第6回 「頭がいい人」の受験勉強のやり方

前回の記事では「頭がいい人」はどのように生まれるのか、彼らが生活の中で何を意識し、どこに視点を置いて暮らしているのかについてお話ししました。まだ記事を読んでいない方はこちらを先にお読みください。
前回の大まかな内容をまとめると、数多くの情報や作品に触れて自分の周りの環境にとっての「当たり前」からいち早く抜け出し、世の中へ好奇心を持って疑問に思ったことを自分で調べたり考察する自由研究的な精神を持っている人は「頭がいい人」に成長しやすいということでした。
今回は「勉強ができる」だけじゃない「頭のいい人」が受験勉強をやるとどうなるのか、具体的な話題に落とし込んでお話しします。この連載は、僕の高校生活や学外での活動を通して沢山の優秀な人たちに出会えた経験を元に僕個人から見た「頭のよさ」を彼らの共通点などから仮説し分析する内容です。「頭がいい」と言うと一見それが正義の様に聞こえてしまうこともありますが、あくまでも生活を豊かにする可能性のある一つのツールであって、全てを犠牲にしてまで手に入れるべきものではないと考えていることは先に伝えさせていただきます。

「勉強ができる人」が必ずしも「頭がいい」とは限りませんが、「頭がいい人」の中には「勉強ができる」人が多いです。普段勉強以外のことに頭を使っていても、いざ受験勉強になるとその実力を十分に発揮します。そこで第6回目の今回は彼らが勉強をする時に何を意識してどこを重点を置いているのか、僕の周りの例を出しながら分析していきます。開成高校に入ってびっくりしたことの一つは、生徒の約8割は努力で合格していることでした。最初から成果が出続ける人は開成の合格者でさえ滅多にいませんし、努力の量と方向性が合っていれば誰でも成果を上げられます。この記事では残り2割の天才の勉強法には触れませんので、安心してお読みください。

正解・不正解には興味がない


問題のマルバツの数を争ったり、偏差値の変動に一喜一憂したり、合格判定が高いと調子に乗ったり、そんな経験は誰しもあると思います。勿論結果にコミットしなければ意味がないので、自分の力を確かめるための重要な指標であることは間違いありません。ただ、「頭がいい人」はそれがあくまでも判断材料の一つでしかないことを知っています。問題を解く上で正解か不正解かよりもずっと大切なことは、自分が本当に理解しているかどうか。たとえ正解できてもまぐれで合っていただけならほんの少し応用されただけで対応できなくなるし、たとえ不正解でも簡単な計算ミスによるものであれば時間をかけて直しをする必要はありません。「頭がいい人」にとって興味があるのは、正解・不正解ではなく”再現性”です。次同じ問題に出会った時に100点を叩き出せるか、応用されたら対応できるか、明日になっても忘れずに覚えていられるか。「いつでも合格点を取れるか」という再現性にフォーカスした自分なりの勉強法を彼らは持っています。

例えば数学の公式は覚えません。新しい公式に出会ったらまずは自分の手で証明してみる。答えを見ながらでもいいのでとりあえず手を動かして頭で理解するプロセスを一度挟みます。公式そのものよりも公式を導き出す過程にある数学的な思考回路が大切なのです。覚えるよりも先にまずはその公式を理解して、忘れてしまったらその度に自分で証明し直して、後は問題を解く内に気付けば覚えている。これが公式というものの本来のあり方なのです。試験開始直前までノートにへばりついて公式を丸暗記してしまうのは、公式をただの暗記ものだと捉えて本質を見失っているからだと思います。覚えるのではなく体に染み込ませることで、自分のコンディションに左右されない再現性のある成績を出せるのです。

歴史の年号も1から10まで覚えません。重要ないくつかの出来事の年号だけを覚えて、重要度の低い出来事は何と何の間に起きたか、他の出来事との前後関係で把握します。それでも暗記できない出来事は自分で語呂合わせを作ったり、人物の特徴を大袈裟に捉えた似顔絵を描いたり、友達や漫画のキャラに当てはめたりして、自分なりの解釈で脳に落とし込みます。

僕の隣の席の友達で、みんなが正解するような簡単な世界史の問題の直しにもの凄い時間をかける子がいました。聞いてみると。勿論その問題は正解したけれど、沢山出てきた疑問点を検索したり地図帳を広げて場所を確認したり、この場合は?逆の場合は?と問いを立てて問題の範囲の外まで話を広げるのに夢中になっていたそうでした。問題をマルバツの二択の結果が得られるだけの装置としてではなく、新たな学びを得られる資源として捉えるこの姿勢があれば、少し角度の違う問題に出くわしただけで途端に問題が解けなくなることはありません。

このように再現性を重視した勉強法は、一つ一つの問題に対して自分で問いを立て、調べたり考察したりして答えを探していく点で“自由研究”に似ています。前回の記事でお話しした「頭がいい人」が日頃から行っている“自由研究”は受験勉強にも活きるのです。ある友達はこの“自由研究”的な精神を持ちすぎた結果、志望校のそっくり模試を自分で一から作り、解答解説も用意して周りの子に配っていました。流石にやりすぎですね。

