私立中学

女子校

りっきょうじょがくいん

立教女学院中学校

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スクール特集(立教女学院中学校の特色のある教育 #2)

各生徒の熱意と創意、探求心のこもった中高6年間の集大成の卒業論文

中高6年間に積み上げてきたARE学習の成果「卒業論文」を締めくくる、総決算となるプレゼンテーション「公開発表会」とは?

6年間の学びの総仕上げ

立教女学院では、中高6年間を通して生徒の課題設定力、調査研究力、表現発表力などの育成に力を入れています。 その総仕上げとなるものが、高校3年生の卒業論文です。 高1・高2の準備段階を経て、高3の新学期から本格的な制作が始まります。テーマ決定、資料収集・読解、フィールドワークなどの調査、論文アウトライン作成・執筆……担当教員のアドバイスのもと、すべて生徒が自ら行います。夏休み中の8月にドラフト論文(下書き)を提出、その後推敲し、11月初旬に本論を学校に納めます。原稿用紙にして本文のみで100枚が上限。毎年各生徒の熱意と創意、探求心のこもった力作が並ぶ、大学の卒論にも等しい研究活動となっています。 立教大学への推薦希望者は、卒業論文が必修。他大学受験を志望する生徒は選択となりますが、卒業論文はAO入試などにもそのまま役立つため、例年多くの生徒が選択します。

ドラフト論文(下書き)

最優秀論文の発表会は一般公開

卒業論文を仕上げたあとは、締めくくりとしてプレゼンテーションが待っています。1人10分の持ち時間で、プレゼン用の資料と原稿を作成。これまでの努力の成果を全員が発表し、研究テーマについてみんなで共有します。まずはクラス発表会。そこから代表者を選出します。
次にクラス代表による合同発表会を開催。優れた論文に優秀賞が授与されます。さらにその中から、学年代表生徒3名が選出され、公開行事においてプレゼンテーションを行います。この公開発表会は3月に開催され、受験希望者やその保護者が参観できます。当日は立教女学院を卒業して大学で学ぶOGや、社会人として一線で活躍するOGを招き、卒業論文がその後の人生に及ぼした影響についての講演も行われます。

公開発表会は、まさに生徒たちが中高6年間に積み上げてきた学習の総決算といえるのかもしれません。学院ではこの発表会を学校行事として位置づけ、重視しています。参観者からも毎年大きな反響が寄せられます。

クラス代表者による合同発表会を取材

公開発表会に先立つ12月中旬、クラス代表による合同発表会が行われました。
今回開かれたのは、立教大学推薦希望者クラスの合同発表会。
代表生徒7名の卒論テーマは次の通り。

「Jホラーのハリウッドリメイク版で幽霊・怨霊要素が薄くなる理由」
「中食産業の市場規模が拡大している理由」
「多摩ニュータウンの再生が進まない理由」
「アロハシャツが現在でも着続けられている理由」
「うどんが日本の<国民食>になり得た理由」
「ピンクが女性のイメージカラーとして使用される理由」
「『ピーナッツ』が子供だけの世界であるのに、大人の共感も得られる作品である理由」

発表は、テーマを設定した動機、結論を導くためのいくつかの仮説・立証、結論、感想の順で理路整然と進められます。
「Jホラーのハリウッドリメイク版で幽霊・怨霊要素が薄くなる理由」の発表者は、父の影響でホラー映画が好きになったと動機を語ったあと、3つの仮説を提示。

1.日本で恐れられるのは「幽霊」、西洋では「悪魔」だが、これは宗教の違いによるものではないか。
2.邦画『リング』では狭い部屋という密室での恐怖が特徴的だが、リメイク版では「密室」が部屋にとどまらず家を取り囲む外部まで拡大されていることがうかがえる。これは日米の「家の構造」の違いを反映しているのではないか。
3.「怨霊」に対する考え方が日米で異なるのではないか。

