スクール特集(埼玉栄中学校の特色のある教育 #2)

医学探究では手術の基本手技も体験! 6年間で現役合格を目指す「医学クラス」
中学入学時から、医学部を目指すことを明確にしている「医学クラス」。教育の特色について、6年間通して「医学クラス」の担任を経験し、現役合格へと導いた教員に話を聞いた。
埼玉栄中学校は、2016年に中高一貫教育で医学部を目指す「医学クラス」(1学年20名程度)を設置。6年間で大きく伸ばし、現役での医学部合格という成果も出てきている教育の特色について、「医学クラス」4期生担任の土橋正寛先生(数学科)と「医学クラス」5期生担任の宇野翔吾先生(理科)に話を聞いた。
学力の高さだけでは合格できない医学部受験
中高一貫の「医学クラス」は2026年3月に5期生が卒業し、富山大学をはじめとする医学部に10名の合格者を出すことができた。独自性が強く、対策を立てるための情報を得るのが難しい医学部を目指す中で、当初は思うような成果を出すことができなかったという。しかし、近年では安定して合格者を出せるようになり、4期生と5期生では国公立大学の合格者も出ている。高校3年間だけではかなり難しい医学部への道だが、中高一貫教育で現役合格へと導けるようになった背景について、4期生を6年間担当した土橋先生は自身の経験を振り返る。
「他の学部への受験対策は経験がありましたが、医学部という特殊な世界は初めてでした。生徒たちに話をするにも、医学部受験では何が重視されているか、普段の生活でどんなことを心がければよいかなどを私自身が知っていなければなりません。そこで、最初に始めたのが情報収集です。医学クラスは独自プログラムとして、中1から医学専門予備校『池袋理数セミナー』の講義を校内で受けられます。理数セミナーの先生に毎週本校で授業をしていただいているので、面接でどんなことを聞かれるか、数学ではどのような対策をしておくべきかなどを教えていただきました。また、他の医系専門予備校にも多くの受験生を医学部合格に導いてきた先生がいらっしゃるので、その先生の講演会に参加するなどして情報を得ています」(土橋先生)

▶︎土橋正寛先生
今年3月に卒業した5期生を6年間見てきた宇野先生も、医学部受験は情報が大切だと実感したという。
「今年の結果でも、2次の面接で突破できなかった大学もあり、日頃から医学の知識を入れていかないと面接をクリアできないと実感しています。私のクラスでは、朝のホームルームで生徒たちが関心のある医学関連のニュースを読んで、感想を言い合ったりしました。勉強面では、補習の実施などをある程度担任に任せてもらえたのがありがたかったです。国立の医学部を目指したいという生徒には、中2ぐらいから共通テストを意識した補習も行っています。理系は得意でも国語が苦手な生徒がいたので、周りも巻き込んで放課後に一緒に勉強して、国立大合格につなげることができました」(宇野先生)

▶︎宇野翔吾先生
中学3年間での積み重ねと伸び
高校入学時から医学部を目指すとなると、その時点でかなり高い学力がないと難しいのが現実だ。一方、中高一貫教育の場合、中学入学時から医学部という目的を持って取り組んでいくことで、6年間かけて大きく伸ばすことができるという。
「医学クラスに限りませんが、6年間通して成長を追うことができるのが中高一貫教育の強みだと思います。例えば数学の場合、途中式を中途半端に書く生徒には、中学生のうちに改善するように指導することができました。小さなことでも中学3年間かけて積み重ねていくと、大きな力になることも実感しています。数学では基本を徹底するために、計算問題を毎日10問、毎日チャレンジプリントと名付けて配布していました。合格するまで何度も提出させ、高3までに2千枚、問題数で2万問に取り組んだことになります。その結果、計算力は高入生と比べても圧倒的に高まっていたことが、結果としても表れていました。医師や看護師という職業に就くためには、日頃からどんなことに気をつけていかなければならないかということも、早いうちから意識させることができます」(土橋先生)
中学での3年間を振り返ると、理系に限らず、生徒たちはいろいろなことに興味を持っていたと宇野先生は語る。
「ただ教科書に書かれたことを学ぶだけでなく、プレゼンなどにも意欲的に取り組んでいました。そういった興味が、面接や小論文への対応力につながったと思います。プレゼンが終わると教員やほかの生徒から質問を受けますが、本人が予想していない視点から質問が出ることも多かったです。私は理科の教員なので理論的な質問をしますが、6年間一緒に医学クラスを見てきた社会科の教員は総合探究部の顧問もしており、表現の仕方などに注目していました。専門分野の違う教員2人の異なる視点での指摘なども、面接や小論文への対応力を育むことにつながったと思います。英語に関しては、インプットだけでなく、ライティングなどのアウトプットにも中学から多く取り組んでいます。日本語を英語にする問題では、内進生は少しぐらい文法が間違っていても伝わることを理解しているので、間違いを恐れずに書くことができます。国立大の記述式問題でも、思い切って書けたと言っていました」(宇野先生)