自分の実力を知っている

タイトすぎるスケジュールを組んで達成できずに意気消沈したり、ルーズすぎるスケジュールを組んで時間を無駄にするのは受験勉強においてナンセンスです。これが起きてしまう理由は、自分のペースを分かっていないことと、やるべきことの優先順位をつけられていないことの2つです。

まず1つ目について。「頭がいい人」は自分が時間に対してどんな価値観を持っているのか客観的に判断することができます。第2回の記事でお話しした通り、自分の立ち位置を把握できることは「頭がいい人」の考え方の特徴の一つです。あえてキツキツのスケジュールにして危機感を持った方が集中できる性格なのか、余裕を持ったスケジュールの方が一つの問題に深く向き合えるのか、自分のペースを過不足なく理解して客観的なスケジュールを組めると、安定して一日の勉強の成果を出すことができます。

何を勉強すべきで何を勉強すべきでないのかもこの問題に関わってきます。これが2つ目です。志望校がどこであれ、勉強すべきことは無限にあります。しかし受験日までの日数は有限なので、重点的に勉強してしっかり定着させるべき分野とそれほど重要で無い分野の優劣をつけなければなりません。この取捨選択の能力も受験においては大切なのですが、「頭がいい人」はこれが得意です。自分の現状の成績から逆算し、合格に必要な成績とのギャップをなくすために、「やることリスト」をどの参考書で埋めるべきか。ここの計画段階で失敗すると大きく遠回りすることになりかねません。「頭がいい人は」やるべき勉強とやるべきでない勉強との間の線引きが上手で、ここに「勉強が得意な人は効率的に勉強している」とよく言われる所以があると思います。勉強するものを選ぶ力と同じくらい、勉強しないものを選ぶ力も重要なのです。

良いか悪いかは別にして、開成高校では授業中に内職をする人が多いのですが、先生によっては怒るどころか何を勉強しているのか興味を持って聞いてくるほど見過ごされています。なぜ内職が許されるのか考えてみたのですが、開成に合格するほどの生徒であれば自分の得意苦手は分かっているはずだから、下手に授業を受けさせるよりできないところを優先的に自習させた方が効率よく成績が上がるだろうと先生方が判断したことが理由の一つにあるかもしれません。英語がもの凄く得意な生徒が1回50分の英語の授業を週4回受けるよりも、その時間を苦手な国語に充てた方が本人のためになるのであれば、本人に任せて自習させる方が合理的ですからね。いずれにせよ、先生や塾から出された課題を上から順番にひたすらやるよりも、自分の実力やペースと相談しながらやるべき課題を取捨選択する方が効率よく合格に近づくことができるのは間違いありません。

まとめ:勉強の本質は参考書の外側にある

参考書の問題のマルバツに一喜一憂せず、再現性を上げることに全力を注ぐ勉強も、自分のペースにピッタリなスケジュール作成も、自分の得意苦手と相談したやるべきことの取捨選択も、問題を解いて解いて解きまくるという筋力ゴリ押しの勉強ではありません。とにかく与えられた問題をがむしゃらに解きまくる“受験勉強”とは一味違います。一般的な受験生と自分の頭で考えて勉強を進める受験生との決定的な違いは、この問題を解いていない時間に生まれるのです。

テレビや冊子の東大生へのインタビューでいつも奇抜な勉強法が紹介されるのは、彼らが問題を解く以外の時間に自分のペースや実力に合った勉強法を模索し、その結果自分だけの独特な勉強スタイルを確立したからです。「頭がいい人」は自分だけのためにカスタマイズされた勉強法をそれぞれ持っています。それは決して誰かの真似ではなく、試行錯誤の結果行き着いた今の所の到達点であって、これから先もさらに変化しうるものです。受験生にとって合格した先輩の勉強法に耳を傾けることより大切なことは、最初は非効率な方法で勉強をしつつも量をこなす中で自分にとっての最適な勉強法を見つけ出すことだと僕は思います。

今回は「頭がいい人」の受験勉強のやり方というタイトルで、一般的な受験生と一線を画す彼らの受験勉強との向き合い方を分析しました。ついに最終回を迎える次回は、ここまで6回分の記事を総括します。ここまで記事を読み続けて下さっている方にも、改めて思考の整理ができる内容にしますので是非お読みください。

著者紹介

藤原 遥人(ふじわら はると)

学校で教えないことを高校生が中学生に教え、勉強の面白さを伝える塾、寺子屋ISHIZUEの創業者。現在開成高校3年生。受験指導ではない、自分で考えて人に伝える力を育てる塾の運営経験から「誰かに何かを教える」教育の難しさを実感し、自らの学を深める大学生活をおくるため受験勉強に奮闘中。趣味はピアノとサッカーとダンス。

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