なぜ中学受験をするのか? 11 男子校御三家、それぞれの特色

「中学受験の基礎知識」シリーズでは、「私立と公立の違いは?」「偏差値って何?」など、小学生のお子さんを持つ保護者の皆さんが気になる項目について解説していきます。Vol.11のテーマは、「男子校御三家」です。

男子校御三家とは?

首都圏の中学受験において「御三家」と呼ばれる3校は、受験生や保護者、そして塾にとっても特別な存在です。男子校御三家と呼ばれているのは、開成・麻布・武蔵の3校。いつから「御三家」と呼ばれるようになったかは定かではありませんが、東大に多くの合格者を出す東京の私学トップ3を「御三家」と呼ぶようになりました。近年は、必ずしもトップ3ではありませんが、男子校御三家が開成・麻布・武蔵を指すことに変わりはありません。この3校には、東大合格者数だけではない魅力があります。今回は、男子校御三家と呼ばれる3校それぞれの特色を紹介します。

麻布の自由な校風は、学園紛争で勝ち取った「自由」

麻布中学校・高等学校の創立者・江原素六氏は、プロテスタント系のクリスチャンでした。現在は無宗教の学校ですが、教育や校風の根底にはキリスト教の精神が流れています。1884年に、カナダ・メソジスト教会が麻布鳥居坂に男子校の「東洋英和学校」と女子校の「東洋英和女学校」を創設しました。その後1895年に、「東洋英和学校」はキリスト教の精神を基底に持ちながらも、布教活動とは一線を画した中等教育を目指し分離独立。1899年に「麻布中学校」と改称して、翌年に現在地へ移転しました。

麻布の魅力として、校則も制服もない「自由な校風」を挙げる人も多いですが、これは学園紛争で勝ち取ったものであり、他校の自由とは一線を画しています。1960年代~70年代にかけて日本の高校生たちは、学校や社会に激しく異を唱え、制服の自由化や管理教育の廃止を求めて起ち上がりました。「学園紛争」などと呼ばれたこの闘いは全国の高校で起きましたが、そのほとんどが説得あるいは鎮圧される形で終わっています。そのような中で、生徒側が全面勝利した数少ない例が麻布の紛争です。学校を私物化していた校長代行を辞任に追い込み、明文化された校則のない学校となりました。麻布の自由な校風は、「私服で通学してよい」「茶髪でもよい」といった表面的なものではなく、生徒一人ひとりの内面的、精神的な自由が保障されているということです。中高一貫の6年間で、自分で考えて行動し、その責任も自分でとるという経験を重ねていきます。

生徒たちの満足度が高い授業の1つが、高1・高2を対象に土曜日に行われている「教養総合」。「作曲法:ピアノ練習曲を作ってみよう」「記号論理学入門」など、専任教員が行う授業のほか、1つのテーマを卒業生など学外から招いた講師が複数で担当するリレー講座も組み込まれています。部活動で注目したいのは、囲碁部、将棋部、オセロ部、チェス部、バックギャモン部といったボードゲーム系の部で、いずれも強豪です。バックギャモンとは、世界で古くから遊ばれる2人対戦のボードゲーム。このゲームだけで活動している部は、全国でも珍しいです。卒業生である渋谷教育学園理事長の田村哲夫氏が、渋幕・渋渋を共学御三家と呼ばれるまでに押し上げた背景には、「母校の麻布に負けない、自由な校風にしたい」という思いがあったことも興味深いです。

校内で飼育されているヤギに象徴される武蔵の「本物志向」

武蔵高等学校中学校は他の2校と異なり、1学年の人数が約180人と少なく、同じ敷地に大学があります。「本物志向」が教育の根底にあり、中学生でも古典の基礎として変体仮名を学ぶなど、高校では大学のような授業を展開。一歩進んだ学びを希望する高校生は、放課後の時間帯に開講されている武蔵大学の正規授業を科目等履修生として受講することができます。中学3年次には、第2外国語としてドイツ語、フランス語、韓国語、中国語のうち1つが必修。第2外国語を学ぶ生徒たちに、実際に現地におもむき、生きた体験をする機会を提供しようと、1988年から国外研修制度(選抜)が実施されています。国外研修制度では、6か国8都市の提携校と生徒の派遣交換を行い、「自ら調べ自ら考える力」を海外で実践する機会にもなっています。

