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女子校

じょしびじゅつだいがくふぞく

女子美術大学付属中学校

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デジタルパンフレット

スクール特集(女子美術大学付属中学校の特色のある教育 #10)

大学教授が直接講評! 中3生が「遊具」をメインに空間をデザイン

女子美術大学付属中学校では、各学年で女子美術大学や同短期大学部の教授陣による連携授業を実施。「遊具」をメインに空間をデザインし、大学教授から講評を受ける中3の授業を取材した。

同校では中1から高3まで、すべての学年を対象に女子美術大学・女子美術大学短期大学部の教授陣による連携授業を実施。女子美術大学教授の横山勝樹先生による講評が行われた「中3デザイン」の授業を取材し、横山勝樹先生(女子美術大学芸術学部 デザイン・工芸学科 環境デザイン専攻)と美術科の住吉貴一先生(デザインコース)に話を聞いた。

各学年で実施している中高大連携授業

中高大連携授業では、色彩学や立体造形、美術史など、各学年で異なる内容を学ぶ機会を用意。中学3年生は1学期から2学期にかけて公園などに設置する遊具をメインに空間をデザインし、作成したデザインボードと模型をもとに1人1分間の発表を行う。発表後に大学教授による講評を受けられるのは、付属校だからこそ得られる貴重な機会だ。

「本校では大学まで見据えた教育がテーマになっており、常に大学を感じられるように中高大連携授業を行っています。一方で、短時間ではありますが、中高の教員と同じ立場で生徒たちを見ていただくので、大学の先生方に中高の生徒を知ってもらう機会にもなっています。中高生の視点や6年間の成長過程など、各学年を毎年直接見ることは大学にとっても良いことです。今の中高生が何を考えて、何を表現しているのか、リアルタイムで見ていただけるのは中高大連携ならではの面白い企画であり、付属校のメリットでもあります」(住吉先生)

▶︎住吉貴一先生(美術科デザインコース)

「遊具」をデザインした中3の授業を取材

生徒たちはデザインボード(1学期制作)、模型(2学期制作)を使って、1人1分間の持ち時間で、テーマや設置場所、遊ぶ対象者、遊具の素材、遊び方、効果などについて発表した。

タコさんウインナーをイメージした遊具を考えたHさんは、発想のきっかけについて「小学校の遠足では、公園でお弁当を食べることがありました。青空の下で食べるお弁当は、特別感があってとても美味しかったです。その情景を思い浮かべ、お弁当の具を遊具にしたら面白いのではないかと思って作りました」と説明。色の使い方や工夫したところについても語り、1分間の発表を終えた。

Hさんの作品について横山先生は、「タコではなく、タコさんウインナーというのが面白いですね。エビフライとかブロッコリーとか、お弁当に入っていそうなものが置かれていてとてもいいなと思います。子どもたちがお弁当を食べながら遊ぶ情景が、浮かんでくるような作品ですね」とコメントした。

雲をイメージした複合型遊具をデザインしたMさんは、遊具の素材や使用例、工夫した点などを詳しく説明。雲を選んだのは、小さい頃に空を見上げて雲に乗りたいなと思ったことがきっかけだという。

Mさんの作品について横山先生は、「大人になってみれば雲に乗れないことはわかりますが、子どもの頃に雲に乗りたいと思った気持ちなどを忘れないでいることが大事です。それが世界観を作り上げていて、この作品に上手く表われています」とコメント。

すべての発表が終わった後、横山先生はデザインで大事なことは、100点満点は絶対にないということだと生徒たちに語りかけた。

「何かがよければ何かが足りなくなります。必ずそうなるものです。自分では足りないところ、できていないところはわかっているはずです。それはそれとして、自分のいいところはどこか考えてほしいと思って、皆さんのいいところをお話しました。自分のいいところをさらに伸ばして、作品を作っていってほしいです」(横山先生)

