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近畿大学附属中学校

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スクール特集(近畿大学附属中学校の特色のある教育 #7)

10年の経験を集約した新総合学習が自信をもった進路選択を叶える。

2011年から他校に先駆けてキャリアデザイン教育に取り組んできた近畿大学附属中学校。その10年の経験を集約した新たな総合学習が、2020年度から始まった。この1年の取り組みについて話を聞いた。

日本有数の総合大学である近畿大学の附属校として創立された近畿大学附属中学校。同校は医薬コース・英数コース アドバンスト・英数コース プログレスの3コース制で、医薬・アドバンストは多くの生徒が外部大学への進学を目指して勉学に励む。結果、”大学附属”と銘打つものの、全生徒の内、約4割が外部大学へ進学するという、関西では珍しい“ハイブリッド型”の附属校なのだ。

同校では、2020年度から新たに「総合表現」「総合探究」という2つの授業を始動した。この授業では、自分の今までの人生を振り返り、自分の可能性を探ることで、自信を持って自分の進路を選択する力の育成を目指す。進路の幅が一般的な附属校よりも広い、ハイブリッド型附属校ならではの新たな総合学習について、教頭補佐の志船 八郎先生と入試企画部長の原 隆博先生に話を聞いた。

人生を振り返る「総合表現」と、自分の可能性を探る「総合探究」

近畿大学附属中学校では、2020年度から総合的な学習の時間に「総合表現」「総合探究」という2つのカリキュラムを設定。「総合表現」では特に書く力・まとめる力を、「総合探究」では調べる力・話し合う力・発表する力の育成を目指す。

書く力・まとめる力を育む「総合表現」

まず「総合表現」では、1年次に文章トレーニング、2年次に新聞作成、3年次にマイストーリー(自分史作り)に取り組む。文章トレーニングでは、これまでの国語の授業で取り組んできた内容を深化し、今まで以上に徹底的に書く練習を行う。

「第一学習社にご協力をいただき、本校オリジナルの冊子を作成しました。最初は書き写すだけ、次に書き写し教材を別の人物の視点から見た文章に書き直しをさせるという風に、少しずつ難度をあげていく構成にしています。教員による添削を繰り返し受けることで、自分の考えをきちんとマス目に表現できる文章力を身につけることを目標としています」(志船先生)

1年間、みっちりと書く力を磨いた上で取り組むのが、2年次の新聞作成だ。産経新聞社と連携して行われるプログラムで、生徒は月1回程度のペースで現役の新聞記者やカメラマンから指導を受ける。先日開催されたカメラマンによる写真講座では、生徒自身が写真を撮り、その写真を使ってレイアウトを組む中で「どういった形で写真を撮れば、人の気持ちに残るか」「レイアウトにより印象がどのように変わるか」などを学んだそうだ。

「新聞社の方が、会社やお金の話など、さまざまな話をしてくれます。なかでも、情報社会である現代において『情報をしっかりと取ることがどれほど大切か』『どれほどネット上には誤った情報があふれているのか』という話を繰り返しされているので、それは生徒達の心に根付いているなと感じます。実際、調べ学習ひとつを取っても、最初の内はウィキペディアなどで調べていた生徒も、今ではもう使いません。省庁や企業のホームページなど、確実な情報を得るようになりましたね」(原先生)

この新聞作成を通して、書く力はもちろん、まとめる力が育成されるという。そして、書く力・まとめる力が身についた段階で、3年次にのぞむのが、マイストーリーだ。これは自分が生きてきた15年間を物語仕立てにして書き上げていくというもの。取り組む過程で、生徒達はこれまでの自分の人生をしっかりと見つめ直すことができる。

調べる力・話し合う力・発表する力を培う「総合探究」

「総合探究」では、1年次はまず自校教育に取り組み、近畿大学の建学の精神「実学教育」「人格の陶冶(とうや)」について学ぶ。これは初代総長・世耕弘一の人生について書かれた1冊の漫画を教材として使用する。自校教育を通して、6年間を過ごす学び舎について深く知ると共に、2年次以降につながる「人生のキーポイント」について考える経験を積むことができる。

次に取り組む探究のテーマは、SDGs。同校の卒業生が執筆した、身近な国から順番に世界を旅しながら行き先の国々のSDGs問題について考えるワークブックを用い、何がその国の問題点なのかという所から調べて、それをどうやったら解決できるのかをそれぞれで考え、発表し、評価し合う。

