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実践女子学園中学校

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デジタルパンフレット

スクール特集(実践女子学園中学校の特色のある教育 #3)

修学旅行は探究授業の集大成!3カ所から行き先を選び現地の課題を体感

2020年度から始まった探究授業「未来デザイン」の集大成として、2023年3月に初めての修学旅行を実施。事前学習から現地での体験、事後発表を取材した。

実践女子学園中学校で2020年度からスタートした探究授業「未来デザイン」は、中1から高2の5年間、多様な体験を通して「自分の枠を越える学び」を展開する独自プログラム。その集大成となるのが、高1の3月に実施する修学旅行だ。ニュージーランド、シンガポール、沖縄の3カ所から行き先を選び、それぞれの学習テーマに沿って現地の取り組みを体験する。2023年3月に実施された修学旅行について、沖縄に同行した小川貴章先生、シンガポールに同行した池末知輝先生、沖縄コースとシンガポールコースに参加した生徒2人に話を聞いた。

2020年度からスタートした探究授業「未来デザイン」

中3までの「未来デザイン」では、「国際・異文化理解」「社会・経済」「環境」を大きなテーマとして、インプットベースから始まり、自分の興味・関心のある内容を調べたり、自分の考えを発表する活動を行ってきたと、池末先生は説明する。

「高1の調べ学習は少し難易度が上がり、社会問題がテーマです。夏休みには、自分が住んでいる自治体や身の回りで、社会問題解決に向けた取り組みを行っている個人や団体について調べたり、インタビューをする活動を行いました。大きな社会問題であっても、身近なところで解決に向けて行動している人たちがいることを知った上で、修学旅行の事前学習につなげていきます」(池末先生)

修学旅行の事前学習では、現地の人たちが抱えている社会問題をテーマに調べ学習を行う。

「まずは行き先の状況を知るところから始めて、現地ではどのような社会問題があり、どのような人がその問題の解決に向けて取り組んでいるかを調べて、中間発表を行いました。たとえばシンガポールでは、水資源の不足や水質汚濁などの水問題、埋立地の不足によるゴミ問題など、一人ひとりが調べたことをお互いに発表して共有した上で、修学旅行に行くという流れです。大きな目標としては、どこに行くにしても、その地域の方たちが困っていること、その地域が抱えている問題があるので、それを自分ごととして考えられるようになってもらいたいと考えています」(池末先生)

▶︎池末知輝先生

コンセプトは「地球規模で考え、地域で行動する」

「未来デザイン」は、「Think Globally、 Act Locally(地球規模で考え、地域で行動する)」をコンセプトとしている。修学旅行では、それぞれの行き先で「国際・異文化理解」「社会・経済」「環境」というテーマをしっかり理解して学べるようなコース設計をしたと、小川先生は語る。

「個人旅行ではないので、興味を持ったことをダイレクトに調べることは難しいですが、たとえ直接調査できなくても、現地に行って、現地の空気に触れることで、このような場所だからこんな問題が起きていると、気づくことが学びにつながります。自分が住んでいる地域との違いを感じ、新しい興味・関心を持つきっかけにしてほしいという思いを込めてコースを設計しました」(小川先生)

沖縄は日本国内ではあるが、琉球王国であった歴史や戦争経験、市街地に隣接した米軍基地など、生徒たちが暮らす地域とは大きく違う環境である。沖縄を通して、日本の中でも異なる価値観や課題があると気づいてもらえるようなコース設定をしたという。

「修学旅行を経験してからもう1回、自分の探究テーマを設定して、研究論文にまとめられれば本当のゴールになると思っています。今後も生徒一人ひとりの探究テーマをより深める手助けをしていきます。そして、これから大学に進学するにあたって、自分がこんなことを勉強したいからこの大学にいきたいと、志望理由を考えるきっかけとして、修学旅行が活かされることに期待しています」(小川先生)

▶︎小川貴章先生

沖縄とシンガポール、それぞれの体験

沖縄コースでは、沖縄が地域課題を克服した歴史や経験が現在、国際協力の場でどのように活かされているかをSDGsや平和学習とつなげながら、JICA(独立行政法人国際協力機構)と連携したワークショップなどを通して現地の課題について学ぶ。4泊5日の日程には、沖縄の暮らしを体験する民泊、タクシー班別研修、米軍基地見学、ひめゆりの塔や平和祈念公園での平和学習などが盛り込まれている。

