日のオープンラボを活用し、生徒は自らの課題研究に取り組みます。後期課程(4年生~6年生)で自由選択科目として、中国語・ドイツ語・フランス語を開講。国際理解教育にも力を入れており、公立校でありながら渋幕や渋渋に負けない魅力があります。

公立中高一貫校については、過去のこの記事でも取り上げています。

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「私立の3校」で考えると、市川中学校・高等学校や広尾学園などの名前が挙がっています。名前が挙がっている学校をはじめ、気になる学校を比べる際には、偏差値や東大合格者数だけでなく、校風や教育の特色を知るために、学校説明会に参加したり、文化祭などで生徒の様子を見ることが大切です。開催日を調べる際には、『中学受験スタディ』の説明会・イベントカレンダー(首都圏版)説明会・イベントカレンダー(関西版)をぜひご活用ください。

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