2年次には人物探究に取り組む。様々な有名人・著名人の人生についてまとめた本を読み、その人の人生で何がキーポイントになっているのかを、班でまとめて、プレゼンテーションを作って発表する。

「同じ人物の本を読んでも、どこがその人のキーポイントになったのかというのは、生徒それぞれで捉え方が違うんですよね。『お金』『会社』『人との出会い』など、何を主題にするかによって、キーポイントが全く変わってくる。それを班として、どうすり合わせて、班の意見としてまとめていくのかという練習になります。また、この人物探究の経験があったからこそ、3年次の「総合表現」で取り組むマイストーリーの時に、自分の人生のキーポイントを色んな視点から考えられたと話す生徒も多いです」(原先生)

3年次の企業探究は、教育と探求社が提供するプログラムで、「簡単にいうと、日本を代表する企業に生徒がインターンとして就職する」のだそう。そして、社員として、その企業から与えられたミッションに挑む。

「インターンとして各企業に就職して、まずはその企業について徹底的に調べます。次に企業理念や可能性というものをしっかりと捉えながら、企業から与えられたミッションに対して、自分たちに何ができるかということを考えていきます。最終的に自分たちの考えを7分間のプレゼンテーションにまとめ、クエストカップにチャレンジしてもらうのですが、その過程で、自分が持っている可能性というものを見つけてもらいたいと思っています」(原先生) 

10年間の貯金×ICTがコロナ禍でもスムーズなスタートを叶える

この新たな総合学習の土台となったのが、2011年にスタートしたキャリアデザイン教育だ。

「本校のキャリアデザイン教育は、学校長の『これからは自分の人生を作り上げていく力が絶対に必要となる』という言葉から始まりました。そこから、大学はもちろん、社会に出てからも必要とされる『書く・まとめる・調べる・話し合う・発表する』という力、そして『考える力』を育成するための授業改革に乗り出しました」(原先生)

今でこそキャリアデザインという言葉を聞く機会は多いが、10年前には、まだ教育現場にはあまりなじみのない言葉だった。ノウハウもない中、どうすればそういった力を身につけられるのだろうかと考えた末、原先生の担当教科である理科では、実験を逆の手順で生徒に行わせることにしたという。

「実験を行うときに、それまでは手順を全部説明してから実験にのぞませ、出た結果に対して解説するということを行っていました。それを、先に結果を提示し、今まで学習した内容からどうしたらこのような結果になるかということを考えさせたり、手順をすべて生徒達に考えさせたりしてみました。実際、危険を伴うものでなければ、失敗してもかまわないので、とりあえずやらせてみましたね。生徒達は自分なりに考えて、他の生徒とも話し合いながら、やってみるようになりました」(原先生)

この取り組みは、教員にも生徒に試行錯誤させることの面白さを気づかせてくれたという。

「これまでのように講義形式で教えて、その通りに結果が出たからといって、この面白さは味わえないなと気づきました。各教科でいろんな取り組みが増えてきて、教員同士でノウハウを共有するために、教科を横断した研修会もたくさん行いました。特に他教科の先生からの視点は、非常に役に立ちましたね」(原先生)

学校全体でキャリアデザイン教育を洗練していく中、学習指導要領の改訂が発表となった。この新しい学習指導要領では『生きる力』の育成の重要性が謳われている。同校で展開してきたキャリアデザイン教育は、この『生きる力』の育成に直結するものであった。

「学習指導要領の改訂に伴い、総合学習の編成に取り組み、この10年間の各教科での取り組みを集約しました。コロナ禍の中でしたが、良いスタートを切ることができました。10年間のキャリアデザイン教育で培ってきた経験があったことはもちろん、2014年からICTを導入していたことも大きかったです。生徒達に調べ学習をしなさいと言った所で、iPadがなければ、ここまで自由に調べることはできなかったでしょう」(原先生)

総合学習を通し、これからの自分の人生を描く

生徒達は、中学の3年間で人生を振り返り、自分の可能性を見つける時間を充分に与えられることで、将来像をしっかりと描けるようになり、自信を持って進路を決められるようになると原先生は話す。

「英数コースアドバンストの生徒には、偏差値だけで志望大学を決めないようにと指導をしています。『その大学で何を学びたいか?』『そこでどんな人間になりたいか?』を問いながら志望校を決めていくのですが、総合学習の経験は、その選択にも当然つながっていくでしょう。また、医薬コースの生徒にも、中学1年生の早い段階から『命とは何か?』『どんな医療人になりたいか?』ということを徹底的に問い続けます。総合学習は、それらを考えるきっかけにもなります」(原先生)