そして、「空間デザイン」の空間とは何かについても解説。何もないところをデザインするためには、何が大切かを語った。

「遊具を考える前に、公園でリサーチをしたと思います。遊具を調べる以外に、もう1つ、もしそのときにやっていなかったら必ずやってほしいことがあります。それは、そこで遊んでいる子どもがどのように楽しんでいるか、どのように動いているか調べることです。子どもたちがどのように遊んでいるかをまとめて、設置するものを組み合わせて公園をレイアウトしていきます。何も設置しない空間を残すことで、人をどのように動かせるか考え、そのためのデザインをするのが空間デザインです。何もかもデザイナーが決めるのではなく、子どもたちが遊び方を考えられるような余白を残しておくことも、デザインでは大事になります」(横山先生)

▶︎横山勝樹先生(女子美術大学芸術学部 デザイン・工芸学科 環境デザイン専攻)

▶︎Hさんの作品

▶︎Mさんの作品

年々向上しているプレゼン力

「空間デザイン」に取り組む中高大連携授業を10年近く担当している横山先生は、生徒たちのプレゼンが年々上手くなっていると感じているという。

「1分間という短い持ち時間ですが、自分の言葉で自分の作品をきちんと説明し、自分が考えたことも入れ込んで話せていることに感心します。例えば、安全のために何を考えたとか、高齢者のためにベンチを置きたかったなど、中3では難しいはずなのにきちんと考えられていました。プレゼンの仕方については、先生の工夫も感じられます。この授業が始まった当初は実物のボードと模型を使って説明していたので、どうしても発表する生徒と私の1対1のコミュニケーションになってしまいました。1対1だと、他の生徒は自分の番がくるまで退屈してしまいます。今年はボードと模型を2画面で映写して、さらに住吉先生が模型を回転台に乗せて回転させて見せてくれたので、他の生徒とも共有しやすかったです」(横山先生)

今回作った模型は1/100サイズで、10m×10m×10mの空間を1/100に縮小したケースに収めなければならない。敷地の計算もして収まるように模型を制作しているが、ケースに収まるように作るのは難しかったようだ。実際に、ケースに収まらなかったため、少し傾けて入れていた生徒がいた。その作品について横山先生は講評で「この傾きによってダイナミックな感じになっている。意識的にやったならとてもよいと思います」と語っていた。

「意識的にやったことか確認したら、傾けることでより流れる感じが出せると語っていたので、ちゃんと気づいていたのだと思います。うまくいかない部分があっても、むしろその方がよいと思えることもデザインでは大事なことです。そのことに気づけていたなら、よかったなと思います。今回のような授業では、自分が考えたことを発表するのも大事ですが、他の人がどんなことを考えてどのように話すか、しっかり聞くことも同じくらい大事な勉強です」(横山先生)

生徒たちは自由に発想しているようで、限られた敷地に収めなければならないというデザインのしばりがある。

「しばりの中で形がマッチすると面白くなったりして、小さい中にも自分の世界観を作り上げていました。安全性などを気にしている生徒もいましたが、そういった部分は大学で学べるので、遊具としての楽しさや空間づくりを優先的に考えるのが『中3デザイン』のテーマです。中3で取り組んだこの課題をセルフリメイクして、卒業制作でもう1度取り組む生徒もいます。生徒たちにとっては、1つ1つの制作がかけがえのないものなのです」(住吉先生)

▶︎ボードを右に、模型を左に映写してプレゼンするHさん

大学進学後の付属生

同校の生徒は、その約8割が女子美術大学に進学する。横山先生は、進学した付属生たちは、デザインやアートの各分野に関して広い視野を持っているので、応用力があると感じていると語る。

「付属生と外部から受験した学生、それぞれに良さがあります。付属生は4年生になる頃には世の中を広い視野で見ることができているので、自分にあった職業やルートを上手に見つけている学生が多いです。大学には中国や韓国など、海外から来た学生もいます。中高6年間のびのびと美術の教育を受けてきた付属生は、多様な背景を持つ学生との関係を円滑にするクッション材のような存在になれるようです。クラス全体をよい雰囲気にしてくれていると感じます」(横山先生)

生徒たちの発表が終わった後に、横山先生は同校出身の大学4年生が制作した公園の模型を紹介した。今の中3と同じ課題を経験した大学生の作品は、中3の生徒たちによい刺激になったようだ。

