私立中学

女子校

じょしびじゅつだいがくふぞく

女子美術大学付属中学校

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デジタルパンフレット

スクール特集(女子美術大学付属中学校の特色のある教育 #6)

互いの個性を認め合い、大好きな美術をイキイキと学ぶ

日本で唯一の美術大学の付属校である同校。さまざまな分野で活躍する卒業生も多い女子美の魅力はどこにあるのだろうか。

個性豊かな生徒が多いと言われるが、どのような生徒が、どのように学び、どのような力を身に付けて卒業するのか。女子美愛にあふれる3名の先生に話を聞いた。

<お話を聞いた先生>
奥野 惠子先生 副校長 体育教諭(勤続42年目)  
岡田 洋介先生 中1年担任 社会科教諭(勤続24年目)
大内 優子先生 中1年担任 国語科教諭(勤続21年目)

▶︎写真左より:大内 優子先生、奥野 惠子先生、岡田 洋介先生

変わらない女子美の良さとは

今も昔も変わらず、個性ある美術好きが集結

「毎年、美術の大好きな生徒たちが入ってきます。美術の好きな生徒たちは感性豊かな子が多いですね。女子美の生徒は何かを見たり聴いたりしたときに深く感じることができ、『好きなもの』をしっかりと持っています。集団の中でもみんなと同じではなく個々のカラーを、躊躇なく出しています。周りが寛容だから素直に自分を出せるのでしょうね。お互いの個性を認め合いながら生活しています。そこは変わらないところですね。」そう話すのは副校長の奥野先生だ。赴任した頃は中身も見た目も個性的な生徒が多かったという。「制作する作品は自分の根底にあるものを表現することです。自分としっかり向き合い自分をさらけ出すことになります。美術の授業では生徒の個性をつぶさないようその生徒が何を伝えたいのか、何を強く表現したいのかということを教員がくみ取り、作品作りをサポートします。『ものを創る楽しさ』『思い通りのものが完成したときの喜び』その逆もあります。『何もないところから始める苦しみ』『思い通りにならない悔しさ』同じ経験をし感情を共有できる『仲間』がいて、大好きな美術を続けられる環境が整っています」

生徒にとって女子美は、個性を隠す必要がなく言いたいことが言える居心地のいい場所。彼女たちにとって、本当の自分が出せるというのはすごい発見なのだそうだ。「小学校ではずっとヘンだ、ヘンだと言われていたけど、この学校に来たらみんなヘンだった。」といった生徒もいたそうだ。

ユーモア、優しさ、成功への熱意

24年前、赴任した当初に大きな衝撃を受けたという岡田先生は、こう話す。
「変わらないのは、ユーモアがあり優しい生徒たちが多いということです。私は4月生まれなのですが、赴任してすぐの4月に、サプライズがありました。高3の授業で教室に入ったら真っ暗で、何だろう? いたずらか? と思ったら『ハッピーバースデー』。嬉しかったですね。サプライズ好き、楽しいこと好きなんですね」

「また、女子美祭や運動会など、イベントやプロジェクトを成功させようという熱意、パワーがすごい。女子美祭は全クラス出られないんですね。中高あわせて27クラス中、例年は13~14クラス、今年はコロナ対応で7~8クラスしか出られません。参加の可否は学年関係なしに各クラスの生徒会に対するプレゼンの優劣で決まります。どの学年も必死になってやっています」

他人を認める風土、ゼロから1を作り出すパワー

また、大内先生は、たくさんある変わらない良さについて次のように話してくれた。
「変わらない良さをあえて2つ挙げるとすれば、ほかの人を認めることが上手だということです。言い換えると、人の長所を見つけるのが上手。その根本にあるのは、それぞれにこだわりの強さや好きなものがある、ということなんだと思います。必ず自分に好きなものがある。だから相手にも好きなものがあって当然だろう。そういう考え方が既にあって、好きなものが違ったとしても、お互いに好きなものを大事にしようという、そういう空気は私が赴任したときからあって、ビックリしました」

「例えば、展示されている作品を教員が見ていると、『先生、〇〇ちゃんはここがすごいんだよ』とか『こういうところがほかの人とは違う』などと友達のいいところを教えてくれる。クラスの中でも、こういう役割はこの子が上手、こういうところではこの子に出番があるというように、それぞれの見せ場があり、それぞれが自分の力が発揮できるところで発揮していける。それをまた、周りも認めているというところは変わらないです」

これは美術の授業の影響が大きい。授業では、作品が仕上がると本人にプレゼンをさせ、頑張ったところや大変だったところ、好きなところなど、絵に対する思いを発表させる。教員はみんなの作品のいいところを少しずつ自然にさりげなく褒め、アドバイスをする。上手くなりたい気持ちが根底にあるので、生徒はプレゼンをよく聞き、人の作品の講評も先生の言葉一つひとつを聞き逃さないよう真剣なまなざしで聞いているという。そんな授業が、自然と他人の良いところを見つけることにつながっている。