「環境のテーマとしては、サンゴ礁の形成した遠浅の海岸を歩きながら、生物を観測するリーフトレイル体験を行いました。米軍基地では文化の混ざりあった様子を感じるなど、自分たちの生活との違いを体感できたと思います。初日に平和学習を行う学校が多いですが、本校では民泊やタクシー班別研修などで沖縄の人たちの暮らしや文化に触れて、歴史を知った上で最終日に行いました。最後に行うことには、大きな意味があります。ひめゆりの塔の入り口では献花を売っていますが、生徒たちは自分からお花を供えたいという思いを持ってお花を買っていました。学徒隊の生徒は当初セーラー服で通っていたことなどもセーラー服が制服である本校と共通点があり、同世代の子たちがこのような境遇にあったことを自分たちなりに受け止めることができたのです。教室で平和学習の映像を見ただけでは、ここまではいかなかったでしょう。現地の方たちとの交流があったからこそ、一方的に教えるのとは違う経験ができたと思います」(小川先生)

シンガポールコースは基本的に全員で同じ場所を訪れるが、班行動の時間には、現地の大学生によるガイドで班ごとに街散策を行った。3泊5日の日程には、過剰な雨水を干潮時の海に放出して街を洪水から守る「マリーナバラージ」(ダム)や都市計画への挑戦や取り組みを展示した「シンガポール・シティ・ギャラリー」の見学、バスで国境を越えてマレーシアの家庭での異文化体験などが盛り込まれている。

「先日、現地での取り組みについての事後発表を3コース共通で行い、学年全体で共有しました。シンガポールにはごみの埋め立て場所が不足しているという問題や教育に関する問題など、国家をあげて取り組んでいる社会問題があります。発表は、それぞれの生徒の興味や関心に沿ったものとなっており、現地で実際に体験したことや感じたことに加え、事前に調べた資料の提示、現地の大学生へのインタビューを通じて新たに発見したことなどを交えたことにより、より深く学ぶことができた様子がうかがえました」(池末先生)

▶︎沖縄でのリーフトレイル

▶︎マレーシア家庭での異文化体験

高2の生徒2人にインタビュー

Yさん 高2(沖縄コース)
Kさん 高2(シンガポールコース)

▶︎写真左より:Yさん、Kさん

――修学旅行先での探究テーマを教えてください。

Yさん テーマは沖縄県の犬問題です。私は中1の頃から、保護犬のボランティア活動をしています。保健所などで収容しきれない犬やブリーダー引退犬などはそのままだと殺処分されてしまうので、引き取って次の飼い主につなげる活動です。活動をしていると沖縄から来る犬が多いので、なぜだろうと思ったところから調べ始めました。事前学習で、沖縄では放し飼いの犬が多いことがわかりました。そのまま家に帰ってこないこともあり、保健所につれて行かれても飼い主が取りに来なくて、殺処分になるケースも多いようです。

Kさん 私は、シンガポールの空気汚染について調べました。シンガポールは世界一綺麗な国として知られていますが、そのような国でも、何かしら環境に対して悪影響を与えているものがあるのではないかと思って、空気汚染について調べました。

――実際に現地ではどのようなことを感じましたか?

Yさん 最終日に行った公園に「野犬注意」の看板があったので、看板を立てないといけないぐらい野犬が多いことがわかりました。後で市のホームページを見たら、野犬注意のページがあったので、本当に気をつけなければいけないほど野犬が多いのだと思います。民泊した家でも犬を飼っていて、お隣がブリーダーだったり、畑で番犬として飼われている犬を見たりして、沖縄で飼われている犬を見る機会もありました。沖縄は1年間の気温があまり変化しないので、犬を飼いやすい気候です。だからブリーダーが多いのかなとも思いました。

Kさん 実際にシンガポールの街中を歩いたところ、空気が汚いとは全く感じませんでした。14階のホテルの部屋から街並みを見ると木が多かったことから、二酸化炭素を減らすための対策を街全体で行っていると分かりました。どのようなことも現地まで足を運び、現状を確認するということが大切であると気づくことができました。

▶︎野犬注意の看板

――事後発表会ではどのようなことを発表しましたか?