次にそれぞれの仮説について、アメリカ人はキリスト教徒が多いため幽霊を恐れる習慣がないこと、アメリカ住宅の構造や規模が、幽霊・怨霊映画を撮影する上で、不向きであること、日本では「怨霊」が古くから能や歌舞伎などに登場し、なじみのあるものに対し、アメリカでなじみのあるのは「モンスター」であること、またハリウッド・ホラー映画の歴史などについて検証し、「幽霊・怨霊要素が薄くなる理由」として立てた3つの仮説を立証してみせました。最後にこの研究を通して、日米の文化や価値観の違いを知ることができたと感想を述べました。

クラス代表による合同発表会

「中食産業の市場規模が拡大している理由」ではデパ地下を調査し、「多摩ニュータウンの再生が進まない理由」では現地調査を行うなど、生徒たちはフィールドワークも行い、説得力ある結論を導いています。テーマの設定もユニークで独自性があり、核家族化や少子高齢化、都市の過疎化など社会問題や、国内外の文化、歴史、生活習慣といった広く深い視点に立っていることがわかります。
また、それらの論考は過去・現在を経て、未来への展望やまなざしが含まれていることも特徴的でした。
発表も原稿を読みながらでなく、マイクを持ち、聴衆に顔を向けて自信を持って発言。研究プロセスや調査結果、そこから導かれる結論や問題解決策など自らの考察を生き生きと語ります。

生徒たちの意欲と高い完成度が伝わってくる発表会でした。

卒論テーマ「多摩ニュータウンの再生が進まない理由」の発表

卒論で在原業平像に迫る

一般受験希望者クラス(文系・理系)で卒業論文を選択した生徒による合同発表会は、過日に済んでいます。
文系大学受験クラスのO・Mさんは「在原業平はなぜ長い間多くの日本人から愛されてきたのか」をテーマに卒論をまとめ、生徒たちから圧倒的な得票数を得てクラス代表に選ばれました。そして校内審査の結果、優秀賞を受賞。多方面からのテーマ探求と論文への熱意が高く評価されたといいます。
そこで、今回の取材のためにO・Mさんに再度発表してもらいました。

テーマ設定の動機として、以前から平安貴族に興味を抱いていたこと、授業で学んだのをきっかけに自ら『伊勢物語』を読み、みやびな業平に強い関心を持ったことを挙げます。

テーマに対する仮説として、以下の4つを立て、検証しました。
1.容姿端麗
2.和歌が得意
3.身分にとらわれない自由な恋愛
4.高貴な血筋でありながら不遇な一生

仮説
1.について、『日本三代実録』等に記される業平像を探り、古い文献に業平の「美男子」ぶりが語られていることを提示。
2.については六歌仙の一人であり、87首もの和歌が勅撰和歌集に入集していることなどを提示。
3.については、『伊勢物語』に載る、必ずしも実話とは言えない業平の自由恋愛のエピソードが人々に受け止められてきたことを紹介。
4.については、業平の官位の推移を自作グラフで示し、最終的に正四位上である蔵人頭まで昇進したことを根拠に、実際は藤原氏以外の貴族としては、それほど不遇ではなく、才能を持った人物であったと考察します。

さらに業平が1000年もの時を超えて愛され続ける理由として、平安の貴族文化の特徴である「みやび」について考察。平安期以降も「みやび」は絶えることなく受け継がれてきたこと、そのなかで『伊勢物語』も読み継がれ、能や歌舞伎、浄瑠璃、絵画・工芸など日本の伝統芸能・美術に多く取り上げられていることを挙げました。
最後に感想として、資料の多くは漢文であり、読解に苦心したことを振り返ります。
また研究を進めるうち歴史上の超有名人である業平をめぐってフィクションも多いことを知り、そのために多くの資料の中から真実を見分ける力が養われたこと、さらに卒論を通して根気強く物事に向き合い続ける力や文章をまとめる力、プレゼンテーション力などを身につけることができたと述べました。

多角的な視点から在原業平像に肉薄し、さらに「みやび」の世界にまで論考を広げたO・Mさん。その発表から、O・Mさんの情熱や考察力、自ら身につけた教養、研究する喜び、発表力などがひしひしと伝わってきました。
発表を終えたO・Mさんに話を聞きました。

