第11回(最終回) 数学リテラシーの時代 数学を俯瞰する力

問題が解ける力は数学力の1つでしかない

これまでの連載を通して「学校の数学」と「私の数学」という捉え方を示してきました。これまでを総括すると浮かび上がる「数学リテラシー」という新しい数学力を示して最終回としたいと思います。

第1回 非点数化力 100点に何の意味があるのか
第2回 数学ではなくMathematicsの時代
第3回 数学の学びのポートフォリオ 受験数学とMathematics
第4回 数学のリアリティ 受験数学でない数学の力
第5回 数学の興味・関心力 数学を学び続ける原動力
第6回 数学を信じる力 トップダウンで数学と接する
第7回 数学に翻訳する力 世界は数学でできている。
第8回 数学の難しさを知る力 数学の“ムズカシサ”から数学の“難しさ”へ
第9回 新しい数学の学び方 Pythonは新しい数学の教科書

「学校の数学」においては、テストという他人による評価およびそのための「問題が解ける力」が要となります。数学ができるとは、数学のテストの成績がいいことに他なりません。

対して自己評価を学びの中心に据えるのが「私の数学」です。他人がつくったテスト自体に意味がなくなり、したがって解法や公式をたくさん知ることや制限時間以内に答えを導き出せる計算力を身につけるための“トレーニング”も必要なくなります。

コンピューター技術、中でもAI技術の急激な発達は、日々社会全体に大きなインパクトを与え続けています。過去の連載で繰り返し紹介してきたように、AIは数学に支えられています。これまでの文明も数学に支えられてきましたが、現代は一段と数学が社会全体に及ぼす影響が大きい時代です。

AI時代の現代において数学のエキスパートになることは、社会に大きな影響を与える力を持つことを意味します。統計学を基本にしたデータサイエンスという大きなくくりで見れば、さらに大勢の人々に数学の素養が要求されます。統計学の基本が数学だからです。これはAIやデータサイエンスの影響を受ける社会の人々にとって数学は無関係では済まされなくなることを意味します。

これから数学の時代が深化する

もはや方程式を解くことはコンピューターに任せることができます。公式を覚え、時間内に解くトレーニングは必要ありません。代数、解析、集合、論理といった数学が、他分野──物理学、経済学、統計学、エンジニアリング、生命科学、AI技術…… ──にどう関わっているのか、なぜ必要なのかを理解する能力が重要になります。

それが「数学リテラシー」です。テストのための「学校の数学」とは異なる数学力です。リテラシー(literacy)とは、読み書き算の基本的能力・教養という意味です。数学と他分野とのかかわり合いを通してはじめて見えてくるのが数学リテラシーです。

残念ながら「学校の数学」での100点をとるための“トレーニング”を小学校から高等学校まで続けても数学リテラシーを身につけるのは難しいでしょう。それどころか数学嫌いが大量につくられる残念な現状です。

「私の数学」の学びは結果として数学リテラシーが身につくことが特徴です。上に挙げた数学以外の他分野を学びの出発点にすることができるからです。物理学、経済学、統計学、エンジニアリング、生命科学、AI技術のどれをとっても数学が必要になります。

これからの時代、ますます数学が求められていきます。世界人口が80億人を突破した現在、限られた資源の中で生き抜いていくために求められるのは究極の合理性です。それを実現するのが数学です。

社会のあらゆるところで数学の出番となるでしょう。社会に出た時に数学を活かせる実力こそがアドバンテージとなります。

「Do Music」「Do Sport」そして「Do Math」

筆者自身が小学生の時から「私の数学」を実践し現在に到ります。「学校の数学」と「私の数学」の両方を実践することで数学を俯瞰することができるようになりました。

「数学は人類叡智の結晶」
「数学は至極の芸術」
「数学ほど役に立つものはない」
「世界は数学でできている」

はたして、数学を啓蒙することが仕事になりました。それがサイエンスナビゲーターⓇ(サイエンスナビゲーターは当社の商標登録)です。数学はとてもとても大きな世界です。そのことを語り尽くすことはとても難しいことです。だからこそサイエンスナビゲーターⓇはそれに挑戦しています。

筆者は数学を音楽とスポーツと同じようにつきあってきました。それが「Do Music」「Do Sport」そして「Do Math」。決して将来役に立つから数学をしてきたのではありません。数学をしているその瞬間がエキサイティングだからです。

現状では「学校の数学」と「私の数学」はトレードオフの関係にあります。“トレーニング”を減らしてその分を「私の数学」に当てることになります。それが第4回で紹介した「数学の学びのポートフォリオ」です。

「学校の数学」と「私の数学」はどちらも大切であり価値があります。一人一人がそのバランスをうまくとって「Do Math」を実践することができれば学校を卒業した後も数学と付き合っていくことができるようになります。

音楽とスポーツが人生を喜びあるものにしてくれるように、数学もまた人生に喜びを与えてくれます。そして、音楽とスポーツが自由であるように数学もまた自由です。今が「私の数学」をスタートする時です。

編集部より:桜井進氏の新しい連載「算数・数学なぜなに百科」が3月よりスタートする予定です。ご期待ください!

執筆者プロフィール

桜井 進(さくらい すすむ)

1968年山形県東根市生まれ。サイエンスナビゲーターⓇ。株式会社sakurAi Science Factory 代表取締役CEO。東京理科大学大学院非常講師。東京工業大学理学部数学科卒。同大学大学院院社会理工学研究科博士課程中退。小学生からお年寄りまで、誰でも楽しめて体験できる数学エンターテイメントは日本全国で反響を呼び、テレビ・新聞・雑誌など多くのメディアに出演。著書に『雪月花の数学』『感動する!数学』『わくわく数の世界の大冒険』『面白くて眠れなくなる数学』など50冊以上。
サイエンスナビゲーターは株式会社sakurAi Science Factoryの登録商標です。
桜井進WebSite

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