スクール特集(埼玉栄中学校の特色のある教育 #1)

早期の目標設定で大きく伸びる! 進路別3クラス制
埼玉栄中学校では、進路別に「医学クラス」「難関大クラス」「進学クラス」の3クラス制を採用。早期の目標設定により、医学部への進学実績も伸びてきている教育の特色を取材した。
埼玉栄中学校では、進路実現に向けてより大きく力を伸ばしていけるように、入学時から「医学クラス」「難関大クラス」「進学クラス」に分けて授業を実施。「医学クラス」は2025年3月に4期生が卒業し、医学部への進学実績も着実に伸びてきている。同校に着任して36年目となり、2025年4月に校長に就任した勅使河原貞先生に各クラスの特色について話を聞いた。
入学時から目標を意識するためのクラス名
同校の創設者である佐藤栄太郎氏が定めた建学の精神は、「人間是宝」(にんげんこれたから)。人は一人ひとりが宝の原石であると考え、その原石を磨き上げて文字どおりの「宝」とするために、個々の能力を最大限に伸ばす教育を行っている。2016年に設置した「医学クラス」もその考えに基づいたものであり、入学時から「医学部」という目標を持って学ぶ生徒たちからは、大きな「伸び」を実感しているという。
「中学生のうちから医学部を目指すことを明確にしている学校は少ないですし、賛否両論あると思います。しかし、医学クラスという名前をつけた方が生徒たちの中に覚悟が芽生えやすいと考えました。入学時から目的意識を持って医学クラスで学ぶ生徒たちの成長は著しく、3期生(2024年度入試)で医学部合格者が10名を超え、4期生(2025年度入試)は国公立大学の医学部に合格した生徒が出ています。早くから目的意識を持って学ぶことによる成果が、着実に見えてきました」(勅使河原校長先生)
入試の成績によりクラス分けをしているが、興味・関心の変化や学力の向上などにより、進級するタイミングでクラスの変更も可能となっている。
「入学後に弁護士など文系の職業に関心が移ったり、理系でも医学より宇宙への興味が強まるなど、気持ちが変わるのは自然なことです。ですから、柔軟に対応できるように医学クラスと難関大クラスのカリキュラムは同じにしてあります。逆に、難関大クラスの生徒でも、あと数点で医学クラスの合格ラインだった場合もあるでしょう。定期試験や私立中学校が実施している学力推移調査の基準を満たしていれば、難関大クラスから医学クラスへの移動も可能です。実際に、入学後の努力で難関大クラスから医学クラスへ移動する生徒も毎年います。基準に少し足りない場合でも、意欲があって伸びが期待できると担任が判断すれば移動できることもあります」(勅使河原校長先生)
高校は、普通科が「αコース」(国公立、早慶上理および医学部などの難関大学合格を目指す)、「Sコース」(GMARCHや 国公立大学への現役合格を目指す)、「特進コース」(芸術系など幅広い分野の選択肢に対応)の3コースあり、そのほかにアスリートなどを目指す保健体育科がある。
「医学クラスと難関大クラスはαコースに、進学クラスはSコースに上がるというイメージで、中高一貫生は原則内進生のみのクラスで持ち上がります。進学クラスは英語と数学のカリキュラムが大きく違いますが、中2、中3になって医学部や難関大学を目指したいという気持ちが芽生えてくる生徒もいるでしょう。進学クラスから難関大クラスへの移動や、高校からαコースに移動するなど、進学クラスからも進路変更できるように補習によるサポート体制も整えています」(勅使河原校長先生)
▶︎勅使河原貞校長先生
各クラス独自の校外学習
▶︎帝京大学医学部を訪問
「医学クラス」と「難関大クラス」のカリキュラムは同じだが、授業以外の学びに違いがある。
「大きな違いは、医学クラスは毎年最低1回、大学の医学部を訪問することです。提携校となっている日本大学をはじめ、帝京大学、筑波大学、北里大学などの医学部を訪問して、医師になるためにどのようなことを学ぶかを知る機会を用意しています。様々な施設・設備を見学することも、医師になるという決意につながる学びです。医学部訪問を通して、医学部での学びを身近に感じ、学生たちの姿を見て卒業後の自分を具体的にイメージできることが勉強のモチベーションにもつながっていきます」(勅使河原校長先生)
例えば、昨年度は3年生が帝京大学を訪問し、バイタルサインと生命の深い関わりについて講義を受けた後、実際に呼吸数と脈拍を計測したり、酸素飽和度(SPO2)が下がっている人体模型に正常値まで酸素を補給することを体験した。
「難関大クラスの生徒が医学部訪問に参加することはできませんが、難関大クラス向けの校外学習を用意しています。昨年度は、3年生が国会・内閣・裁判所や関係省庁を見学して実際の仕事内容や機能について理解を深めました。2年生は東京大学史料編纂所を訪問して、史料の複製・保存方法等について講義を受けるなど、医学クラスより幅広い分野への興味・関心を持つきっかけとなるプログラムです」(勅使河原校長先生)
進学クラスも、「地球と宇宙」の学習への導入としてさいたま市宇宙劇場で学びを深めるなど、独自の校外学習を行っている。校外学習以外で医学クラス独自のプログラムとしては、中1から医学専門予備校の講義を校内で受けられることも大きな「伸び」につながっているという。