▶︎日本大学医学部訪問(令和6年度)
個々の特性に合わせた受験戦略も重要
「医学クラス」に入学する生徒は、親が医療従事者という家庭も多いが、本人のモチベーションを上げるきっかけ作りに関しても、中学の3年間があることは大きなメリットだという。
「入学当初はそれほど医学部を目指すことを意識していなかった生徒がいましたが、中1から中2にかけて成績がかなり上がってきました。そのタイミングで本人のプライドを刺激して、いろいろな可能性がある中でも、その1つとして医学部を狙える力があることを自覚させたら、さらに力を引き出すことができたのです。もし中学3年間の中でそのような話をする機会がなければ、医学部に進もうと思わなかったかもしれません。中学の3年間という多感な時期は、教員の声掛け1つで生徒は大きく変わります。秘めている力を見出して伸ばしてあげることも教員の役目であり、それがこの時期にできるのも中高一貫教育のメリットです。中2、中3と上がるにつれて、授業やクラスメイトからも刺激を受け、徐々に顔つきや行動も変わっていきます。授業に対する姿勢も、最難関を目指しているという自覚とともに自然と変わっていくのです」(土橋先生)
中学3年間の中で、生徒たちの性格などもはっきりと見えてくる。理数セミナーの講師などから聞いた過去の事例と照らし合わせて、個々に応じた医学部合格への受験戦略を立てることができるのも、中高一貫教育のメリットといえる。
「例えば学力の面では、本人が思うように自由にやらせた方が伸びる生徒もいれば、逆にこちらで細かく見てあげないと伸びにくい生徒もいます。医学部の場合、受験のスケジュールも重要です。同じ日に複数の大学が重なることもあり、1日目にどこを受験するか、何日連続で受験するかを各生徒の体力やメンタルなどを考慮して決めなければなりません。初回に難易度の高さを痛感して後半に向けてポジティブになれる生徒か、逆に初回でへこんでしまうとそのまま失速してしまう生徒か見極めて、最初にどこを受験するか決めることが実力を最大限に発揮することにつながります。そのような細かいところまでわかった上で戦略を練られるのも、医学クラスの強みです」(土橋先生)