緑豊かなキャンパスには、「ヤギ小屋」があります。ヤギを飼育するようになったきっかけは、2011年に高1の選択必修講座「総合講座」として始まった「ヤギの研究」。それ以降、学年に関わらず、関心のある生徒が「ヤギのひと」として世話をしています。「ヤギの研究」は、武蔵の「本物志向」の象徴です。ヤギ小屋に書かれた「BE A GOAT, NOT A SHEEP(ヒツジになるな、ヤギになれ)」は、「ヒツジのように仲間に追従するのではなく、飼い主に歯向かうこともあるヤギのように、自分で考えて行動しなさい」というメッセージ。このメッセージは修学旅行にもつながっており、武蔵では中学、高校を通して修学旅行を実施していません。「集団の中に個々の責任が埋没してしまうような学校行事はむしろ進んで廃止し、それで失われる美点は別の形で追求すべきである」という考えのもとに、1978年に廃止されました。

武蔵で注目したい行事は、強歩大会(20~30キロ)です。毎年コースが変わり、生徒たちがすべて自分たちで下見をして、地元や警察とも交渉して運営します。卒業生の活躍が知られているのが、太陽観測部。当番制で、1931年から太陽を観察し続けています。毎日黒点の位置を観測して、ひと月ごとに集計。小惑星探査機「はやぶさ」のイオンエンジン開発者の國中均氏をはじめ、はやぶさチームのメンバー3名が太陽観測部のOBです。東大合格者数では全盛期と比較すると低迷気味だったため、受験者数が減少した時期もありましたが、ここ数年で復活してきました。2019年に就任した杉山剛士校長のもとでグローバル構想を策定し、武蔵独自の「広がる学び、つながる学び」を再定義し、深化させています。

行事を通して深める「縦・横のつながり」が「開成人脈」を形成

開成中学校・高等学校は他の2校と異なり、高校入試を行っています。高校からの入学者(約100名)は1年間別クラスとし、内部進学者との進度を合わせて高2から混合クラス。中1と高1は行事を通して、学校での自分の居場所が見つかるような流れが作られています。まず4月に行われるのが、1920年から続く筑波大附属高校とのボートレース。中1と高1によって組織された大応援団は、高3の応援団から「校歌」と「ボートレース応援歌」を指導されます。開成の生徒にとってこの行事は、ボート部の試合を応援するだけでなく、学校への帰属意識を育む機会でもあるのです。

そして5月に行われるのが、名物行事の運動会。全生徒が8つの組に分かれ、高3が下級生の指導を行います。名物行事の中でも、象徴ともいえる競技が棒倒しです。この荒々しい競技を安全に行うために、毎年ルールが話し合われ、100ページにもおよぶルールブックも作られています。運動会に向けて生徒たちは、組織作り、ルールの作成と審議、問題点の改善策を議論するなど、丸一年かけて活動。チームのシンボルとして畳24畳の大きさがある壁画を描いたり、応援歌を作曲するなど、運動以外の多様な才能が発揮される場でもあります。運動会、中間試験が終わると、部活動の勧誘がスタート。6月には生徒が自主的に企画した学年旅行を実施して、同級生との人間関係を深めます。

このように、開成では行事を通して同期生や先輩とのつながりが深まります。このつながりは社会に出てからも力を発揮し、日本の政治・経済界に「開成人脈」を形成。例えば、老舗百貨店の三越と、ファッション性を追求して若者を中心に支持を得ていた伊勢丹の統合です。当時、難しいと思われた2社の統合でしたが、三越の社長だった石塚邦雄氏と伊勢丹の社長だった武藤信一氏がともに開成出身。2人が先輩後輩の関係だったことが、統合実現のカギとなったと言われています。生徒の興味や好奇心を刺激する意味でも、同校にとって行事や課外活動は重要です。2017年に「国際数学オリンピック」で世界一になった生徒は、数学研究部に所属していました。彼は、その後東大へ進学しています。同校から馬主や調教師を輩出していることから、馬体・血統などの多角的側面からサラブレッドを研究するサラブレッド研究同好会などもあり、様々な分野の研究や活動が行える環境です。

WEBマガジン「中学受験スタディ PASS!」では、開成高校に通う高校生が【息子が自ら勉強するようになるプロジェクト】というテーマで記事を書いています。高校生目線で書かれた文章から、学校の雰囲気なども感じ取ることができると思います。こちらの連載記事も、ぜひ参考になさってください。

学校で教えないことを高校生が中学生に教える塾、寺子屋ISHIZUEの創業者、藤原遥人さんの記事はこちらからどうぞ。

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