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【連載:数学と言葉】第1回 数の言葉使いその1「可能性は高い」それとも「可能性は大きい」

「可能性はある」という言葉使い

これも気になっている言葉使いです。何事も多くの場合可能性はあり、かつ絶対はありません。確率は0でも1でもない(0<可能性(確率)<1)ということです。確率が0や1であるのは特別な場合です。

絶対に雨が降らない、はありえません。降水確率0%とは絶対に雨が降らない0%のことではなく5%未満の場合を表しています。

先に「万に一つの可能性もない」という例をあげましたが、「1000%、可能性はない」「1000%ありえない」といったりもします。確率の定義からいえば1000%という言葉使いはNGです。

しかし、一般会話の中ではこのような表現がなされます。イレギュラーな表現により話し手の思いの強さを表現しようということです。

ニュース記事から抜粋
(文章1)擁護し続けてきた首相も責任が問われる可能性がある。

(文章2)野党側は総務省幹部が国会でウソの答弁をしていた可能性があるとして批判を強めています。

(文章3)知人や従業員が陽性だった場合に「自分が感染している可能性があるか」どうかを確認

(文章4)上記に該当しない方は感染する可能性はありません。

みなさんはこれらの文章を読んでどう解釈されるでしょうか。私はこうです。
(文章1)と(文章2)の可能性は相当大きいということなのだろう。
(文章3)可能性があるかどうか、といっているが、可能性はあるに決まっているだろう!
(文章4)感染する可能性がないわけないだろう!

(文章1)と(文章2)はいいとして、(文章3)と(文章4)はツッコミありです。
このように可能性がある・ないという言葉使いは、可能性が高い・大きいとは別の問題を含んでいます。可能性が高い・大きいはどちらを使っても真意は変わりないので深刻な問題はありません。

ところが、可能性がある・ないは大問題です。どれほどの可能性があるのかが使い方・文脈で情報がわからないからです。悪い意味で都合のいい・いい加減な言葉使いです。

「可能性」という言葉を考えて使う

以上のように、可能性という言葉を使う場合には、その属性には確率という数値(数)が含まれることを意識することで、高低・大小、ある・ないという使い方に影響を与えます。

可能性という言葉を文脈も考慮し、さらに数値(数)と捉えることで見合った言葉使いをすることができるようになります。可能性の数値の部分を考慮している証として、私は、可能性が大きい、と使っているということです。それは手間がかかることですが、私には日本語をできるだけ丁寧に扱い、内容を相手に正確に伝えたいという気持ちがあります。

言葉使いはルールで縛られるものではないし縛ることはできません。その時代、多くの人に使われることでその言葉使いが生き残っていきます。例えば、ら抜き言葉。私は、ら抜き言葉を使いません。考えながら言葉を発し、文字を書きます。

父とお父さん、この言葉使いは国語で学びました。お父さんを他人に対して使う場合には父と使います。「私の父の職業」が正しく「私のお父さんの職業」はNGです。嫁と妻の使い方も同様です。誰に話すか、誰が話すかで言葉使いが変わります。日本語にはそのように考えないと正確な言葉使いができない言葉がたくさんあります。

しかし、高低・大小の使い分けを私は国語で学んだことはありません。国語の授業だけでは到底日本語のトレーニングはできません。日本語こそ日本人の特権だと私は思っています。日本語があるからこそ私は日本語で考えることができています。

断っておきますが、本連載では言葉の使い方に対して「正しい」「誤り」を訴えるものではありません。日本語の使い方は、正しい・誤りだけで判断できるほど簡単なものではありません。

日本語の言葉は実に多様な意味を含んでいます。私たちは自分が考えていること・感じていること・気持ちを言葉を使って表現します。文字や音声にして。一つの言葉をどのような文脈で使うのか、どのように発するのか、発するときの表情によって相手への伝わり方が変わります。

一つの言葉に多くの情報量を付加させることができるのが日本語です。どのような判断でその一つの言葉を使うのかを考察していくのが本連載の主旨です。この連載でみなさんといっしょに私たちの大切な日本語を数学とともに見つめ直していきたいと考えています。ご期待ください。

第2回を読む

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執筆者プロフィール

桜井 進(さくらい すすむ)

1968年山形県東根市生まれ。サイエンスナビゲーターⓇ。株式会社sakurAi Science Factory 代表取締役CEO。東京理科大学大学院非常講師。東京工業大学理学部数学科卒。同大学大学院院社会理工学研究科博士課程中退。小学生からお年寄りまで、誰でも楽しめて体験できる数学エンターテイメントは日本全国で反響を呼び、テレビ・新聞・雑誌など多くのメディアに出演。著書に『雪月花の数学』『感動する!数学』『わくわく数の世界の大冒険』『面白くて眠れなくなる数学』など50冊以上。
サイエンスナビゲーターは株式会社sakurAi Science Factoryの登録商標です。
桜井進WebSite

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