なぜ中学受験をするのか? ⑧公立中高一貫校とは? 知っておきたい本来の魅力

「中学受験の基礎知識」シリーズでは、「私立と公立の違いは?」「偏差値って何?」など、小学生のお子さんを持つ保護者の皆さんが気になる項目について解説していきます。

Vol.8では「公立中高一貫校とは? ~知っておきたい本来の魅力~」をテーマに、中学受験について解説します。

公立中高一貫校が誕生した背景

公立中高一貫校は、「ゆとり教育」の一環として1999年に誕生しました。その背景にあったのが、高校受験が過熱することへの懸念です。当時、高校受験を苦に自殺する中学生が出るほど、受験戦争は激化していました。そこで国は、知識詰め込み型の教育からの脱却を目指し、「ゆとり教育」にかじを切ったのです。そして1999年に、高校受験の影響を受けずに、「ゆとり」のある安定的な学校生活が送れるという利点のある公立中高一貫校が、宮崎県、岡山県、三重県に初めて設立されました。その後、全国に設置され、現在も増え続けています。

公立中高一貫校には、3タイプの学校があります。1つの学校として、一体的に中高一貫教育を行う「中等教育学校」、中学からの入学者には高校の入学者選抜を行わずに、中学校と高校を接続する「併設型の中学校・高等学校」、そして「連携型の中学校・高等学校」。連携型は、市町村立中学校と都道府県立高校などが連携し、中学校と高校が教育課程の編成や教員・生徒間交流等の連携を深める形で中高一貫教育を実施します。

新たな設置と高校募集停止の動き

現在、東京都には、都立の中高一貫校は10校あります。都立の併設型中高一貫校では、高校には外部の中学校からも受験選抜により入学できました。しかし、2019年2月に東京都教育委員会が発表した「都立高校改革推進計画・新実施計画(第2次)」では、併設型の都立高校での生徒募集停止の計画を公表。都教育委員会は、中学校の段階での高い入学ニーズを踏まえ、中学校からの入学規模を拡大するために、高校の募集を停止するとしています。

首都圏では、新たに公立中高一貫校が設置される動きもあります。茨城県では2020年度に5校、2021年度に3校が新設され、2022年度にも下妻第一高等学校附属中学校と水海道第一高等学校附属中学校の2校を開校。埼玉県では2021年度に、川口市立高等学校附属中学校が開校しました。2018年に市内の3校を統合して川口市立高等学校が誕生した際に、校舎が新築されたため、ICT関連は最新の設備が整っています。グローバル教育や少人数制の授業なども人気を集め、初年度は倍率が約7倍となりました。千葉県では千葉市立稲毛高等学校附属中学校が、2022年度から千葉市立稲毛国際中等教育学校へと移行し、千葉県内の公立初となる中等教育学校が開校します。

関西では、大阪市立咲くやこの花中学校・高等学校と大阪市立水都国際中学校・高等学校が、2022年度より大阪府に移管予定です。大阪府は、大阪市立の高等学校、全21校を大阪府に移管し、教職員の人事異動や学校配置等の面で、より効率的・効果的な学校運営を目指しています。

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1期生から東大合格者5人を出した「白鴎ショック」

「ゆとり教育」の一貫として誕生した公立中高一貫校は、東大をはじめとする難関大学を目指す、私学の中高一貫校とは一線を画すはずでした。ところが、公立中高一貫校の人気が高まった一因は、大学への進学実績だったのです。

東京都初の公立中高一貫校となった白鴎高校は、2011年に5人の東大合格者を出しました。5人はすべて中高一貫の1期生だったので、「白鴎ショック」と呼ばれるほど注目されたのです。一貫校になる前の白鷗高校からは、2005年の1名を最後に東大合格者が出ていませんでした。それが、中高一貫になって初の6年生(高3)から、東大のほか、早慶など難関私大にも多くの合格者を出したのです。さらに翌2012年には、都内の公立中高一貫校4校からあわせて14人の東大合格者が出たことで、公立中高一貫校はさらに注目を集めることになりました。

その後も、都立の公立中高一貫校は着実に大学進学実績を伸ばしています。2021年度で注目すべきは、小石川中等教育学校の現役での合格者数です。東大18 人、一橋大10人、筑波大7人など国公立大学に77人。難関私大についても、慶応大49人、早稲田大73人、上智大14人、東京理科大35人と、大きな成果を出しています。