「もう一つは、何もないところから何かを生み出す力がすごいということです。0を1にするのはものすごくエネルギーが必要です。でも、それをやりたいと思っている生徒が多い。それが、行事にかけるエネルギーというところにつながり、女子美全体のパワーにつながっていると思います。運動会にしても女子美祭にしても、何もないところから生徒たちみんなで知恵を出し合って作っています」

時代の流れとともに訪れた変化

強烈な個性からスマートな個性へ

変わらない良さがあれば、時代の流れに伴って、よくも悪くも変化していく部分もある。どのような部分が変化しているのだろうか。奥野先生は、こう語る。
「今の生徒達はやや控えめに個性を出すようになったと感じています。私が赴任したころの生徒は自分が思っていることをしっかり主張していましたね。携帯電話等の媒体がなかったからでしょうか、それぞれが意見を正面からぶつけあっていました。言いたいことを言ったあとはすっきり。そういう場があったからこそしこりを残さずさほど時間をかけずに収まるところにおさまっていました。最近は、お互いがお互いを早い時期から認め合い自分の意見を無理に押し付けず、近すぎず、遠すぎず上手に距離をとっているようです。世の中の流れなんでしょうね、スマートに付き合っていますよ」

デジタルネイティブの新しい表現方法

岡田先生は、時代の変化を次のように語った。
「アイデアを出すところは昔と変わらず、さすがだなと思います。例えば女子美祭でいうと、去年はコロナで中止も検討されましたが、保護者と生徒限定で実施しました。ただ、例年のようにお客さんと接するようなものはできないので、実施するのであれば動画で撮影して教室で上映するなど、条件を付けました。実際どうなるか心配でしたが、そういう厳しい条件の中でも、管弦楽部にしても、バンドをやっているクラブにしても、本当に上手に映像を使って実施していました。デジタル関係は、生徒のほうが断然上手だなと思いますね。高校3年生の現代社会を担当していますが、授業でもiPadをうまく使いこなし、発表用のプレゼン資料を作成しています。中1は、iPadを一人一台持っていますが、やっぱり小学校で慣れていて、私たちが心配する必要がありません」

お互いの意見をミックスして、新しいものを作り上げる

そして、大内先生も生徒たちがスマートになったと感じている。
「少し前の女子美生は、こちらがブレーキを掛けないと、どこまでも行ってしまうような爆発的な力がありました。ちょっとくらいルールからはみ出しても大丈夫じゃない? と先生方の知らないうちに始めてしまい、慌てて止めに入るということがありました。でも、最近は決まりを守ることが前提にあり、周りを見ながら自分たちで判断しているような気がします。
もう一つ感じるのは、以前は話し合いをしていて、キラッと光るいい案があるとその案が採用され、案を出した子が引っ張っていく、というようなことが多かったのですが、最近はできるだけ多くの意見を生かして、新しい案を作ろうとすることが多くなりました。みんなのいいところを融合させた新たなひとつをつくり出す、という方向に変わってきていることを強く感じます」

「よく見る」ことで磨かれる感性

「心をこめてものを観る」ということ

ものを創り出す発想や感性はどこから来るのだろう。奥野先生に聞いた。
女子美の元校長で画家の入江観先生が「心をこめてものを観なさい。」とよくお話しされていました。「たくさんのものをみて感動しなさい。そうすると心が豊かになり引き出しがたくさんできて、いざ自分で何かをつくろうしたときに、いろいろな引出しから取り出すことができます。感性の原点は日常生活の中にある何気ないものに眼を向けて表現につなげる『特別な自分の眼』を育てることです。」だから、生徒たちは本当によく観ています。玄関に入ってすぐのエントランスやプチギャラリー、階段に展示してある先輩や同級生、後輩の作品にじーっと見入っています。まさにそれらの絵が自分にとっての先生なんですよね。展示されている先輩の作品を観て、「どうやったらこの表現ができるのだろう。」と熱心に観察しています。逆に発想が素晴らしい後輩の作品に感動している上級生をしばしば目にします。これこそ教員の一言に勝る力を感じる時です。

人と違うことが一つのアイデンティティ

岡田先生は全校スケッチ大会の話をしてくださった。
「去年はコロナ禍で外に遠足などに行けなくなりました。毎年、外でスケッチをしていましたが、今年は行けなかったので、全校スケッチ大会を開催しました。校内の自分の好きな場所を描くんですけど、そこを描くの? とびっくりするようなところを描いていましたね。例えばコンセントとか、水道の配管とか。個性的な生徒たちが集まっているからこそ、人と違うほうがいいという感じがあります。みんなと同じ絵になったらやっぱり…というところがあるのでしょう」