「指導する中で、教員の言葉より先輩の言葉の方が、影響力があると感じることがあります。女子美祭などで先輩たちの作品も目にしているので、憧れの先輩がいたりして、それがモチベーションにもつながっているようです。上級生も下級生の展示を見て、自分たちが取り組んだ課題について『今年の後輩たちは上手いね』などと言うこともあります。女子美生が作り上げてきた、女子美生同士で通じる独特な感性のようなものが代々受け継がれているのかなと思っています」(住吉先生)

中3の生徒にインタビュー

――大学教授による講評の感想を教えてください。

Hさん 酷評されると思ってドキドキしていましたが、思っていたよりたくさん褒めていただけました。優しい言葉で評価していただけたので、嬉しかったです。教授の言葉を参考に、よりよいものを作れるようになれたらいいなと思っています。

Mさん 私も、思っていたより1つ1つの作品を褒めていただけたので、安心して聞くことができました。100点満点はないというのはわかっていますが、自分としてはよかったことに注目するより、改善点に目を向けたい気持ちが強いです。

▶︎Hさん

――空間デザインに取り組んだ感想を教えてください。

Mさん 1学期はボードを制作して2次元に取り組んできましたが、3次元になったときに敷地に合わせてどれくらいの大きさにすればよいか、サイズ感を揃えるのが大変でした。ケースに収めようとすると、全部がぎゅうぎゅうになってしまったので、1度作り直しています。初めは雲が大きすぎて、上に他のパーツを乗せるのが難しかったんです。この模型は2度目に作ったものですが、思ったより小さかったり、もうちょっと大きくすればよかったなどと、いろいろ反省点はあります。

Hさん 私も1度作ってみて、やっぱり思っていたより大きくて箱に入らなかったので作り直しました。デザインボードから立体にするのは大変だったので、無から有を作るのはとても難しいことだと感じています。

▶︎Mさん

――学校生活はどうですか?

Mさん 普通科なので苦手な教科もありますが、美術の時間は楽しいです。美術の時間は、他の人も上手いのでいろいろ学べますし、制作環境も整っているのでいいなと思っています。絵を描くときもみんな違う描き方で、色使いもバラバラなので、周りからよい刺激を受けています。

Hさん 私はダンス部に入っているのですが、とても楽しく活動しています。今はそれが、学校が好きな一番の理由です。美術でも苦手な分野はやりたくないなと思うこともあり、逆にすごく好きな分野はとても楽しいなと思います。

――「女子美祭」で展示されていた先輩の作品で印象に残っているものはありますか?

Hさん 今年は、大学の相模原キャンパスで見た作品が印象に残っています。土の中に何かが埋まっているのを踏む感覚を、体験できる立体作品です。踏んだときのリアル感が再現されていて、すごいなと思いました。「女子美祭」では大学生の作品を見ることもできるので、いろいろな刺激を受けています。

Mさん デザインに興味があるので、デザインの展示室で印象に残った作品がいくつかあります。背景の色が1色だけの作品があったのですが、黒く塗っているのに映えていたので、塗り方が綺麗だなと思いました。その他にもいろいろな作品があり、毎年「女子美祭」では刺激を受けています。「卒業制作展」も作品が一気に見られるので、よい機会だと思います。

――将来はどの分野に進みたいと考えていますか?

Hさん 私はデザインをやりたいと思っています。自分の表現したいものができるし、職業としてもいろいろな可能性がありそうです。保育園に通っている頃から絵を描いていて、その頃は画家になるのが夢でした。美術の道に進むことは、両親も応援してくれています。
 
Mさん 絵を描くのも、ものづくりも好きなので、どの分野に進むかはまだ決めていません。デザインの中ではプロダクトデザインに興味がありますが、デザインに関わるデッサンも楽しいので迷ってしまいます。

<取材を終えて>
授業を取材したが、それぞれの個性が感じられる発表だった。例えばニワトリをテーマにした生徒が2人いたが、全く違う作品になっている。住吉先生はクラス全体で発表を共有するために、今回初めて回転台を準備したそうだが、とても見やすかった。生徒たちも、他の生徒へのコメントを共有しやすかっただろう。横山先生は1分間ですべての生徒に対してよいところを見つけて、どの生徒にも優しく語りかけていたのが印象的だった。

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