第5回 「頭がいい人」はどうやって生まれる?

前回の記事では頭がいいと言われる人に共通する特徴の中でも、特にその行動に焦点を当ててお話ししました。まだ記事を読んでいない方はこちらを先にお読みください。
前回の大まかな内容をまとめると、頭のいい人は知識を行動に反映でき、周りを見て自分の取るべき行動を判断できて、その能力の根底には無色透明な客観情報に自分なりの捉え方を与える解釈力が関わってくるということでした。

ここまでのテーマは頭がいい人の特徴の分析が中心でしたが、今回は頭のいい人はどのように生まれるのか、そのバックグラウンドを分析します。この連載は、僕の高校生活や学外での活動を通して沢山の優秀な人たちに出会えた経験を元に僕個人から見た「頭のよさ」を彼らの共通点などから仮説し分析する内容です。「頭がいい」と言うと一見それが正義の様に聞こえてしまうこともありますが、あくまでも生活を豊かにする可能性のある一つのツールであって、全てを犠牲にしてまで手に入れるべきものではないと考えていることは先に伝えさせていただきます。

「頭のいい」考え方には知識が、話し方には情報処理力が、行動には解釈力が必要ですが、それらはどこで身につくのでしょうか。僕は「頭のよさ」はある程度後天的に育てられるものだと考えていますが、単に受験勉強を頑張ればみんな頭のよさを入手できるわけではありません。初回の記事にまとめたように「勉強ができる」と「頭がいい」は根本的に違うからです。第5回の今回は「頭のよさ」を作り出す生活環境や彼らの姿勢を暴いていきます。

「当たり前」を抜け出す

「頭のよさ」の前提として最も大切なものは「当たり前」を当たり前だと思わない価値観です。先生の言うことは正しい、争うことはよくない、人に迷惑をかけてはいけない、といった月並みな正義や道徳を振りかざしていては自分独自の考え方を生み出せないどころか、新しい考えを頭打ちに否定する頭でっかちになってしまいます。その一方で頭のいい会話の仕方の1つに「みんなが気付かない切り口から話せる」を提示したように、あらゆる前提に疑いを持つと「当たり前」の盲点をついて誰もが気付かない視点から語れます。

「当たり前」を疑う第一歩は独特な感性に沢山触れ、常識に縛られた環境に身を置きすぎないことです。多くの本や映画に触れ、面白い大人や先輩の話を聞き、いろんな場所に行くことは子供のうちからできる効果的な方法です。これらに共通しているのは「自分以外の誰か」の物の考え方を取り入れる絶好のチャンスである点があげられます。本や映画は誰かの思想やアイデアの具現化だし、大人や先輩の面白い話も人生経験が豊富で新しい視点を与えてくれる誰かの物語だし、いろんな場所に行くことも自分とは全く関係のない世界で同じ時代に生きる誰かの生活を知れるチャンス。公立の小中学校に9年間通っていると無意識の内にその学校の同級生や先生の考え方を「当たり前」としてしてしまいがちですよね。そんな中でも、多くの情報に触れ、学校外の大人とも話し、たまに遠くに行ってみる経験があれば自分の身近の「当たり前」を疑う力が備わってくるのです。

開成高校の生徒は整理整頓が絶望的にできず、机の中がいらないプリントでパンパンになった結果ほとんどの持ち物は机の上に積み重ねる習慣があり、それぞれいろんな本を積み重ねています。それを見てクラスのみんなが何を読んでいるのか知るのが僕の趣味なのですが、見てみるとそこには小説や大学レベルの数学の研究本、最新の中国情勢や第二次世界大戦の解釈本などの真面目な本から、ジャンプ系の漫画やスマホでNETFLIXで映画を見たりと、とにかく摂取している情報量が圧倒的でした。ネットや本で世界中の人間の価値観や考え方を入手できる今、そこから得る情報や消費する文化作品の総和が私たちの価値基準を形づくります。触れる情報や作品が多いほど自分や自分の周りの環境が持つ価値観が希釈され「当たり前」が当たり前ではなくなります。そのためか、開成高校の同級生と話すと他人の意見を頭ごなしに否定したり、その意見を言う人によって判断することは少なく、誰の意見であろうと筋が通っていれば共感するし採用する余地があるように思えます。

余談ですが、「頭がいい」と「勉強ができる」がしばしばひとまとめに語られてしまうのは国語の読解力を問う試験が本を読むことの代わりの役割を果たしていることが一因としてあります。受験勉強期間中、難解な論説文や登場人物の感情の変化が複雑な小説文を読む練習を沢山することで何百もの著者の考えに触れ、その数だけ自分にとっての「当たり前」が相対化されていきます。そのため偏差値の高い生徒(国語の勉強を沢山した生徒)は「頭のよさ」を手に入れられる可能性が高く、「頭がいい」と「勉強ができる」は相関が強いのです。
(相対化:一面的な視点やものの見方を、それが唯一絶対ではないという風に見なしたり、提示したりすること)