もちろん、近畿大学へ内部進学する際にも、この総合学習での経験は大いに役に立ってくれる。

「英数コースプログレスの生徒が近畿大学に内部進学する際には、志望理由書にもなっている約一万字の論文を書かなければなりません。『今までどのような経験をしてきたか』『それを通してどのような考えを持つようになったか』『その考えを活かして、どの学科に進学して、どのような人間になりたいか』『それがどのように社会貢献につながるか』を書くには、高校3年生までの18年間の人生を振り返り、これからの自分の人生を描くことが必要となってきます。中学3年間の総合学習で培った経験は、この一万字論文につながっていきます」(原先生)

ユニークな視点が光る「近大附中新聞」第一号

2020年度の2年次の新聞作成で、「近大附中新聞」の記念すべき第一号を発行した。この新聞は、1クラスが1面を担当し、全8面の構成となっている。各クラスで趣向を凝らした記事が並ぶが、その中で原先生が一番好きなのは、「近鉄八戸ノ里駅にはなぜ普通しか止まらないか」に注目した記事だという。

「そんな所を疑問に思うんやと、視点のユニークさに驚かされました。近鉄八戸ノ里駅の駅長取材を元に書いた記事にはきちんとした理由が書かれていて、また面白い。他にも『購買部最大の靴は30センチ』なんて記事もあります。めっちゃ面白いですよね(笑)。こういった子どもらしい視点を大事にしたいです。そして、新聞作成を通して、教員が『その視点は面白いね』という評価を生徒達にフィードバックすることによって、大切なことは学力だけじゃないんだということを伝え、皆の意識が変わってくることを期待しています」(原先生)

見守ることで、自分の可能性に自分自身で気づく機会を育む

長らく、中3の企業探究にたずさわってきた志船先生は以下のように話す。

「色んなミッションに取り組む中で、私ら教員が思いつく『ええやん』と思うことは、おそらく企業では採用してもらえないですね。そんなことは、既に誰かが考えて、ダメ出しされているでしょう。やっぱり求められているのは『嘘やろ』とか『そんなバカな』というようなアイディア。でも、それをこうやったら実現できるという提案っていうのは、本当に企業の人たちは喉から手が出るほど欲しがっているということを、企業探究の授業を担当していて感じます」(志船先生)

以前、大和ハウス工業の『超高齢社会に夢のある未来を作りだす型破りな土地活用サービスを提案せよ!』というミッションに対して、回転寿司のように村全体に巨大なベルトコンベアを走らせ、家を乗せて移動させるというプレゼンを作ったグループがあったそうだ。

「非常に面白いプレゼンでした。それを見た時に大人が口を挟んだらダメなんだ、絶対面白くなくなるというのを痛感しましたね。実際、そのプレゼンは選ばれて、クエストカップの全国大会に出場しました」(志船先生)

原先生も「総合学習で大事にしなければならないことは、待つことと聞くこと」と続ける。

「突拍子もないイメージ・アイディアというのが出てくるのが、子ども達の頭です。だから、とにかく待つ。なんか訳の分からないことを言っていても、とりあえず聞いてみる。それがすごく大事だなと。教員という仕事は、ティーチャーではなく、ファシリテーター(誘導役)にならなきゃいけないとよく言われますが、本当に総合学習に関しては教えることは何もありません。脱線しそうな時だけちょっと引き戻して、スケジュールを提示してやるぐらいのことしか、教員はできません。特に総合探究では、生徒達は自分の可能性を見ているわけです。それを我々教員がコントロールできるはずがないんです。生徒達の可能性をコントロールするのではなく、見守ってあげることで自分の可能性に自分自身で気づくという機会を、学校として今大事にしたいと思っています」(原先生)

<取材を終えて>
取材中、志船先生・原先生の口からは、何度も「本当に面白い」という言葉がこぼれた。その様子に、生徒のみならず、教員も楽しんでこの総合学習に取り組んでいる姿が目に浮かんだ。キャリアデザイン教育やICT教育など、新しい取り組みを導入する際には、教員側の苦労も多いことだろう。しかし、それを楽しんで出来る気風が、近畿大学附属中学校の教員には根付いていることが伝わってきた。
新しいことに意欲的に取り組む教員に見守られて、中学3年間でしっかりと自分を見つめ直す経験は、これからの人生において大きな糧となってくれるだろう。この経験を積んだ生徒がどのように育っていくか、非常に楽しみだ。

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