卒論テーマ「在原業平はなぜ長い間多くの日本人から愛されてきたのか」を発表中

卒業論文を終えて~O・Mさんのお話~

高2の時点では、漱石や葛飾北斎なども卒論テーマの候補に挙げていました。
でも私がいちばん興味があるのは日本文学、なかでも古典です。小学生のとき百人一首を教わって好きになり、中学生になって百人一首についての本などを読みました。『伊勢物語』は高1の古文の授業で読み、それがきっかけで田辺聖子の『伊勢物語』を読んでみました。
卒論テーマの最終決定は高3の4月ですが、春休み中の3月に、祖父、祖母と3人で京都・奈良を旅行したんです。京都では業平ゆかりの十輪寺、奈良の不退寺などを訪れてみた。それで最終的に業平をテーマに選びました。卒論を書いている間、日本文学が好きな祖父と議論するなどして、祖父も協力してくれましたね(笑)。
夏休みはずっと家にこもって論文を書いていました。それで8月にドラフト論文(下書き)を提出し、9月には先生からのアドバイスとともに返却されます。それから11月初めの本論提出まで、もう時間がありません。秋は体育祭や文化祭が続いて忙しい。その最中も時間の合間を縫って図書館で論文づくりをやりました。 書いているときはとても楽しかったです。自分の好きなテーマですから。でもたまに、触りたくないと思うときもあるんです。根を詰めすぎて少し疲れたのかもしれません。そんなときは1週間くらい論文から離れました。無理にやって、業平を嫌いになりたくないから。そして新鮮な気持ちを取り戻すために、また原点となった田辺聖子の本を読みました。
調べている最中に、業平の恋愛にはフィクションも含まれていることを知ってがっかりしたこともありました。では自分は業平のどこが好きなのか。そうだ、業平は和歌が得意なのだ、私はそこが好きになったのだと気づいたり……。

資料についても、一般書などはフィクションをそのまま真実のこととして載せているのもあるので、なにが本当なのかを調べ、見極める力が必要です。文献は100以上当たっています。古本市や古書店で資料集めもしたし、学校図書館や立教大学の図書館、公共図書館も利用しました。 反省点は、最初新しい知識を得ることがあまりにも楽しかったため、手を広げすぎてしまったので、もう少し焦点を絞り、深めたかったということです。
それと歴史に関係する研究テーマは、自分のオリジナリティーを出すのが難しいことも知りました。でも、それを出すことが大切。源氏の君は完璧すぎるし、想像上の人物です。でも業平は実在する人物。何よりそこに惹かれます。卒論から得たものは大きいですね。自分はやはり日本文学が好きなのだと実感しました。
卒論を書いていて自分の興味がどんどん広がっていった。もっと知りたい、という知的好奇心をこんなにも自分が持っていることを知った。これが出発点なのだと思います。

「優秀賞」を受賞した、文系大学受験クラスのO・Mさん

「卒論を書いて、知的好奇心をこんなにも自分が持っていることを知った。」と話すO・Mさん

国語科 高橋 育子 先生 のお話

高3の卒業論文は今年で11年目を迎えました。それに先立って、学院独自の総合学習であるARE学習の時間を2000年度より設置しています。文部科学省が総合的な学習の時間を新設したのは2002年。本校はそれより早く新しい教育に着手しています。それは自らテーマを求め(Ask)、調べ(Research)、言語化して発表する(Express)力の育成です。