いつでもどこでも自由研究

これまで申し上げてきた通り「勉強ができる」=「頭がいい」ではありませんが、「頭がいい」の根底には「勉強ができる」があることがほとんどです。つまり、「勉強ができる」人が必ずしも「頭がいい」わけではありませんが、「頭がいい」人は往々にして「勉強ができる」のです 。2回目の記事でもお話しした通り、自分なりの捉え方や物事の客観視をするためには考える基盤としての知識で、この知識は基本的に誰でも後天的な努力によって身につきます。受験勉強は知識そのものの獲得や知識を得るための方法を学ぶ上で大きな効力を発揮しますが、学ぶべき対象やゴールが既に決められている点では不十分です。「頭がいい」とは発信型の能力であり、答えのない問いの正解を作り出す能力。既に決定している受験科目や難易度に合わせて自分の努力の方向や限度が決まってしまう受験勉強をしているだけでは、「勉強ができる」ようにはなっても「頭がいい」状態になるとは限りません。

効果的なのは自由研究です。学ぶ対象自体を自分で決め、何を調べて何を人に聞いて何を実験するのか査定し、出てきた結果を元に次に何をするのかさえも自分で考える。研究成果を人に伝えるためにレポートやプレゼンまですると、どの順序で説明してどの言葉を使うのかまで自分の裁量に任されます。スタート地点である「学ぶ対象を何にするのか」を決める上では、日頃から自分の周囲に興味を持って日常に散りばめられたヒントを探す姿勢が必要です。与えられたものに向き合う受験勉強とは向き合うベクトルの方向が違うのです。ここで言う自由研究とは必ずしも理科の実験みたいなことではなく、自分が疑問に持ったことを問いとしてぶら下げてその答えを探しに行く過程があるものであれば何でもいいのです。例えば首都圏の色々な電車に乗って電車広告に興味を持ち、広告の種類と地域性の関係を調べたり、もっと身近にできることなら学校の先生の生徒からの人気は何で決まるのか、その先生の科目や教え方、容姿や喋り方を比較して考えたり、日常は研究対象に溢れています。その研究成果を友達に話して議論すればレポートやプレゼンの代わりになります。

僕が進路相談をさせていただいた中1の男の子は小学生の時から興味のある人工心臓の研究を続けて数年経った今、その成果が認められてソフトバンクの孫正義さんが主催する孫正義育英財団の候補生に選ばれました。僕はこの研究自体には関わっていないため、これは100%彼自身の努力の賜物です。彼の物の見方を横から見ていて感じたのは、常に積極的かつ自主的に研究していたことです。人工心臓の模型になりうるものを魚の体の動かし方から着想を得たり、人工心臓を本格的に研究している大学教授を泊まり込みで尋ねに行ったりと、その活動には目を見張るものがありました。これまでの常識や既成概念を超えて新しい技術や概念を発明する科学者や研究者の心構えは、発信型の過程に満ちた「自由研究」の姿勢が寄与しているのではないでしょうか。

まとめ:「頭のよさ」は後天的

「頭のよさ」が生まれるバックグラウンドには、「当たり前」を疑う価値観を習得するために沢山の情報や作品を仕入れることと、問いを生み出して答えを探す自走的な姿勢としての自由研究があります。「自分以外の誰か」の物の考え方を一人の人間の中に集めるにはそれだけ沢山のインプットが必要ですし、自発的な心意気を持ちつつ「勉強ができる」状態を獲得するには夏休みの宿題でなくても日々自分の周りに疑問を投げかける姿勢が必要なのです。前回までの記事で紹介した「頭のいい人」の考え方、話し方、行動ができる人には概してこの精神が身についており、より深くこの精神を持つほど「頭のよさ」に深みを持ちます。「頭のよさ」はいきなりアイデアが降ってくる天才的な才能というより、日々の情報の受信と疑問の発信の習慣が結集した結果他の人にはない考え方を生み出せる成長する、後天的な努力によるものなんですね。

今回は「頭がいい人」はどのように生まれるのか、そのバックグラウンドとなる生活環境や彼らの持つ日々の姿勢について分析しました。最終回一歩手前の次回は「頭のいい人」はどんな受験勉強の仕方をしているのか、受験生のお子さんを持つ親御さんにとって身近なテーマをお話しします。

著者紹介

藤原 遥人(ふじわら はると)

学校で教えないことを高校生が中学生に教え、勉強の面白さを伝える塾、寺子屋ISHIZUEの創業者。現在開成高校3年生。受験指導ではない、自分で考えて人に伝える力を育てる塾の運営経験から「誰かに何かを教える」教育の難しさを実感し、自らの学を深める大学生活をおくるため受験勉強に奮闘中。趣味はピアノとサッカーとダンス。

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