学びが感性を育む「知性が感性を支える」学び

一方、大内先生は様々な教科の学びが感性につながっていると言う。
「本校の高等学校は普通科です。意外に感じられるかもしれませんが、美術以外の教科の学びが感性を支えているんです。本校では「知性が感性を支える」というのが一つのキーワードとなっているのですが、いろんなものを見て、聞いて、感じたものすべてが自分の感性を磨いて、新しいものを生み出す視野を広げるのです。発想は自分の中にあるものだけを自分勝手に発散するだけでは駄目で、それをどのように出したらいいか、どのような広げ方をすればいいかは、やっぱりいろんな物事も見つめたり聞いたりして吸収することから、また深まっていく。本校には、そういう環境が整っているのです」

「好き」があるあるからこそ、強くなれる

ところで、女子美の卒業生は様々な方面で活躍している。アーティスト、デザイナー、通訳、映画監督、大学教授etc.その原動力は何なのだろう。岡田先生に聞いた。
「好きなことをやっている強さなのではないでしょうか。美術の時間は、もちろん授業ですが、授業というよりは好きなことをやっている、自分たちのやりたいことをやっているという部分があります。もちろん、高校生になったら好きなことばかりではなく、卒業制作などかなり大変になってきます。だけど、やっぱり根底には『好き』というのがあると思います」

「この間、講演会をしてくれた卒業生がいるのですが、彼女はプロのマジシャンなんです。一流のマジシャンで、テレビでマジックの指導などもしています。高校のときから、文化祭で担任の先生を箱の中に入れて剣で突き刺すようなマジックをしていました。好きなことを続けて、実際にプロのマジシャンになったわけです。中学のときは、すごかったですよ。木に登ったりするなど、不思議なところもありました(笑)。彼女だけでなく、多くの生徒が美術という好きなものを続けて、その得意分野を仕事に繋げていく。それが、本校の卒業生の活躍の場が広がっている根底にあるのだと思います」

ぜひ、生徒のイキイキとした姿を見てほしい

同校にはファンも多く、毎年のように女子美祭や学校説明会に訪れる子どもや保護者がいるという。女子美祭で見た作品に憧れ、いつか、自分もあんな絵が描きたい、こんな女子美祭に参加したい、と思って受験する子たちも多いそうだ。そして、生徒たちのナマの姿に触れられるこれらの機会は、女子美の良さを知る一番の機会だと先生方は言う。

「今、中1の担任をしていて、保護者の方や生徒本人に女子美を志望した理由を聞くと、『学校に実際に来た時に、ものすごく楽しそうだった』『とにかく生徒が楽しそうでした』という言葉をたくさん聞きます。女子美祭や学校説明会などで学校に来た際に、とびっきりの笑顔で楽しそうにやっている生徒たちを目の前で見られるというのはやっぱり大きいのでしょう。どんな言葉で語るより、見ていただくのが一番です。生徒が実際にこの学校で生活している様子を見てほしいと思います」と大内先生が言えば、岡田先生も同意する。

「定番かもしれないですが、やはり、見ていただきたいのは生徒です。自分をちゃんと出しているというか、抑えていないというか、のびのびしているというのは確実にあります。生き生きとしている姿を見てほしいですね」

今はコロナ禍で女子美祭の開催がどうなるか未定だが、ぜひ、学校説明会やその他のイベントに参加して、女子美の魅力をご自身の目で確かめてほしい。

今までの自分を超える、はるかに強い自分になれる

最後に、「女子美で学んだこと」について、高校3年生の作文の一部を紹介しよう。

「(前略)女子美の生徒は一人一人の持っている色が強すぎて、理解できない時がしばしばありました。しかしそれは、多種多様な個性に出会う機会に恵まれたということです。個性を生かすも殺すも自分次第だということが、高3の卒業式を目の前にしてわかりました。強い個性がぶつかり合うとつらいものがあります。逆に、その個性を自分に生かすこともできました。いろいろな個性を持った友達の作品は独創性にあふれていて、とても刺激になりました。それぞれ違った趣味や特技を持った仲間が集まり、お互いに認め合い、創造して何かのときには協力し合う。私が高校1年生のときに感じた『何かが違う』その答えが見つかりました。作品をつくる、何もないところから何かをつくり上げるのはとても孤独な作業で、そう簡単にはできません。何度も壁にぶつかりました。しかしそれを乗り越え、作品ができたときの達成感はひとしおです。想像していたこともない喜びを手にすることができました。女子美で様々な経験をしたおかげで、今までの自分を超える、はるかに強い自分が生まれ、まだまだ男女格差が残る中でも、強く生きていける精神を培うことができました。(後略)」

女子美の生徒たちは「思春期」という人生の通過点を精一杯過ごして「何か」を手に入れて卒業していく。
在学中の生徒たちも先輩たちがかつて過ごした環境の中で同じような経験をしながら強く豊かな心を育てて後に続くことだろう。

<取材を終えて>
高校3年生の書いた作文が、すべてを言い表しているのではないだろうか。産みの苦しみを経験し、自分の「好き」を大事にしながら、お互いの個性を認め合う。だからこそ、確固たるアイデンティティが生まれ、強く、しなやかに、世の中を生き抜いていく力が身につくのだろう。そして、それを可能にしているのが、女子美の教育なのだと強く感じた。

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