【連載:数学と言葉】第2回 数の言葉使いその2 数と数字のちがい説明できますか

小学校1年生の算数教科書「さんすう1」

小学校1年生の「さんすう1」の最初の見出しが「かずとすうじ」です。そのことを大人になっても覚えている日本人がどれだけいるでしょうか。
ここで上記で説明した数と数字の説明が見事になされています。絵だけでその本質が表されているのです。

小学校の算数の問題は数に単位がついた数値を扱い、中学、高校と進むにつれて単位がない数を扱うようになります。さらには具体的な数の代わりにxやyといった新しい考え方「代数」が登場し、そのxとyの関係である「関数」という考え方にまで至ります。いつしか算数はカンタンで数学は難しいといったイメージが定着してしまいました。

もっとも難しいことが「さんすう1」の最初に登場しているのです。人類がこの教科書をつくるまでに要した時間は数百万年です。もし算数がカンタンならもっと昔にこの教科書はつくられているはずです。

見えない存在に気づくことがどれほど大変であったか。見えない存在になれるまでどれほど時間を要したことか。かくして、見える数字が数千年かけてデザインされました。数字の絶大な偉力のおかげで、数は見えない存在であるということが隠されてしまうほどになったと言えます。

「数字」を見たり聞いたりしたら…

メディアにおける数と数字と数値は数字に統一されて使われます。私が本や連載を書くときは、数と数字と数値を使い分けて書きます。すると編集者にこの使い分けについて問い合わせがあることが多々あります。そのときにメディアでは数字に統一するというルールをおしえてもらいました。

なるほど、です。使い分けは非常に難しいので一般に使い分けをルールとすることは非現実的です。メディアでは読者や視聴者が受け取るのは、見える(聞こえる)数字なのです。

ざっくりいうと、数字と伝えられる正体は数値がほとんど、少しだけ数、そして最後に数字です。
「数字」と言われる「売上」「視聴率」「感染者数」「得点」「偏差値」などはすべて「数値」です。「数字を足し算する」は本来は「数を足し算する」です。数字はたし算できません。数がたし算できます。これも「さんすう1」を学べばわかることです。
「数字」が本当に「数字」を表すのは次のような場面です。アナウンサーが指でフリップに書かれた数字を指して「このように数字が示すように…」と言う場合には、指で指しているのは間違いなく印刷された「数字」です。

「この数字があらわす数をたし算してみましょう」
「ここにある数字から数値が増加していることがわかります」
と言えば正しい「数字」「数」「数値」の使い方です。しかしこれでは面倒すぎます。数字に統一した方がわかりやすい。言葉の使い方は正しければいいというわけではありません。手短にはやく伝えることも大切です。

「数字」と見聞きしたならば、それは「数値」「数」「数字」のどれを表しているのだろうかと考えてみてください。これは大人のための「さんすう1」の練習問題です。

数学ほど役に立つものはない

メディアは数字があふれています。それに対して数があふれているのが数学です。数学は数字学ではありません。イデアとしての数を頭の中でハンドリングする技術が数学です。驚くべきことに見えない数の世界には驚くべき法則が存在します。人類はその法則を二千年かけて発見してきました。

はたして、数学は20世紀に電子計算機をつくりだすことに成功しました。PC、スマホと言い方がかわっても正体は電子計算機です。スマホを手に握りYouTubeやメールを使い・楽しむ時に想像してみてください。この中に数千年の数学が見事に織り込まれているなんて、と。数がイデアの存在であることの絶大なるリアリティが手に握るスマホなのです。

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執筆者プロフィール

桜井 進(さくらい すすむ)

1968年山形県東根市生まれ。サイエンスナビゲーターⓇ。株式会社sakurAi Science Factory 代表取締役CEO。東京理科大学大学院非常講師。東京工業大学理学部数学科卒。同大学大学院院社会理工学研究科博士課程中退。小学生からお年寄りまで、誰でも楽しめて体験できる数学エンターテイメントは日本全国で反響を呼び、テレビ・新聞・雑誌など多くのメディアに出演。著書に『雪月花の数学』『感動する!数学』『わくわく数の世界の大冒険』『面白くて眠れなくなる数学』など50冊以上。
サイエンスナビゲーターは株式会社sakurAi Science Factoryの登録商標です。
桜井進WebSite

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