▶︎日本大学医学部訪問(令和7年度)
「医学クラス」ならではの学び
「医学クラス」と「難関大クラス」のカリキュラムは同じだが、校外学習などに違いがある。「医学クラス」は中学生のうちから毎年最低1回、提携校となっている日本大学などの医学部を訪問。一方、「難関大クラス」は官公庁や東京大学史料編纂所を訪問するなど、「医学クラス」より幅広い分野への興味・関心を持つきっかけとなるプログラムとなっている。
「もう1つ大きな違いは、高校生になると土曜日に医学探究があることです。面接や小論文にも対応できるように、より医学部受験に特化した内容となっています。生物室で細胞片を見て何の細胞か当てたり、能登震災があった年にはニュースを見て、自分が医療従事者だったら現場でどんなことができるか発表したこともありました。電子カルテを導入していたらどうだったか考えたり、道路も被災しているのでドクターヘリの活用を急いだ方がいいという意見が出たことが印象に残っています」(土橋先生)
同校は、創立時より「本物に触れる」体験を重視しており、芸術鑑賞では劇団四季や帝国劇場で一流のミュージカルを鑑賞し、1990年にはアメリカへの修学旅行をスタートさせている。「医学クラス」も本物に触れる体験ができる環境が整っており、医療分野の専門家を招いて講演を聞いたり、高校2年次の医学探究では山梨大学の教授を講師に招いて手術の「基本手技」を体験。糸結びや縫合の基礎練習から始まり、豚の心臓を用いた観察・切開・縫合、さらに電気メスや内視鏡シミュレーターの操作体験まで、幅広いプログラムが展開される。
「豚の心臓などに実際に触れてみることで、自分は病気を治すよりも素材や組織に興味があると気づき、医学の中でも研究職を目指すことに決めた生徒もいました。中学入学時からはっきりとした目標が決まっている生徒ばかりではありませんが、医学クラスの場合は友達と『何科に行きたいの?』などという会話が自然に出てきます。何気ない会話の中で『自分だったら何科かな?』と考えるようになったりして、医師を目指す気持ちが徐々に固まっていきます。そういった環境も、中高一貫の医学クラスだからこそ得られるものだと思います」(宇野先生)

▶︎北里大学医学部訪問(令和7年度)
医師や看護師に「なりたい」という思い
同校の中学入試ではクラス別の試験は実施しておらず、入試の得点でクラスが決まる。上位から、「医学クラス(または難関大クラス)」、「難関大クラス」「進学クラス」となり、「医学クラス」合格の場合は、手続きの際に「医学クラス」か「難関大クラス」の選択が可能。入学後にも、興味・関心の変化や学力の向上などにより、進級するタイミングでクラス変更が可能となっている。入試の得点が上位というと、勉強一筋の学校生活を送るタイプが多いと思われがちだが、同校にはそのようなタイプはほとんどいないという。
「入学当初は、勉強に前向きに取り組める生徒ばかりではありません。計算の途中式を書かない生徒がいたり、掃除の時間に計算プリントをやり始めるマイペースな生徒がいたり、いろいろなタイプがいます。そのような生徒たちと家族のように接しながら、一人ひとりの可能性を見出していきます。時にはぶつかり合うこともありますが、なぜそれが重要なのかきちんと理解させることができたら、そこから学力も伸びていきました」(土橋先生)
同校では、どのようなタイプの生徒が入学してきても、勉強だけでなく、生活面においても自立できるように、中学生のうちから社会に出ることを意識してしっかりと指導を行っていく。
「先ほどお話した医学探究の例で、ドクターヘリの意見を出したのは、ドクターヘリに乗りたくて医学クラスに入学した生徒です。中学時代は学力がずば抜けてよかったわけではありませんが、小さい頃からずっと持ち続けている夢だったので、高2あたりからこちらが心配するぐらい勉強に没頭して、希望の進路を実現しました。ドクターヘリの基地病院となっている福島県立医科大学に合格して、今はドクターヘリに乗るための勉強をしています。誰かに言われたから医師や看護師を目指すという生徒より、自分がなりたいと思っている生徒の方が伸びも大きいと感じます。まだ将来についてははっきり決めてなくても、入学後に様々な体験を通して気持ちが固まっていくので心配はいりませんが、医師や看護師になりたいという意志を明確に持って入学してきてくれたら、より大きく力を伸ばせると思います」(土橋先生)
<取材を終えて>
埼玉栄高校全体の2026年度大学合格実績は、医学部合格者が浪人生も含めて10名。10名のうち中高一貫から9名の合格者がでていることを考えると、やはり高校から医学部を目指すことの難しさがわかる。クラスの友達から刺激を受けたり、本物に触れながら内面が鍛えられていく環境が整っていることも、中学から「医学クラス」で学ぶことの大きなメリットだと改めて感じた。さらに、医学部合格への戦略に関してもノウハウが蓄積されてきたことも、「医学クラス」の大きな強みといえるだろう。

▶︎北里大学医学部訪問(令和7年度)
この学校のスクール特集

早期の目標設定で大きく伸びる! 進路別3クラス制
公開日:2025/5/1






































