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2015/11/30(月)

リクルート進学総研所長に聞く。2020年、教育は大きく変わる!(第1回 1/2)

21世紀のグローバル社会に向けて、日本の教育は大きな転換期を迎えています。2020年より、新しい制度による大学入学者選抜(大学入試)が開始します。現在の小学校高学年の児童が大学受験をする時期に当たります。また、高校では大学新入試に先立つ2019年より、「高等学校基礎学力テスト(仮称)」が導入されます。

国ではどのような教育改革が進行しているのでしょう。大学新入試とはなにか、そして、高校の基礎学力テストとはどのようなものでしょうか――改革のねらいと具体的な内容、今後の展望について、現在、文部科学省・高大接続システム改革会議の委員を務め、国の教育改革に携わっている、リクルート進学総研所長・小林浩氏にお話をうかがいました。

生徒に知識を与える「input」の教育から、生徒自ら「outcomes=学習成果」を得る教育への転換

Q.大学新入試に向けて、どのような教育改革が行われていますか?

初めに、国では現在、「高大接続改革」を進めているところです。高校と大学の教育全体にかかわる改革を行っており、大学入学者選抜の改革だけを行っているのではありません。

明治以来の教育を振り返ると、日本は欧米先進国をモデルとして、そこに追いつくための、キャッチアップ型の教育を行ってきました。学校の授業ではまず「正解」があり、きちんとそれを覚え、正しく答えることが求められてきたのです。

日本はすでに先進国となり、これまでのキャッチアップ型の教育はそぐわなくなっています。
時代も大きく変わり、急速にグローバル化が進展しています。多様な価値観、異なる状況が世界に同時にひしめき、そこに「正解」というものはありません。「答え」のないさまざまな問題に対して、主体的にチャレンジすることが求められているのです。

こうした状況のなか、国では「確かな学力」の育成として、次の「3つの重要な要素」を掲げ、学校教育法に定めています。
「基礎的な知識及び技能」
「これらを活用して課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力その他の能力」
「主体的に学習に取り組む態度」


高大接続システム改革会議の「中間まとめ」(2015年9月15日)にも、「学力の3要素」として次のように示しました。
(1)十分な知識・技能
(2)それらを基盤にして答えが一つに定まらない問題に自ら解を見出していく思考力・判断力・表現力等の能力
(3)これらの基になる主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度


すでに学校では、「学力の3要素」を育成するための取り組みが始まっています。そして、今後さらに学校教育は変わっていきます。
それを一言でいえば、先生中心の授業によって生徒に知識を与える「input」の教育から、生徒が中心となって学び、自ら「outcome=学習成果」を得る教育への転換です。これを文科省では「入学の国から卒業の国へ」と表しています。入学がゴールではなく、卒業がゴールです。

高校や大学では、生徒・学生が主体的に人々と協力して問題を発見し、解決する能動的な学びである「アクティブ・ラーニング」が推進されます。
そして、生徒・学生は、高校や大学で何を学び、どのような成果を得たのか、つねに自ら理解していくことが重要になります。卒業というゴールに向けて、主体的に学ぶ必要があります。特に大学では卒業認定を厳格化し、学生はそれぞれ卒業に必要な要件を満たさなくてはいけません。

学力評価テストは、特に「思考力・判断力・表現力」を問うものとなる

Q.新しい大学入学者選抜(大学入試)と、「学力の3要素」とのかかわりはどうなりますか?

大学入学者選抜では、「学力の3要素」、①知識・技能、②思考力・判断力・表現力、③主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度――の3つについて、多面的・総合的に評価するものとなります。

具体的には、主に次の評価方法を示しています。

(ア).大学入学希望者学力評価テスト(仮称)
(イ).自分の考えに基づき論を立てて記述させる評価方法
(ウ).高校時代の学習・活動歴(調査書、活動報告書、検定試験の結果等)
(エ).エッセイ、大学入学希望理由書、学修計画書
(オ).面接、ディベート、集団討論、プレゼンテーション

ア. 大学入学希望者学力評価テスト(仮称)(以下学力評価テスト)は、現行の大学入試センター試験に代わるものです。大学では、それぞれのアドミッション・ポリシー*に基づいて、上記のいずれかを組み合わせて選抜を行うことになります。

*「学力の3要素」について、各大学で具体的にどのような能力をどのレベルで求めるのかを明確にしたもの。

学力評価テストは、「学力の3要素」のうち、「知識・技能」に加え、特に「思考力・判断力・表現力」を問うものとなります。具体的な内容は検討中ですが、たとえば文章や資料、実験・観察結果などを整理・分析し、そこから問題発見や、定義付け、仮説、推論などを行い、考察を述べる、改善策を提案するといった出題が考えられます。

また、一つの教科内で収まる問題だけでなく、選択問題などでは他の教科・科目との関わりを意識して答えるものもあります。英語はライティングやスピーキングを含む4技能を重視します。
学力評価テストは、年複数回実施し、大学志望者にチャレンジの機会を増やします。

さらに、2024年からは、次の学習指導要領に対応し、複数の教科を合わせたテストとして、数学と理科の総合型テストなどの実施が考えられます。また、コンピュータを用いたテストも検討しています。コンピュータを活用することで、テストの難易度をより柔軟に幅広く設定することが可能になり、たとえば上位大学の志望者は難易度の高い問題に取り組むなどが考えられます。

基礎学力テストは学校単位が基本

Q.2019年より開始する「高等学校基礎学力テスト(仮称)」とはどのようなものでしょうか?

その名のとおり、高校生が身につけるべき基礎学力を、確実に育成することが大きなねらいです。「学力の3要素」のうち、「知識・技能」を問う問題が中心となり、範囲も主に高校1年、または2年で履修する基礎的な内容です。どれくらい基礎学力が身についているか、生徒が自分で確認するためにテストを活用し、各自の学習計画に役立ててほしいと思います。また、学校でも、このテストの結果を、授業などの改善に役立ててほしいと考えます。

高等学校基礎学力テスト(以下基礎学力テスト)は、高校2年および3年で実施し、それぞれ年2回受検できるようにします。評価も点数そのものに目を向けるのではなく、10段階以上のきめ細かい段階評価を予定しています。
2019年~2022年は試行期間として、国語・数学・英語で実施します。2023年より、地理歴史、公民、理科なども加わります。

ただし、高校は義務教育ではなく、卒業後の進路も多様です。そこで、基礎学力テストは義務ではなく、高校単位で実施し、希望があれば個人でも受けられます。国としてはできるだけ多くの学校、高校生に参加を促していきます。
また、将来はさらにコンピュータを活用したテストを考えており、そうなれば年間の実施回数なども、もっと柔軟に設定できるようになるでしょう。

基礎学力テスト導入の背景には、高校生のなかには基礎学力不足や、学習意欲の低下が見られること、少なからぬ大学が高校レベルの内容の補習を行っていることなどがあります。また、少子化により入学定員に満たない大学が増えるなか、学生確保の手段としての推薦入試・AO入試の入学者が増加していることも挙げられます。

< 小林浩氏 プロフィール >
1964年生まれ。リクルート進学総研所長、リクルート「カレッジマネジメント」編集長。リクルート入社後、大学・専門学校の学生募集広報などを担当。経済同友会に出向し、教育政策提言の策定にかかわる。文部科学省「大学ポートレート(仮称)準備委員会」委員(2012年~2014年)、同省中央教育審議会高大接続特別部会臨時委員(2012年~2014年)など、文科省の推進する教育改革に携わり、2015年より高大接続システム改革会議委員

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