ARE学習の時間は中高に設置し、中学では新聞を題材とするレポートや、平和学習、人権をテーマとして社会のあり方について考えたりするなど、学年を追って自学自習力を高めていきます。
高校では中学3年間のARE学習で培った課題設定力や調査研究力、発表表現力をもとにして、卒論の準備に入ります。高1・高2は論文作成のオリエンテーションやテーマに関連する読書活動などを行います。卒業論文はまさにARE学習の集大成といえますね。
立教大学推薦希望者に加え、一般受験希望者の多くも卒論を選択します。今年は高校3年生の約7割が卒論に取り組みました。 卒論で重視するのは、生徒が自分と向き合い、対話し、自分を深めること。また、社会に対する興味・関心を持ち、その見方を培うこと。だからテーマも自由に考えさせます。そのためにまず何かを「発見」する視点が大切。最初は10テーマを挙げさせます。 テーマを探し、調べ、答えも自分なりに探すというプロセスを経験することで、生徒は今までなぜ自分が学校でいろいろな教科を勉強してきたのかを知るようになる。そして、世の中の広さを実感します。知ること、発見することの喜びも味わいます。 教員は綿密に指導します。高3のARE学習の時間は1クラス15名で編成します。担当教員は生徒とカルテをやり取りし、研究の進捗状況をチェックしアドバイスをしていきます。でも、物事を考え、行動するのはあくまでも生徒です。

いまどきの生徒は情報集めは得意です。しかしそれだけでなく、長い文章を書く、人に伝えるといった訓練も必要です。客観性を保つこと、反対の意見についても調べること、他人の意見に引っ張られないこと……生徒たちはそういうことに苦心しながら取り組みます。自分の得意や苦手にも気づきます。文章を書くのは好きでも、初めて聞く人にもわかるように発表することは苦手であったり、本を読むことは得意でも、様々な統計・資料を読み解くことが苦手であったりします。まずそのことを知り、それをこの機会に乗り越えてほしいと考えています。 完成したとき、生徒たちはとてもいい表情を見せます。発表する生徒、それを聴く生徒……みんないい顔をしている。達成感と自信に満ちています。そうした生徒たちを送り出すことが、私たち教員の喜びですね。

最後に、公開発表会についてお話ししたいと思います。昨年の公開発表会に出場した代表生徒3名の卒論テーマは次の通りです。

「ハロウィンがアメリカで広まった理由~何故ハロウィンはアメリカで広まったのか」
「安倍晴明の知名度が高い理由~賀茂保憲は何故安倍晴明より知名度が低いのか」
「日本の高校における化学教育の問題点~高校の化学と大学の化学で断裂が生じるのはなぜか」

「化学教育」を取り上げたのは理系クラスの生徒です。高2のときに「未来の科学者養成講座」(科学技術振興機構主催)に選抜され、約半年間、東京大学生産技術研究所にて研究・実験を経験したときに感じたことを、卒論テーマとして取り上げました。

公開発表会では参観者からの手応えも感じています。
一昨年の公開発表会では、「タイにニューハーフが多い理由~何故タイにニューハーフが多いのか」というテーマで発表した生徒がいました。
そのときのある参観者の働きかけによって、この論文がいくつかの企業で人権問題を考える資料としても使われることになりました。 公開発表会では学院のOGとして、卒業論文執筆等を経験した大学4年生と社会人による講演も行います。 立教女学院は伝統的に自由な校風で、生徒の意思を尊重します。生徒たちは学校内外で自分の好きなこと、興味のあることを見つけて自由に活動する。卒業後は大学や社会で生き生きと活躍しています。

卒業生たちはみんな、卒業論文が現在の自分につながっていると語ります。今年度の3年生の公開発表会も充実したものになると思います。どうぞ多くの方の参観をお待ちします。

国語科 高橋 育子 先生

◆公開行事◆ 3月16日(土)14:00~15:30 高3卒業論文発表会を行います。

立教女学院では、中学校3年間で培った課題設定力・調査研究力・発表力を基礎に、高1・高2の準備段階(論文作成のためのオリエンテーション受講およびテーマの模索・テーマに関連する読書活動)を経、高3で卒業論文の作成を行っています。2月13日(木)10:00から予約を開始しますので、ホームページをご覧ください。

<プログラム内容>

1.開会挨拶

2.高3生徒による卒業論文プレゼンテーション

3.卒業生の話「高校卒論と大学での学び」
(1)「4年間の大学生活を終えて ~高校卒論と大学での学び~」
(2)「社会人になって~学びの先に未来を描く~」

4.高3生徒によるミニ学校紹介

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