「池袋理数セミナーの講師が本校で授業を行うので、移動時間もかからず、通うより費用負担が軽減できるというメリットがあります。1年生は英語と数学を週1回ずつ、16時から20時40分まで1日1教科を学習するので、最初は机に向かい続けるだけでも難しいでしょう。しかし、継続していくことで、「医学部に入りたい」から「医学部に入るんだ!」というように気持ちも変化していきます。自覚が芽生えてくるとともに、4時間机に向かうこともできるようになってくるのです。6年後の進路実現に向けて早めにスタートすることが、大きな伸びにつながっていきます。校内予備校のない日は、部活動にも参加可能です。学校行事も、他クラス同様に団結して楽しんでいます。医学クラスと他クラスとの違いは、医学部を目指すという具体的な目標を早くから持っているかどうかなのです」(勅使河原校長先生)
よい形のライバル心が芽生えるクラス編成
同校は1学年が約120人、そのうち「医学クラス」は20人前後。年度によって人数は異なり、現在の高3は約30人だが、15人ぐらいの場合は「難関大クラス」の生徒と混合クラスになることもあるという。
「混合クラスの場合は、両クラスの生徒がお互いにプライドを持って、よい意味でライバルの存在を感じながら学べます。入試の点数では上位でも、医学部志望でない場合は難関大クラスに入学する生徒もいます。そのような生徒の存在は医学クラスの生徒たちへの刺激となり、定期テストで負けられないという気持ちにもなるようです。進学クラスは、部活動に力を入れたり、学校行事を存分に楽しむなど、学校生活を充実させながら大学進学を目指す生徒が多いです。中には、トップアスリートを目指す生徒もいます。各クラスは進学の目的が違うだけで、球技大会や体育祭、合唱コンクールなどの行事、部活動は一緒に行っており、クラスの雰囲気にそれほど大きな違いはありません」(勅使河原校長先生)
▶︎体育祭
学年共通の行事としては、1年次は秩父での校外学習(紙漉き体験、BBQ、博物館見学、長瀞岩畳観察)、2年次は鎌倉での校外学習(現地集合・現地解散、班別行動、外国人観光客に英語でインタビュー)、3年次の校外学習は年度によって異なるが、今年度は東京ディズニーリゾートでおもてなしの心を学ぶプログラムを実施。宿泊を伴う校外学習も共通で行われ、1年次は群馬県みなかみ町で農村体験、2年次は京都・奈良で座禅や漆器加飾など日本文化に振れる体験、3年次の修学旅行では沖縄で平和学習や民泊体験を行う。
「中3以上の希望者は、オーストラリア・パースで行われる短期語学研修に参加できるなど、クラスを問わず様々な体験プログラムを用意しています。進路別にクラス分けをしていますが、縦横のつながりなどのバランスもよく、学年で団結する機会も多いです。オリンピックやプロスポーツの世界で活躍する選手も多数輩出しており、様々な分野で活躍できる力が育める環境を整えています。日本大学や芝浦工業大学の提携校となり、通常の指定校推薦枠の他に提携校推薦枠が加わって、進路実現に向けた選択肢がさらに拡大しました」(勅使河原校長先生)
▶︎合唱コンクール
受け継がれる創設者の思い
2025年4月に校長に就任した勅使河原先生は、創設者・佐藤栄太郎氏から教育理念などを直接聞いた世代である。
「校長という立場になって、創設者から受け継いだ教育理念を教員や生徒たちにしっかりと伝えていかなければならないと、改めて感じています。建学の精神には、『日本国民としての常道にしたがい、人は生きた資本資産なりの理想にもとづき、建学の精神を人間是宝と定め・・・』と書かれています。家族を大切にする気持ち、善悪の正しい判断力、周りの人のために奉仕しようとする心など、先祖から受け継いできた常に守るべき道に基づき、人間性豊かな徳操を養うという部分は、変わらずに伝え続けなければならないものだと考えています」(勅使河原校長先生)
一方で、時代の変化と共に変えてきたものもあるという。
「例えば、ICT教育の推進です。様々な場面でタブレットを活用し、全教室に短焦点プロジェクターを設置しました。それらを活用して行うプレゼンコンテストでは、クラス内での予選後、各クラスの代表チームが全生徒の前でプレゼンをします。『スクールコマーシャル』というテーマで行った際は、各学年で実施した学校行事をもとに、本校の良さを生徒たち自身で考えてクイズや動画でアピールしました。佐藤栄太郎先生は、人は誰でも努力と勉強次第でその道の第一人者になれると考え、努力で得た力を自分のためだけに使うのではなく、最終的には国家・社会に役立つ有意な人材になってほしいと願っていました。変わらないものとして創設者の思いを受け継ぎ、それを実現するために、時代の変化に応じて教育DX等を推進していきます」(勅使河原校長先生)
<取材を終えて>
小学生のうちから「医学部進学」というはっきりとした目標を持って、中学校に入学する児童は少ないかもしれない。しかし、「医学クラス」は医学部訪問などを通して、興味や関心、覚悟を確認する機会が早くから用意されている。早い目標設定に不安を感じる保護者もいるかもしれないが、イメージと現実にギャップがないか早めに知ることができるのもメリットの1つだと感じた。入学時からの伸び幅の大きさにも、注目していただきたい。