関西では、京都市立西京高等学校附属中学校の進学実績が注目されており、2021年度現役での合格者数は、京大39人、大阪大24人。そのほか、同志社大101人、関西大70人、立命館大191人など、多くの生徒が難関大学へ合格しています。こうした実績が大きな要因となり、公立中高一貫校は5倍以上の倍率が当たり前となっているのです。

公立中高一貫校の「特色ある教育」(首都圏)

学力低下を招いたと批判された「ゆとり教育」が見直されると、公立中高一貫校の位置づけも徐々に変化してきました。当初利点として掲げられていた「ゆとりのある安定的な学校生活」よりも、学力と生きる力をあわせ持った「リーダーの育成」を前面に出すようになったのです。東京都教育委員会も、「6年間の一貫教育の中で、社会の様々な場面、分野において人々の信頼を得て、将来のリーダーとなり得る人材を育成する」ことを共通目標として掲げています。東京都教育委員会のサイトには、都立中高一貫校のキャッチフレーズが紹介されていますが、やはり「リーダーの育成」を意識したものが多いです。

公立中高一貫校の開設にあたっては、「特色のある教育」が求められます。私学に負けない独自教育を行っているので、学校のホームページなどで確認しましょう。例えば、「伝統からグローバルな未来へ」をキャッチフレーズにしている都立白鷗高等学校附属中学校は、学校設定科目「日本文化概論」の学習をはじめ、和太鼓や長唄三味線などの部活動もあり、音楽の授業では三味線演奏も学びます。

都立富士高等学校附属中学校は、2021年度にスーパーサイエンスハイスクール(SSH)に指定されました。世界トップレベルの理数系人材を育成することを目指し、理数教育に重点をおくカリキュラムを展開。東大をはじめとする大学や研究機関で活躍している同校卒業生の研究者が、講演や研究室での実習、研究室訪問などで在校生をサポートしています。

横浜市立南高校附属中学校の特色は、総合的学習プログラム「EGG」。EGG体験・EGGゼミ・EGG講座を3本柱とした「EGG」は、豊かな心と高い学力を育成し、自分の力で将来を切り拓く力を育てることを目指しています。例えば、EGG講座では、「消防士による防災講座」「弁護士による法教育講座」「JAXA宇宙開発講座」など、様々な分野の専門家による講座を受講。選択講座では、動物園でのバックヤード体験やニュース番組づくり講座、企業訪問などの活動を通して、将来の進路選択への興味関心を引き出す取り組みを行っています。

公立中高一貫校の「特色ある教育」(関西)

2019年に開校された大阪市立水都国際中学校・高等学校は、設置者は大阪市ですが、民間の学校法人「大阪YMCA」が管理・運営しています。2020年度から国際バカロレア*認定校となり、高校2年次より「グローバルコミュニケーションコース」「グローバルサイエンスコース」「国際バカロレアコース」の3コース制。「国際バカロレアコース」では、国際バカロレア・ディプロマ資格の取得を目指し、資格を生かした大学への進学の道も開けます。
*「国際バカロレア(International Baccalaureate)」(略称IB)は、スイス・ジュネーブに本部をおく国際バカロレア機構が提供する国際的な教育プログラム。

京都市立西京高等学校附属中学校では、独自の「エンタープライズ教育」を実践し、未来社会を創造するエンタープライズシップにあふれた、21世紀をリードする人材を育成。エンタープライズシップとは、常に新しいものを追い求める「進取の気性」、あえて困難な事にも立ち向かおうとする「敢為の気概」、独自のものを創造していこうとする「独創心」という3つを総称するもの。より発展的な学習に挑戦する専門科目として、「エンタープライズ」を設置しています。

このように公立中高一貫校では、各校が特色のある教育を行っています。受験校を選ぶ際には、大学進学実績だけでなく、各校がどのような特色ある教育を行っているか、それがお子さんの興味や関心にマッチしているかをしっかりと調べることが大切です。見学会では、中学校と高校の授業が公開されることもあります。見学できる機会には、中学校だけでなく、高校の授業も見学しておきましょう。学校説明会や文化祭、見学会などの開催日を調べる際には、ぜひ『中学受験スタディ』の「説明会・イベントカレンダー(首都圏版)」「説明会・イベントカレンダー(関西版)」をご活用ください。

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