Yさん 沖縄県の犬問題を3つのテーマにわけて、殺処分数、狂犬病の予防接種率、野犬や放し飼いの犬が多いことについて発表しました。殺処分数については、沖縄だけだと問題の解決は難しいので、他県のボランティア団体と協力して解決につなげる必要があると思います。予防接種や放し飼いについては、飼い主の意識が重要です。放し飼いにするから繁殖して増えてしまい、その結果予防接種をしていない犬も増えてしまいます。飼い主のエゴで、首輪をつけたり、リードをつけて引っ張るのはかわいそうなどと思っている人が多いのかもしれません。放し飼いをしたら罰金をとるなど、罪を重くしたら減るかもしれないと考えました。沖縄に行ったことで、ボランティア活動とは違う視点で、いろいろな問題が見えてきました。

Kさん シンガポールの空気汚染については、実際に現地で感じることはできませんでしたが、日本に帰国してから汚染の度合いに関するデータを改めて見たときに、なぜ高い値となっているのかという疑問が残っていました。そこで私はその空気汚染の原因を調べ、私が考える解決策について発表を行いました。まず、汚染の一番の原因となっているのが隣国であるインドネシアの焼畑による煙害によるものでした。シンガポールの空気汚染の現状を改善していくためにはインドネシアの農業形態を変える必要があると考えました。私が示した解決策は、焼畑に代わり、日本の農業にも取り入れられている「農業ドーム」の技術をインドネシアにも導入するというものです。この発表を通して、日本にも貢献できることがあるということに気づくことができ、また、一つの国だけでは解決できないような社会問題が存在することを改めて知ることができました。日本が持つ先進的な技術を取り入れることができればより良い社会の実現に繋がるのではないかと考えています。

▶︎Yさんの事後発表

▶︎Kさんの事後発表

――沖縄ではどのような体験をしましたか?

Yさん JICAのワークショップでは、写真から読み取れる環境問題について考えました。民泊は、4~5人で滞在します。私たちは、畑を見せてもらったり、お母さんが作った野菜が売られているスーパーを見に行ったり、沖縄料理のお手伝いなどもしました。ひめゆりの塔や平和祈念公園には、現地の方から沖縄戦について聞いて学んでから行けたのでよかったと思います。

――初めての海外でどんなことを感じましたか?

Kさん シンガポールは多民族国家なので、歩いているといろいろな方向から違う言語が聞こえてきたりして、異文化を感じました。マレーシアでの生活様式も日本はもちろんシンガポールとも全く異なるもので、行ってみると思っていた以上に国と国の間には大きな違いがあるということがわかりました。一番の気づきは、自分の目でみないと本当の意味での新しい発見はできないのだということです。

――将来についてどのように考えていますか?

Yさん 犬が好きなので、犬と関われる職業に関連したことを大学で学べたらいいなと思っています。ボランティア活動も続けていきたいですが、仕事では別の関わり方をしたいです。例えば、保護した犬が病気になったときに治療ができる獣医師なども考えています。

修学旅行を経験した生徒たちの変化

修学旅行を経て、日々の授業や日常の中で生徒たちの変化を実感していると、小川先生は語る。

「現地に行ったことによって、その地域への興味がより深まったようです。例えば沖縄であれば、今までは基地問題や沖縄戦について、教科書レベルで知っていても身近な問題としては考えていなかったでしょう。6月23日は『沖縄慰霊の日』だったので、朝礼でそのニュースについて話をしたら、沖縄コースに行った生徒たちは行っていない生徒より明らかに反応がよかったです。シンガポールやニュージーランドも同様で、現地に行くことによって、後から課題に気づく芽がたくさん育まれたことが、今回の大きな成果だと思います」(小川先生)

「未来デザイン」の集大成としては、今回が初めての修学旅行だったこともあり、今後の課題も見えてきたという。

「修学旅行でこれだけじっくりと事前学習をしてから現地に行くプログラムは、あまりないと思います。事前学習でもっと現地での行程を考慮した活動をしておくことができれば、現地でしかできないことにもっと時間を使えるようになるでしょう。例えば、シンガポールで班行動に付いてくれる大学生とは、事前にオンラインで相談できれば、より目的にあったコースを組んでもらえるかもしれません。生徒の学びたいテーマに合わせて、もう少し柔軟にプログラムが組めるように考えていきたいと思っています」(小川先生)

▶︎ひめゆりの塔へ献花

<取材を終えて>
インタビューした2人は、行き先は違っていたが、それぞれの場所で現地の課題をしっかりと感じとっていた。Kさんが言うように、実際に見てみるとネットの情報とは違うことも多い。そのことに気づけたのは、中学から「未来デザイン」に取り組んできた積み重ねがあったからなのだろう。2人の話から、学びの土台がしっかりとつくられていることが伝わってきた。

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